第281話:伊賀グラ

「えっと・・・ショウさん、この人は??」


翔が猫カフェで伊賀グラと名乗る男と出会った翌日の日曜日。

社会科研究部の部室にいる見知らぬ男の姿に気付いた聡太が、翔へと問いかけた。


「んー?昨日とある所で出会った忍者だよー。仲良くなって話してたら、どうしてもここに来たいってお願いされてねー。今日はノリさんが風邪ひいて休みだから、断ったんだけどねー」

翔は、そう言いながら苦笑いを浮かべていた。


「伊賀グラだ。よろしくな!」

グラはそう言いながら、聡太へと手を伸ばした。


「あ、甲賀ソウです」

聡太は律儀に差し出された男の手を握りながら、そう返していた。


「ん?君の懐から、何やら不思議な忍力がでているね?」

「え?あぁ、実は具現獣の卵を――――」


「だぁーーーっ!!セーフっ!!!」


その時、重清が叫びながら部室へと走り込んできた。


「セーフ!じゃないわよシゲ!思いっきりアウトよ!もう皆揃ってるんだからね!今度遅刻したら、置いていくわよ!」

息を整えている重清に、茜が大声をあげた。


マヤ「ったく、重清は相変わらずね」

ケン「いつものこと」

シン「おい、なんでケンが俺より先にしゃべってんだよ。いつも大体ノブの後じゃん!そして何を当たり前のように仲良く麻耶さんと並んで座ってんだよ!?」

ノブ「はっはっは!あれ以来、すっかり距離が近づいてるじゃないか」


本日は休日ということもあり、島田さんは図書室にはいない。

もしもいたならば、とっくに部室へと島田さんが怒鳴り込んでくるほどの、騒がしさであった。


2中忍者部は今日も、平常運転なのである。


「あれ?この人、誰??」

重清は、汗を拭きながらグラへと目を向けた。


「二度手間だよっ!!お前が遅刻して来たんだから説明は無し!ショウさん、さっさと行きましょうよ!」

重清につっこみつつそう言った恒久が、ドカドカと掛け軸の向こうへと歩いていき、残された一同も重清をチラリと見てため息をついてから、掛け軸の向こうへと消えていった。


「えぇー・・・」


その場に残された重清は、そう呟きながら忍者部の部室へと進んでいった。



「あっ、急いで来たから、あいつ等出すの忘れてた」

忍者部の部室へと入って来た重清は、そう言ってプレッソ達を具現化した。


「おい重清!お前オイラ達のこと完全に忘れてただろ!?」

「悪ぃ悪ぃ。ここ来るのに必死でさ」

重清は悪びれもせず、笑ってプレッソに返していた。


「・・・・・」


そんな重清達の様子を、伊賀グラはじっと見つめていた。


「ほらー。ぼさっとしてないで、早く行くよー」

ショウが

言いながら部室の扉を開き、忍者部の面々はその先へ続く森へと進んでいった。


「よし、おれらも行こうぜ、ソウ!」

最後に残った重清が、ソウへと声を掛けて森へ出ようとすると、重清の目の前で扉が閉じられた。


「うわっ、危ねえ!ちょ、お兄さん、いきなりなにするんだよっ!!」

重清は、扉を閉めたグラに抗議した。


「悪いな。少しお前と話がしたくてな。ついて来い」

グラはそう言うと、再び扉を開いた。


その扉の先にあったのは、いつもの森ではなかった。


ただなにもない、荒野がそこには広がっていた。


グラの後に続いてその荒野へと足を踏み入れた重清とソウ、そしてプレッソとチーノ、ロイに向き直ったグラが、口を開いた。


「知ってたか?あの扉は、いくつかの行き先を選択できるんだ。しかも、他のヤツが先に別の場所に行った場合、その後にそことは別の場所を選択すると、先に入った奴らとは隔離されちまう」

グラは、笑いながら重清へと言った。


「いや、初めて知ったけど。それよりお兄さん、おれ達に何の話があるのさ?」

グラに不審な目を向けるソウとチーノ、そしてロイとは裏腹に脳天気な顔をグラへと向けている重清が、周りをキョロキョロしながら言った。


「なぁに、そんなに難しい話じゃないさ。

お前の具現獣、俺によこせ」



同時刻のノリ宅では。

現在発熱中のノリが1人寂しくベッドで横になっていた。


「こういう時、独身の寂しさを痛感するな」

そんな、悲しい独り言とともに。


その時、ノリのスマホが独身男の部屋に響いた。


「はい」

『あ、ノリさん。今大丈夫ですか?』


「大丈夫じゃねーよガク。こっちは熱出して寝てんだよ」

ノリは不機嫌そうに、電話の先のガクへと言った。


『風邪ですか?後でお見舞い行きましょうか?』

「何が悲しくて、野郎にお見舞い来てもらわなきゃいけないんだよ。それよりなんだ?用がないなら切るぞ?」


『いやいや。用がなきゃ、こんな口の悪い先輩2連絡しませんから』

「切るぞ」


『あー!待って待って!ほんとに用があるんですって!』

「じゃぁさっさと話せ。俺は今日中にこの風邪を治さなきゃいけねーんだよ」


『はいはい。じゃぁ手短に話します。忍ヶ丘市の付近で、『具現獣狩り』が目撃されたそうです』

「あぁ、他人の具現獣盗んでるってヤツか」


『ええ、そいつです。一応、重清君と、あともしかしたら聡太君も具現獣が狙われる可能性があるので、注意してください』

「いくらあの馬鹿重清でも、そう何度もトラブルに巻き込まれはしないだろ」


『それでもですよ。今日は部活は?』

「あぁ、今日はショウに任せてる」


『ショウ君が付いているなら安心ですね。じゃぁノリさん、一応気を付けておいてくださいね。あと、風邪、お大事に』

「人の心配をおざなりに言うな・・・って、切りやがったよ」

ノリはそう呟いて、スマホを枕元へと置いた。


(具現獣狩り、ねぇ。ま、大丈夫だろ)

ノリはそう考えて、1人寂しくベッドへと横たわった。


あの馬鹿重清が、またしても騒動に巻き込まれているとも知らずに。

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