第257話:いつもの決着

「ま、麻耶さん!?」

麻耶の突然の忍者部辞める宣言に、ケンが驚きの声を上げた。


((あ、ケンめちゃくちゃ驚いてる))


不断寡黙なケンの叫びに、シンとノブは友の驚き具合に驚いていた。


こいつ、こんなに驚くことあるんだ〜、と。


その時。


「ちょっとその話、待ってもらおうかね」

掛け軸の方からそんな声と共に雅が姿を現した。


(ちっ。現れやがったか)

その姿を見たノリが、内心舌打ちをして雅を見据えていた。


そんなノリの視線を無視して、雅は麻耶を見つめた。


「麻耶。あんたここ辞めて、どうするつもりなんだい?」

「どうって、おばあちゃんに弟子入りするわ」

麻耶は、雅を見つめ返してそう返した。


「「・・・・・・・」」


しばし見つめ合う祖母と孫の姿を、その場の一同はただ黙って見守っていた。


やがて雅が、フッと笑みを浮かべた。


「お断りだね」

雅は、そう麻耶に言い放った。


「お、おばあちゃん!なんでよ!?」

「なんで、だぁ?麻耶。あんた一度ならず二度までも、忍者部を辞めようってのかい?そんな中途半端なやつが、あたしの弟子になれると本当に思っているのかい?」


「ぐっ・・・」

雅の言葉に、麻耶は押し黙ってしまった。


「まぁ、ケン君のために言ったことだろうから、あんたの全てを否定するつもりはないさ。ただね、辞める以外の選択肢も、ちゃんと考えたのかい?」

「・・・・」


「ふん。どうやら、考えてはいなかったようだね。まったくあんたは。感情的になるとすぐこれだ。一体誰に似たんだろうねぇ」


(アンタだよっ!!)


ノリは、イライラしながら心の中でつっこんでいた。


「ノリ」

「はひっ!!」


心のつっこみをしていたノリは、突然呼ばれたことで焦って変な声で返事をしていた。


「麻耶の辞めるって話、無かったことにしてもらっていいね?」

「え、えぇ。それは構いませんが・・・しかし、交際をみすみす見逃す訳にはいきませんよ?」


「それも見逃すってわけにはいかないのかい?」

「し、しかし。麻耶はまだ15歳でしょう?15歳といえば、まだ子ども―――」


「あたしがあの人と出会ったのも、15歳だったねぇ」

「っ!?」


ノリの言葉を遮るように言った雅に、ノリは言葉を失った。


「まさかあのノリが、あたし達の出会いを否定するのかい?」

ニヤリと笑う雅に、ノリは肩を落として、


「わ、わかりました・・・」

そう、絞り出すように言った。


「ついでに、いい加減その部内恋愛禁止ってのも辞めちまいなよ」

「いや、しかし・・・彼らはまだ子どもです。それなのに付き合うなどと・・・」


「いい加減にしな!」

雅が、ノリに拳を振り下ろして叫んだ。


「恋ってのはねぇ、人を成長させるんだよ!?あんたら教師が、生徒の成長を邪魔してどうするのさ!?」


「じゃぁ言わせてもらいますけど!恋ってのの全てが、そんなに良いものばかりではないでしょう!?

傷付くこともある、場合によっては相手を傷付けてしまうことだってある!

教師として、それを見過ごす訳にはいかないんですよ!!」


ノリが、初めて雅へと反論した。


「あんた。そりゃ逃げてるだけじゃないのかい?」

「なっ・・・・」


「教師ってのは、生徒を過度に守るもんなのかい?そりゃ、恋すれば傷付くことだってあるさ。そんなときに、あんたら教師や、あたしら大人が、ちゃんとフォローしてやることこそ大事なんじゃないのかい!?」


「そ、それは・・・・」


「まぁ、直ぐに結論を出す必要はないさ。じっくり考えてみな」

雅はそう言って、部室を見回した。


「それにしてもノリ。なんだか楽しそうなこと、やってるじゃないか」

雅が、突然話題を変えてきた。


「・・・・・・・・」

ノリは、またしても沈黙した。


その額からは、大量の汗が流れ出していた。


「ノリ。あんた、報告を受けた生徒たちを、どうするつもりだったんだい?」

そう雅に見据えられるノリは、そっと雅から視線を逸していた。


「あんたねぇ。いい加減、自分が結婚出来ない鬱憤を、生徒にぶち撒けるのやめないか、まったく」

そう言って雅は、ノリの首根っこを掴んだ。


「こんな馬鹿な課題を課したアンタには、たっぷりとお仕置きが必要なようだね」

「えっ、いや、ちょっ!だ、誰か助けて!!」


ノリの救いを求める声に、忍者部の中から手を差し伸べる者など出るはずもなく。


「いや、いやだぁーーーーっ!!おいお前ら、助けて―――」


その言葉を残して、ノリは掛け軸の向こうへと引きずり込まれていった。


その直後、掛け軸から再び頭だけを出した雅が、


「そういうわけで、今回の課題は無かったことにしておくれ。それから、重清!」

掛け軸から生える頭が、重清を睨みつけた。


「あんたは、1週間あたしの修行だよ」

「はぁ!?」


これまで完全にモブと化していた重清が、叫んだ。


「ちょ、ばあちゃん!なんでだよ!!課題はナシになったんだろ!?」


「重清、あたしが見てなかったとでも思っているのかい?あんた、自分と美影の話をネタに、他人の恋の情報を買ったね。そんな腐った根性、一度叩き直してやるから覚悟しとくんだね!!」

そう言った雅は、そのまま掛け軸の向こうへと消えていったのであった。


「えぇ・・・・・」


重清は、肩を落としてそう呟いていた。


そして、怪しい情報ながらもノリに報告をあげていたシンと恒久は、雅の課題無かったことにする宣言に心から安堵していた。


ちなみに、ノブも同じく不確かな情報をノリにあげてはいたものの、罰である『異性と1週間話せない』ことを特に気にしていなかったため、彼だけはケンの告白の結果に、満面の笑みを浮かべているのであった。


その後、重清自身が長宗我部へと語った美影との出来事キスは、クラス中の男子の耳に入ることとなり、重清はクラスメイトから、散々問い詰められることになるのであった。

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