第459話:允行の独白 前編
あの日私は、父の、そして友のもとを去った。
あれが正しいことであったのか、それは未だに分からない。
去ったことを後悔していないと言えば嘘になるが、あのままあの場に留まっていたら私も、そして彼らにとっても良くないとも思う自分がいたのだけは確かだった。
彼らの元を離れた私は、それでも父の言葉を信じ、己の力を磨き続けた。
力を磨きながらも私は生きる為に、時折少ない銭で依頼を受けていた。
自身の力を試すためでもあった。
ある日、ほんの少しの油断で、私は瀕死の重傷を負った。
これが、草であり師の目指す忍者というものだと思った。
少しの油断で、簡単に命を失う。
そんな危険な依頼を受けながらも、少ない銭しか貰えない。
草達はそれで満足しているようだが、やはりそれはおかしいと思った。
父の、師の目指すものは正しいのだとも。
しかし、もはや私には父の理想を叶えることなど出来ないと、私は失意に埋もれながらも傷を負った体で逃げた。
気が付いたら小さな泉に辿り着いていた。
水面に映る私の顔は、どんな表情をしていただろうか。
ただ覚えているのは、心を埋め尽くすほどの絶望であった。
死ぬことに、絶望していたのではない。
父の、師の理想を現実のものとすることなく倒れることに、絶望していたのだ。
その時、私の体からあの黒い力が溢れてきた。
私だけが発現した、あの力が。
この力のお陰で、私は彼らの元から去ったというのに、結局私に残ったのはこの力だけかと、私は小さく笑っていた。
父から授けられたこの力に抱かれて死ぬのも一興か。
そう思っていた私であったが、いくら待てども私は死ぬことはなかった。
むしろ痛みは引き、体が軽くなったようであった。
不思議に思った私は、刀を受けた腹へと手を当てていた。
既に乾いた血が着物を赤黒く染めていたが、その奥には傷はなかった。
あるはずの傷が、だ。
不思議に思いながらも傷を探した私は、ふと顔を上げた。
水面に映るのは、間の抜けた表情を浮かべる私の顔だけであった。
いや、その頭上には、先程は見当たらなかった文字が浮かんでいた。
不老不死
どうやらその文字は、私のあの黒い力が作り上げているようであった。
それまで何の反応も見せなかった黒い力が、突然そのような文字を作ったことに私は驚いていた。
傷が癒えたのは、この力の影響だというのか。
そんな疑問が私の頭を駆け巡った。
とにかく、父の元へ戻ろうと思った。
父ならば、この力のことも何か知っているかもしれないと考えたからだ。
父の元を去ってもうすぐ5年と半年になる頃のことだった。
あと半年もすれば、弟弟子達も父の元へと集まることになっていた。
きっと弟弟子達からは、どの面下げてと責められる、そんな気がしていた。
特に
だからこそ、その前に一度、父の元へと戻りたかった。
私はすぐに、父の元を訪れた。
懐かしい洞窟の中で父は、
弟弟子達の仕業ではないだろう。
父はおそらく、病で死んだのだ。
私は1人、涙を流しながら父の骸を埋葬した。
弟弟子達を待つことも考えたが、それは出来なかった。
結局私は1人で、この力と向き合うことになったのだ。
この5年で弟弟子達もそれぞれに家族を作り、独自の組織を作り上げているということは調べていた。
おそらく、父の理想を叶えるため、2人は別々の道を選んだのだろう。
丞篭だけは、その足取りが分からなかった。
丞篭を探すことも少しは考えたが、索冥達のことを思うと、それも気が引けた。
なぜだかは分からなかったが。
結局私はまた、1人で生きることとなった。
それから何年もするうちに、やはり私のこの黒い忍力には不老不死の力があることが分かった。
それが私だけの力なのかは、分からなかった。
この黒い力は、私しか発現していないのだろうか。
その疑問は、丞篭を除く弟弟子達の死を知った何十年も後に解決することとなった。
どうやら弟弟子達の血を引く者達は、この黒い忍力を持つ者を『捨て忍』などと名付け、すぐに契約を破棄しているようだと知った。
弟弟子達がそのような指示を出すはずはなかった。
おそらく、後のものたちの判断であろう。
『捨て忍』という言葉を聞いた私は、乾いた笑いが浮かんだのを覚えている。
何故だが、私に向けられた言葉のように思えて仕方なかったのだ。
それと同時に、怒りも湧いた。
この黒い忍力の可能性を考えもせずに排除しようとする忍者達に。
そのような制度が出来てしまったからには、黒い忍力を発現する者たちとの接触は難しい。
そう思った私は、その忌まわしい制度を作り上げた忍者を監視することにした。
父の理想を理解しない者達が、あらぬ方向に進まないように。
それは、人の
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