第458話:契約の破棄
「最大の味噌とな?」
「いやその味噌じゃねぇよっ!」
始祖に華麗につっこむ恒久をよそに、重清は話し出す。
「そもそも、この血の契約ってのも、もう古いと思うんだよね。
本家の血を引いてるってだけで、なんか偉そうな感じだし」
ま、おれもその血の契約者なんだけどね、と笑いながら、重清は続ける。
「だから、この投票に参加できるのは、血の契約者を除く契約忍者だけにする。
もちろん、血の契約者も誰かと契約すれば投票は可能だけど、血の契約者同士での契約はできないようにする。
そうすればいつか、この世から血の契約者は居なくなると思うんだ。
そうなれば、みんな同じ立場になる。
ね?良いアイデアでしょ?」
重清の笑顔に、始祖も釣られたように笑みを浮かべた。
「なるほど。確かに良く考えられている。允行、どう思う?」
「わ、私は・・・」
允行はそこで言葉をつまらせる。
自身には考えも及ばなかったその方法に感心した允行ではあったが、それでも、それで本当に忍者が良いものになるのか、允行にも分からなかったのだ。
「もちろん、それで絶対に忍者が良くなるのかは分かりません。でも、ぼく達にはその方法しか思いつかなかったんです」
聡太はそう言いながら、允行を見つめていた。
「・・・・・・・」
聡太の視線を受けた允行は、しばし無言でその瞳を見つめていた。
そしてその顔に、小さく笑みが浮かんだ。
「私も、良い案であると思います」
允行そう呟いた允行の瞳は、微かに潤んでいた。
そんな允行の様子を、始祖と弟子達は静かに見つめていた。
そして、優しく微笑んだ始祖は重清達へと向いた。
「わかった。では、君達の言うとおりに―――」
「あー、ちょっと待って。あと1つ追加したいことがあるんだけと」
契約書を開いた始祖に、重清が割って入った。
「おいシゲ、他に何かあんのかよ?」
聡太からの提案は全て伝えたにも関わらずまだ何かを契約書に加えようとする重清に、恒久が訝しげな目を向けた。
「あるじゃんあるじゃん。もう1つ、大事なこと」
ニッと笑う重清は、允行へと目を向けた。
「そうだね」
重清の意図に気が付いた聡太は、そう言って頷いた。
「捨て忍制度は終わり!もしも、今後そんなことした師匠になる忍者は、金輪際忍者にはなれない!」
ツネ「なーる。確かにな」
アカ「ほんと。普段抜けてるくせに、時々ちゃんとした事言うのね」
ソウ「それが、シゲの良いところだからね」
「そう褒めるなって」
3人にそう返した始祖へと目を向ける。
「あ、もう1つあった。
もしも允行さんみたいに黒い忍力が出た人は、自分の意志で契約を破棄しても、忍者としての記憶を失わない方向で!」
「ふむ。1つ目は分かるが、2つ目はどうしてだ?
私にはその意図がわからない」
始祖は不思議そうに、重清を見つめていた。
「じいちゃんが言ってたらしいんだ。
忍力みたいな力は元々、みんなが持ってるって。
その力を、その契約書で忍力にしてるって。
そしてその力を、もしかしたら他の形で使っている人達もいるかも知れないって。魔法使いとか」
アカ「確かに、ノリさんそんなこと言ってたわね」
ツネ「言ってたな〜。ってか、その伏線をここで回収すんのかよ」
ソウ「ぼくも忘れてた。シゲ、よく覚えてたね」
シゲ「いや〜。だって、魔法使いだよ?会ってみたいじゃん」
ツネ「忍者にはいつも会ってるけどな」
口々に言う重清達に、始祖はじっと目を向けていた。
「他の形で、か」
そう呟いた始祖は、允行へと視線を移した。
「お前にも、他の可能性があったのかもしれないな。
私は、お前の可能性を潰していたのか」
「そんな事を言わないで下さい。私は、あなたの息子として生きることが出来て、幸せだったのですから」
「允行・・・ありがとう・・・」
「父上・・・」
そのまましばし、オッサン2人の抱擁を見せつけられた重清達は、なんとなく居心地の悪い思いをしながらも佇んでいた。
そして、熱い抱擁を終えた始祖は契約書を開き、
「さて。これで君達の希望通りに契約書は書き換えた。
後のことは、君達に任せよう」
そう言って、契約書を閉じた。
それと同時に契約書は、始祖の手からフッと消え、そこには始祖の荒れた手だけが残っていた。
その時。
「雑賀重清、感謝する」
允行が重清へと話しかけた。
「契約を破棄すると、父上や弟弟子達との記憶を失う。
私には、それが怖かった。しかしその心配の要らなくなった今、私はやっと、この力から解放される」
その言葉と同時に允行は自身の契約書を具現化し、それを破った。
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