第425話:雑賀平八と甲賀ゴウ

ゴウの師が平八であるという事実を聞いたその場の面々は、驚きのあまり言葉を失っていた。


「やはり、そうだったのかい」

そんななか雅は、さほど驚いた様子もなく納得したように頷いていた。


それを見たノリは、不思議そうに雅を見つめていた。


「雅様、ご存知だったのですか?」

「いや、知っていたわけではないがね。さっきあんたノリも言っていたじゃないか。他者との忍者の契約は、協会への報告義務があるって。

しかもそれ自体が契約によって定められている。

それは、ずっと昔から続けられてきたことだ。


これまで捨て忍と呼ばれる者達が特殊な力を持つことは誰も知らなかった。

あの允行が言うように、これまで現れた捨て忍たちはその全てが、契約を破棄せざるを得なかったということさ。


だったら、の忍者にはこの男との契約は不可能ということになる。

そんな不可能を可能にできるのは、あの人以外には考えられないさ」


雅はそう言って、小さく笑っていた。


「それは、確かにそうかもしれませんが・・・しかし、何故・・・」


雅の言うことに納得できる部分はあれど、それでも師である平八の行動に、ノリは混乱していた。


確かに雑賀平八であれば、どんなに不可能と思われることもやってのけるだけの力があったのは事実である。


しかしだからといって、協会を無視して何故捨て忍をそのまま契約し続けたのか。


そう頭では考えつつも、ノリにもその理由はなんとなく察しはついていた。


そんなノリの心を読んだかのように、ゴウはノリに目を向けた。


「お前もわかっているのだろう?平八様は、捨て忍という制度に否定的だった。

あの人は、儂がこの力を発現したときに、言っていた。

『私は、いつかこの制度を無くしたいと思っている。だから君は、君自身の力でこの黒い忍力と向き合い、その忍力の可能性を探ってほしい。そしていつか私がこの制度を無くそうとしたときに、言いたいんだ。

彼らも、我々に劣らない力があるのだ、と』

とな。


平八様は儂を信じ、協会に報告することもなく、そして契約も破棄せずに儂を見逃したのだ。


だからこそ儂も平八様を信じ、必死に修行を重ねた。

そしてこの『絶対無敵』の力を手に入れたのだ。


しかし、さすがの平八様でも、捨て忍制度を無くすことはできなかった。


協会長となった平八様に、多くの忍者共が反対したために、な。

儂は絶望したよ。何も知らない忍者共が、ただ昔から続いていたという理由だけで、なおもこの力を認めようとしない事実にな」

ゴウは悲しそうな表情で、悔し気に呟いていた。


「それならば何故、あなたが平八様に協力しなかったのですか!?

あなたの力を見せれば協会だって―――」

「いや、そうはならなかっただろうね」

ノリの言葉を、雅が遮った。


「この男の力はあまりにも強力すぎる。もしも同じような力を持つ者が増えれば、我々忍者の立場が危うくなると、協会の馬鹿共は考えるだろうね」

「馬鹿共て・・・いや、否定はしませんが・・・」

現協会長、六兵衛は、雅の言葉に肩を落として呟いていた。


「そういうことだ。儂は何人かの忍者の前でこの力を使ったが、誰一人としてそのことを言いふらす事はしなかった。

皆、儂の力の存在が明るみになることで、同じような力を発現する者が現れるのを防ぎたかったのだろうな」

ゴウはそう言って、落胆するように首を振った。



(あ、そっか。じいちゃんが『自分のせいかも』って言ってたのは、大将のおっちゃんを見逃したからだったんだ)

ゴウ達の会話を聞いていた重清は、平八との会話を思い出して1人納得していた。


(まったく、平八ったら。私にまでそのことを隠さなくてもいいのに)

重清の心の中での独り言を聞いていたチーノは、悲しげなため息と共にそんなことを呟いた。


(あれ?チーノも知らなかったの?)

(えぇ。平八は、時々私との意識を遮断して、色々とやっていたのよ。ちなみに、始祖の契約書に関しても、私は何も知らされてはいなかったわよ)


(でもよぉチーノ。オイラの記憶が確かなら、あいつらが黒い忍力を使ったとき、お前何か知ってる感じじゃなかったか?)

そんなプレッソの問いかけに、


(それは、あのゴウって子のことを覚えていたからよ。

あの子があの黒い忍力を発現するまでは、私も見ていたから。その直後に、意識を遮断されたけど)

そう、チーノは不服そうに答えた。


(ふむ。そのタイミングで何かを隠すように意識を遮断されれば、チーノであれば平八が何をしたのか、想像がついても不思議ではないと思うのだがのぅ)

そんなチーノにロイは、わざとらしくそう言うと、


(それは・・・)

チーノは気まずそうに言い淀んだ。


(ほっほっほ。余計な詮索じゃったかのぅ)

ロイはそう言って笑うと、そのままプレッソの頭の上で首と手足を甲羅に引っ込めた。


(え、今のって・・・もしかしてチーノ、大将のおっちゃんの師匠がじいちゃんだって気づいてたの!?)

(そうだとしたら、どうする?)

重清が驚いて尋ねると、チーノは妖艶な猫の笑みを浮かべて重清を見つめた。


(・・・・いや、別にどうもしないけどさ。

もしそうだったとしても、それで事態が変わるわけでもないし。

チーノとじいちゃんの思い出に、踏み込むつもりもないからね)

重清がそう答えて笑うのを見たチーノは、


「重清、ありがとう」

そう、小さく呟くのであった。

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