第188話:かくれんぼの天才
「ん?なんか雰囲気悪くないか?ショウ、何があった?」
社会科研究部の部室に入ってきたノリが、そう言ってショウを見る。
「いやー、僕達が来たときには、もうこんな感じでしたよー。多分、原因はあの子達かと・・・」
そう言って向けるショウの視線の先を見たノリは、
(ちっ。もう来てやがったか)
そう思いながら、笑顔で部室の中へと入っていった。
「美影様、充希様、もうお越しでしたか。お待たせしてしまって申し訳ございませんでした。隠(かくる)君も、悪かったね」
そう言って部室の隅へと目を向けるノリの言葉に、恒久は呆れたようにノリの視線を追った。
「いやいやノリさん。隠君って、そこには誰も・・・いたよ!誰かいたよ!!ってかお前、俺のクラスの転校生じゃねーかよっ!!」
その常にの言葉に、忍者部一同が一斉に部屋の隅へと目を向けた。
するとそこには、聡太よりも背が低い、坊主頭の1人の少年がぽつんと立っていた。
何故か、年老いた犬のヌイグルミを抱いて。
シゲ「ソウ、気付いてた?」
ソウ「いや、全然気付かなかった」
アカ「突然現れたわよね?」
ショウ「えー、そうかなー?あ、あの犬可愛いねー」
シン「まさに、隠るだな」
ノブ「ガッハッハ!隠れんぼなら最強だな!」
ケン「っていうか俺達、久々に喋った」
「ちょっとあなた達!いい加減に静かに―――あら、古賀先生、いらっしゃったんですね。少し、静かにしていただけますか?」
忍者部一同の騒がしい声に、島田さんが怒鳴りこんで来た直後、ノリの姿を確認した島田さんは、顔を赤らめてそう言って、そそくさと部室を後にした。
「・・・じゃぁ、続きは向こうに行ってからにしよう。美影様、充希様、よろしいですね?」
「えぇ。そうしてちょうだ―――」
「ガラガラっ!」
「ごめーーん、遅くなった!いやー、やっぱり、夏休み終わったら人が増えるわね!
制服違うから、凄く目立っちゃったわー!」
美影の言葉を遮るように、再び部室の扉が開け放たれ、そこから麻耶が笑いながら入ってきた。
「あれ?皆、どうしちゃったの?・・・・げっ!」
場の雰囲気を不思議に思った麻耶が部屋を見渡し、そう声を漏らした。
「あー、えっと。あっ!私今日、用事があったんだったわ!今日のところは、帰るわねっ!!」
そう言って慌てて部室を出ようとする麻耶の背に、美影が声をかけた。
「待ちなさい、雑賀麻耶。あなたも、ついてきなさい」
「・・・はい」
「ふんっ。じゃぁ甲賀ノリ、案内しなさい」
麻耶の返事に満足した美影は、そう言ってノリへと視線を送った。
「・・・では、こちらへ」
忍者部一同にだけわかるくらいに若干イラッとした表情を浮かべたノリは、努めて笑顔で美影にそう答え、そのまま美影達を連れて部室に掛かる掛け軸の先へと進んでいった。
「麻耶姉ちゃん、あの人達と面識あるの?」
「ま、後で話すわよ。とにかく今は、あいつらの機嫌を損ねないように急いで向こうに行きましょう」
重清の言葉にそう答えた麻耶は、肩を落として掛け軸の先へと進み、残された一同もそれについて行くのであった。
忍者部の部室へと移った一同を見渡して、ノリが話し出す。
「さて、これで島田さんから怒られることは無くなったな。もう何人かは分かっていると思うが、このお2人は、雑賀本家の方々だ。こちらが雑賀美影様、そしてこちらが美影様の双子の弟でもある充希様だ。みんな、くれぐれも失礼のないようにな!」
ノリの言葉に、1年生一同が気まずそうに顔を見合わせた。
そして、代表してツネがいつものごとく手を挙げる。
「あー、ノリさん。既にもう、失礼働いちゃってるやつがいるんだけど・・・」
「ん?それであっちで雰囲気最悪だったのか。で、重清、何やったんだ?」
「失礼っ!ノリさん失礼だ!おれと決まったわけじゃないだろ!」
「お前以外考えられないだろうが!」
「おれは別に、何もやってないよっ!」
「何もやっていないですって?甲賀ノリと言ったわね。あんた一体、普段どういう教育をしているのかしら?」
重清の言葉に、美影が怒りの表情を浮かべる。
「教育、ですか」
ノリの顔が、少しだけピクついた。
「この末席はね、雑賀家を面倒臭いと言ったのよ?」
「ぷっ!あ、失礼。重清、お前そんなこと言ったのか!?」
ノリが一瞬吹き出し、取り繕ったように怒りの表情で重清を睨んだ。
それを見ていた忍者部一同は、ノリの気持ちをなんとなく察した。
ノリも、この2人を快く思ってはいないのだと。
それに唯一気付いていない重清は、ノリの言葉に反論した。
「言ったよ!だって、なんでおれが、本家の人ってだけで同い年のやつに敬語使わなきゃいけないんだよっ!!」
「何でってお前・・・そりゃこっちのセリフだよ」
後半、誰にも聞こえないようにそう呟くノリに、またしてもツネが手を挙げる。
「このバカはいいとして、俺達もこの人達には敬語使うのか?」
「ん?あぁ、そりゃ俺を見てれば分かるだろ?本家の方々には、敬意を持って接するんだ」
「使わないとどうなる?」
「特に重清と恒久は、家の立場が悪くなるな。家系が違うとはいえ、本家にはそれくらい影響力がある」
「だから、そんなのおれには関係ないよっ!!」
「いや、それはお前が決めるとこでは―――」
ノリが困り顔で重清に言っていると、それまでじっと黙っていた美影が大声を上げた。
「さっきから聞いていれば、雑賀重清!少しは雑賀家末席であることを自覚しなさいっ!!
いいえ、あなたのようなバカでは、自覚なんてできないでしょうね。
雑賀重清!私と勝負しなさい!雑賀本家の力を、たっぷりとあなたに教え込んであげるわっ!!」
そう言って、美影は重清をビシリと指差した。
「えぇ〜、面倒臭いなぁー」
重清の呑気で心底面倒臭そうな声だけが、その場に響くのであった。
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