第85話:最終日遭遇戦 その6

なんとか全員そろった『勇者達』。


「みんな、いろいろ聞きたいことはあると思うけど、説明は後でします!とにかく、今は全力で大魔王を倒しましょう!」

合流したショウ達に向けて、重清が叫ぶ。


「マジで絶対説明しろよ!?この状況だけで、こっちは大混乱なんだよ!シンさんなんて、恐怖のあまり泣いてたんだぞ!?」

「ちょ、ツネ、それ言っちゃう!?」

「はいはい、とにかく今は、『大魔王』に集中~」


合流した3人が、思い思いのことを口にする。


どうやら、ここまで追ってこられたことはトラウマにはなっていないようである。


とにかく、なんとか全員合流することができた一同は、諸悪の根源である『大魔王』に目を向ける。


「よくぞ集まったなな、勇者達よ!妾は、大魔王、ヘハラブ様だ!いざ、尋常に勝負!」


そう恥ずかしげもなく叫ぶ雅、もとい大魔王ヘハラブ。


その体は、忍術を使用しているのか空に浮いていた。

そして右手にはワイングラスを、左手には鉛筆の刺さったリンゴを持ち、頭には手ぬぐいを鼻の下で結ぶ泥棒スタイルの『大魔王』。


初見であるショウ達は、その『大魔王ヘハラブ』の姿を見て思う。


(つっこみどころが多すぎてもう。)

と。

さすがの恒久でさえ、つっこむことを放棄していた。

それほどまでに、『大魔王』とは程遠い姿。


ギリギリ、浮いているところだけが、なんとなく『大魔王』っぽいといえばぽい。


おそらく、大魔王という単語を聞き、なんとなく調べた末の結果であろうことが垣間見える、そんな姿。


それでもなんとか、それぞれが大魔王ヘハラブに構える中、ソウが先程の重清の言葉を思い出し、レーダーに目を向けながら重清に声をかける。


「シゲ、さっきみや、じゃなくてヘハラブさんが『大魔王』を

知ってることに驚いてたよね?それって、誰かがその単語を教えた可能性があると思っていいのかな?」


「ん?あぁ、多分そうだよ。じゃなきゃ、今までのおれとの修行で、絶対この設定使ってただろうからね。」


「ってことは・・・」

重清の言葉にそう呟いたソウは、大魔王ヘハラブの後方の木に目を向ける。


「つまり、その単語をヘハラブさんに教えたのはあなたですね?」


ソウの言葉に、忍者部一同がソウの目線の先に目を向けると、

「ちっ。は、ハッハッハー、バレてしまってはしょうがない!」


そんな言葉と共に、ノリが木の影から姿を現す。

頭に、大魔王同様、泥棒スタイルに手ぬぐいを巻いて。


「わ、我こそは、大魔王様の、えっと、さ、参謀?そう、大魔王様の参謀、ノリ、じゃなくて、あー、ヘハデシだ!!」

直後、そんな大根役者ヘハデシの背後に雷が落ちる。


「ちょ、みや、じゃなくてヘハラブ様!俺ちゃんとやってるじゃないですか!!」

「恥ずかしさが全面に出ておる!妾の参謀が、そんなことでどうするのじゃ!!」


これをパワハラと呼ばずになんと呼ぶのか。

そんな光景を繰り広げる大魔王と大根参謀。

それにつっこみを入れられるほど人生経験を積んでいない忍者部一同は、ただそれを見つめることしかできなかった。


「だぁーもう!わかりましたよっ!!

いでよ、我が使い魔っ!!」

何かを捨てるようにそう叫ぶヘハデシの頭上に、ハチが姿を現す。


同じく、泥棒スタイルに(以下略)。


(ハチ、あなたまで・・・)

(ハチさん・・・)

(シロ、ではなくチーノ様、プレッソ、何も言わないで下さい。)

チーノとプレッソにそう返すハチの目には、涙が浮かんでいた。


具現獣も色々と大変なようである。


「安心しろ、勇者ども!貴様らの相手は、大魔王様お一人でなさるそうだ!我々は手を出さない!」


(だったら、何故ハチをわざわざ具現化したんだろう)

大魔王とそう叫ぶ本人以外の全員がそう思っている中、


そう言ってソウをひと睨みしたヘハデシは、大きく後方へと飛び去っていく。

後方に着地した直後、手ぬぐいを外して地面に叩きつけるように見えたのは、おそらく幻である。


「ふはははは!茶番はここまでだ!勇者達よ、その実力を見せるがいい!」

そう言って、手に持ったグラスとリンゴを投げ捨てる大魔王ヘハラブ。

どうやら、小道具はただ、大魔王っぽさアピールのために準備されたものであったらしい。


現在進行形で茶番が繰り広げられていることなど、とても口に出すことの出来ない一同は、遠くに落ちた雷と、「グギャッ」という尊敬すべき教師の声、そして大魔王から発せられる殺気に、有無を言わさずただ構える事しか出来なかった。


「えーっと。とにかく、やるしかなさそうだよ!ノブとアカは、僕と一緒に前衛!ケンとツネとシゲは、中衛で好きなように動いて!シンとソウは後衛で援護!じゃぁみんな、行くよっ!」


ショウの言葉に、一同は瞬時に思考を切り替えて、大魔王へと挑むことに集中する。


果たして、この茶番の行方は。


いやほんともう、どうでもよくなってくる。



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いつも以上に誰も興味ないであろう補足

大魔王ヘハラブは「へいはちLOVE」から。

ヘハデシは「へいはちの弟子」から。


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