第267話:コモド氏は語る

「あれ?智乃ちゃん達、このコモドドラゴンがオスなのに驚かないの?出産とか言ってるのよ?」

茜は、智乃やガクに驚きの顔のまま言った。


「あ、あぁ。いや、驚くべきところはそこではなかったからな」

ガクが、茜へと答えた。


「どういうことだ?」

恒久が、ガクを見る。


「具現獣は、子など作らんのだ」

ロイが、玲央の頭の上から恒久へと返した。


「えぇ。じゃなかったら、私だって平八の子を・・・」

智乃は智乃で、なんかモゴモゴ言っていた。


「え、だって現に、出産って・・・」

聡太は、そう言ってチラリとコモドドラゴンに目を向けた。


『出産というのは、少し語弊があったな。ただ、子を作ろうと考えているのは事実だ』

「そ、そんなことが可能なのか・・・いや、それはそれとして、先にこの森の問題を解決してはいただけませんか?そうでないと、こちらもそちらの願いを聞くわけにはいきません」

ガクは具現獣が子を作ろうとしている事実に驚きながらも、自分達が来た理由を思い出し、コモドドラゴンに、そう条件を出す。


『お主の言いたいことはわかる。しかし、そちらの気にしている問題とやらの解決には、我の願いを聞いてもらうしかないのだ』


「ど、どういうことですか?」

『ふむ。少し昔話をしようか』


「また昔話かぁ〜むぐっ」

コモドドラゴンがそう言って語りモードに入ろうとした途端にため息交じりに言い出した重清の口を、恒久が塞いだ。


「黙って聞いてろ、シゲ」

どうやら恒久は、コモドドラゴンに自身のつっこみを指摘されたことにより、明確に自分の中で上下関係が確立してしまったようである。


『なにやらゴタゴタしているようだが、話しても構わんか?』

「え、えぇ。すみませんね」

ガクがコモドドラゴンへと頷いて続きを促した。


『昔、我はある忍者の具現獣であった。その昔、我とあるじがこの村へ来た際に、何やら騒ぎが起きてな。どうやら主がその問題を解決したらしい。結局主は何が起きたかは教えてはくれなんだがな』


(うん。多分その問題の原因はあなたです)

コモドドラゴンを除いた、その場の全員がそっとコモドドラゴンへとつっこんだ。


『それから主は、この村の人々に懐かれてな。死を迎えるまでこの村で過ごしたのだ。本当ならば我も、主と共に消えゆくはずであったのだが、何故か我は消えることなくただ、主の死に際を見届けることしかできなかった。主は、死の間際に言ったのだ。この村を、守ってくれ、と』

そう話すコモドドラゴンの目は、どこか遠くを見つめていた。


語りモード奥義、遠き昔を思い出す目線、である。


『とはいえ我は具現獣。力が無ければ生きることはできぬ。しばらくは考えておった。主の頼みを聞かず、我も主の元へ逝こう、と。しかし、できなかった。主の最後の頼みを無碍にすることなど、我にはどうしてもできなかったのだ。

そこで我は、この森の木々に残り少ない力を与えてみた。

どんな生物も、力を宿すことができる、と言う主の言葉を信じてな。

この森一帯の木々に力を与えた我には、もう力は殆ど残ってはいなかった。

結局、主の願いを聞き届けることはできなかったかと諦めかけていたその時、木々から力が溢れ出したのだ。

我は、その木々の力に喰らいついた。生きるためにな。

そして、現在に至るのだ』


「いや後半端折ったな!」

恒久が、コモドドラゴンへとつっこんだ。

少し得意げな表情を浮かべて。


『ふむ。今のはまずまずだな』

「っしゃぁ!!!」

コモドドラゴンのつっこみに対する評価に、恒久は1人ガッツポーズをしていた。


そんな恒久を、

重清達は生暖かい目で見ながら思っていた。


(なに、これ)


と。


『まぁとにかく。我はこうして、長いこと生きてきたのだ。この村を、守るためにな』

「それなのに、何故今、村の動物達が怯えることになっているのです?」

ガクは、厳しい目をコモドドラゴンへと向ける。


『そう怖い目をするな。我もこうなるとは思っていなかったのだ』

「い、一体何が起きたんですか?」

聡太が、不思議そうな目でコモドドラゴンを見る。


『この森の木々が、成長しすぎたのだ』

「成長?そんなにここの森の木、大きくないぞ?」

玲央が、周りに目を向けながらコモドドラゴンへと言った。


『見た目のことではない』

「忍力、ですね」

聡太が、近くの木に触れながら言うと、


『うむ。お主、やはり聡いな。我の力は、この森の木々と親和性が高かったようでな。我が力を与えた木々は、気付いたらヒト以上の力を蓄えるようになっていたのだ』

コモドドラゴンは満足そうに頷いて答えた。


「し、しかしこの森の木は、私でも気付かないほど微弱な忍力しか出してはおりませんよ?」

そう言ってガクも、近くの木へと触れる。


『今は、な。木々に強大な力は毒となることがわかったのだ。それからは、我が定期的に木々の力を食らっておる。結果、我は自身でも蓄えきれぬほどの力をこの身に宿すこととなったがな。

このあふれ出る力のせいで、村の動物たちは怯えてしまっておるのであろう。

しかしこのままでは我は、我自身の力に蝕まれ、死を迎えることになるだろう』

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