第116話:麻耶の事情
ソウとリキがトクと、ショウがイチと戦闘を始めた頃。
「いやいやいやいや!」
重清は、叫びながら走っていた。
足に雷を纒った麻耶の素早い蹴りと、時折飛んでくる水の矢を避けながら。
「「逃げるなぁっ!!」」
麻耶と、ショウトボウを構える根来アツが同時に叫ぶ。
「ムリムリムリムリ!!」
重清は、そう言って走り続ける。
「あぁもうっ!なんで当たらないのよっ!!」
麻耶が重清に避けられ、イライラしながら言うと、
「っと。相手の攻撃は、っと。とある事情で、っと。殺気がわかる、っと。ようになったんだ!っと。っていうか麻耶姉ちゃん、っと。スカートで蹴ってたら、っと。パンツ見えるよ?っと。あ、今見えた、っと。」
重清が、2人の攻撃を器用に避けながら返す。
「余裕ありそうでなんかむかつく!って見るなぁー!っ!?」
麻耶が叫んだ直後、背後から向かってくる水の矢を蹴り落とす。
「あんたっ!私を狙ったわね!?」
麻耶がそう言ってアツを睨む。
「いや、あんたも敵じゃん!狙って何が悪い!?」
麻耶に睨まれたアツが、怯みながらも叫び返す。
「あー!マジで埒が明かない!プレッソ、チーノ!そろそろ助けてっ!!」
(だってよ、チーノ。)
(まぁ、攻撃を避ける訓練はもう十分みたいね。)
重清の頭の上でだらっとしていたプレッソと、離れて様子を見ているチーノの、のんびりとした声が重清の頭に響く。
「お願いしますっ!!」
その声にプレッソが重清の頭から飛び上がり、同時に重清は離れていたチーノを召喚する。
「し、シロっ!!」
チーノの姿を見た麻耶は、声を上げる。
「麻耶、久しぶりね。でも今は、チーノっていうのよ。」
チーノはそう言って麻耶に微笑み、
「重清、私がアツって子の相手をするわ。あなたとプレッソで、麻耶の相手をしなさいっ!」
「「了解っ!!」」
そう言って敬礼する重清とプレッソに頷き返し、チーノは飛んでくる水の矢を打ち払いながら、アツに向って駆けていく。
「シロ・・・」
麻耶はそのチーノの姿を見て、呟いていた。
「いや、だから今はチーノって―――」
「うるさいっ!!何がチーノよ!あんなカッコいいシロに、そんな可愛い名前つけて!ふざけないでよっ!!」
「ふ、ふざけてなんかないよっ!名前だって、チーノが変えたいって言うからつけたんだ!
・・・だったよね、プレッソ!?」
「うろ覚えかよっ!そうだよっ!」
麻耶の気迫に押されながらそう返してプレッソに目を向ける重清に、プレッソが呆れながらつっこんでいると、
「シロが・・・」
そう呟く麻耶は、
「それでも、許さない!私が、私がシロと契約したかったのに!!」
そう言って重清を睨む。
「な、なんでそんなにチーノにこだわるのさ!?」
「だって、あんなに色気の、じゃなくて、かっこいい人、いないじゃない!
だから私が契約して、色気の出し方、じゃなくて、胸を大きくする方法、でもなくて、かっこいい大人になる方法を教えてもらいたかったのよっ!!」
「「・・・・・・」」
麻耶の叫びに、重清とプレッソはしばし沈黙する。
「重清、ありゃ間違いなくお前のいとこだな。」
プレッソが、麻耶のある部分に哀れんだ目を向けて呟く。
「えっ、おれあんなにバカ正直!?」
「お前の場合は、ただのバカだけどな。」
「うぉいっ!!」
重清はプレッソに叫んで、麻耶に向き直る。
「っていうか麻耶姉ちゃん。だったら、普通にチーノと会えば良くない??」
「へ?」
重清の言葉に、麻耶は声を漏らす。
「チーノ、学校終わったら結構な頻度でばあちゃん家で女子会してるから、行けば会えるよ??」
「それなら、まぁ・・・悪くはないわね。」
麻耶が独り言のように呟いているのを見た重清は、
(よしっ!勝った!!)
何に勝ったかは定かではないが、そう思って1人、ガッツポーズしていた。
「それなら、とりあえずシロ、じゃなくてチーノね。チーノとの契約のことはひとまず置いておいてあげるわ。
じゃぁ、あとはアンタを倒すだけねっ!」
そう言って再び足に雷を纏わせた麻耶が構える。
「はぁっ!?なんで!?チーノの件は解決したじゃん!!」
「あんた何言ってるのよ?これは中忍体なのよ?チーノのことが片付いたからって、アンタを倒すことをやめるわけ無いでしょっ!」
そう言って走り出す麻耶に、
「結局こうなんのかよっ!プレッソ、行くぞっ!!」
そう叫んで構える重清に、
「おぅ!!」
プレッソはそう返事をして麻耶に対して構える。
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