第324話:お説教の時間です
「それで、お前たちは何をやっていた?」
屈強な老人が、近藤を睨みつけて静かにそう言うと、近藤と琴音は返事をすることも出来ず、ただ黙りこくっていた。
白ローブに眠らされた近藤は、すぐに琴音と共にこの老人の元へと運び込まれていた。
しかし近藤が目を覚ました時には、既に白ローブの姿は無く、目の前にはただ強面で屈強な老人がじっと、自身を見つめているのであった。
「おかしいな。聞こえていないのか?何をやっていた、と聞いている」
老人は再びそう言って、近藤と琴音を見据えた。
「私はただ、重清君の顔を見に行っただけです」
琴音が、老人を見返しながらそう返した。
「お前の、あの少年に対する想いはわかっている。
しかしお前は本当にそれで良いのか?お前の目的が達成されれば、あの少年だけでなくお前まで忍者ではなくなるのだぞ?
そうすれば、お前のあの少年への想いも、綺麗サッパリ無くなる可能性だってある」
「それはあり得ませんから」
老人の言葉に、琴音は強い眼差しで言い返した。
「私が重清君を好きなことと、私が忍者であることは、もう関係ないから。忍者じゃなくなっても、この想いだけは絶対に無くなりません。
いいえ。忍者の契約なんかに、私の想いが負けるわけありません」
「お前のその自信は、一体どこからくるのやら」
琴音の強い想いに、老人は苦笑いを浮かべて頭を掻いた。
「まぁ、それはそれで良い。それよりも問題は、お前の方だ」
老人は言葉を続けて、近藤へと目を向けた。
「・・・・ちゃんと、ドウさんの許可はとってるぜ」
「と、コウは言っているが?」
近藤の言葉に老人がそう言って目を向けた先に、笑みを浮かべた青年が姿を現した。
「えぇ。私が許可しました。あくまでもこれは彼の私用。しかも目的は雑賀重清ではなく、別の者でしたからね」
ドウはそう言って、老人へと笑い返した。
「では、
老人のその言葉に、ドウの笑みは苦笑いへと変わった。
「いやいや、あれは完全にあの人の暴走ですよ」
「まったく。一体なんの為に、あやつをあの学校に忍ばせていると思っているんだ」
「いや、だからそれはあの人に言ってくださいよ」
「もう言ったわ」
「それで、あの人はなんと?」
「ふん。儂の言う事なんぞ気にもせずに、『仕事に戻る』とか言って出ていったわ」
「・・・あの人らしいですね」
「まぁ、あやつのことはもう良い。それよりも、コウ」
老人はそう言って、近藤へと目を向けた。
「お前の私用とやらは、どうだったのだ?」
「・・・・・・・・・」
「負けてましたよ。それはもう、あっさりと」
琴音が、無言の近藤に代わって答えた。
「うるせぇ!俺はまだ、負けたなんて思ってねぇよ!」
「だって、最後の方は手も足も出せなかったじゃない」
「ほぉ。コウを負かすほどの者が、あそこにおるのか」
老人は、感心したように呟いた。
「はい!ショウって呼ばれてたかな?結構カッコよかったですよ。もちろん、重清君には遠く及ばないですけど」
「ちっ」
近藤は琴音の言葉に、舌打ちを返していた。
「でも実際、あの人も言ってましたよ。そのショウって子、あの人の全力の体の力でも、多少のダメージしか与えられなかったって」
ドウが笑みを浮かべて、老人へと言った。
「ほぉ。あやつの全力を耐えるか・・・・・
コウよ。今回の件で、お前に罰を与える」
「・・・・なんだよ、急に」
そう言って身構える近藤に、老人はニヤリと笑って近藤を見る。
「お前は今から、儂と修行だ」
「げ・・・・・」
近藤は、老人の言葉に声を漏らした。
「うわぁー、お気の毒様です」
琴音がそう言ってニヤニヤしながら近藤に頭を下げていると。
「何を他人事のように言っている。お前もだぞ、コト」
「げ」
今度は琴音が、そう声を漏らした。
「で、でも私、これからドウさんと修行が・・・」
「安心してください。親父殿に譲りますから」
「ドウさんの裏切り者っ!!」
琴音は非難の目を、ドウへと向けた。
「弟子の弟子は弟子、じゃ。それに、雑賀重清には近付くなと言っておった儂の言うことを聞かなかったのだ。お前も同罪じゃよ」
老人はそう言って琴音に笑いかけると、近藤へと向き直った。
「コウよ。負けたままで、悔しくはないのか?」
「っ!?俺は負けてなんか―――」
「馬鹿者がぁっ!!」
近藤の言葉を遮って、老人は叫びながら近藤の頭に拳を振り下ろした。
「負けを認めずして、成長などするものか!!」
老人の叫びに、近藤は俯いた。
「お前の性格ならわかっておる。本当に悔しいのだろう。コウよ。強くなりたいか?」
「あぁ・・・・なりてぇよ!強くなりてぇよっ!!ショウなんかよりも、あんたらよりも強くなぁっ!!」
「はっはっは。儂よりもと来たか。であれば、儂の修行、もちろん受けるだろう?
術を教えることはできんが、力の使い方ならばいくらでも教えてやろう」
「・・・・・・わかったよ」
「よろしい。では、先に行っておれ。儂もすぐ行く」
「えぇー。私は別に、強くならなくていいのに」
「いいから、行くぞ」
タラタラと文句を言う琴音の首根っこを捕まえて、近藤は部屋を後にした。
「いいのですか?親父殿、彼らに少し優しすぎるのでは?」
近藤達が部屋を出たあと、ドウはそう言って老人を見つめていた。
「あやつらも、もう少ししたら忍者ではなくなるのだ。最後くらい、良い想いをさせてやってもよいかと思ってな」
「親父殿の修行が、良い想いとも思えませんがね」
「なんなら、お前も来るか、ドウよ」
「えっ、あっ、いや・・・・私は急用があるので、この辺で失礼いたします」
ドウは笑いながらそう言ってその場から姿を消した。
「ふん。逃げおったか」
老人はそう呟いて、窓の外へと目を向けた。
「卒業式、か・・・・忍者共よ。お主らの時代はもうすぐ終わる。残りの日々を、せいぜい楽しむことだな」
老人はそう呟いて、部屋を後にするのであった。
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