第45話:再燃と壁
衝撃の再会の翌朝。
重清は教室で、未だかつてないほどボケェーっとしていた。
(はぁー。やっぱ琴音ちゃん可愛いなぁ。)
案の定、重清の恋は再燃したようである。
(お前、昨日からそればっかじゃねーか!)
(うるせぇよ!わざわざ離れたところからつっこんでくんなよ!言っとくけどな、琴音ちゃんに抱っこされたお前を、まだ許してなんかないんだからな!)
プレッソと心の中で会話していると、クラスメイトである後藤が話しかけてきた。
「おはよう。重清、どうしたんだよ、そんなにボーっとして。」
それを近くで聞いていた聡太が笑って、
「シゲはねぇ、今恋しちゃってるんだよ。」
と、重清の代わりに後藤に答える。
「は!?な!?ちょ、ソウ、何言ってんだよ!そんなわけねーし!!」
「おやおや、重清くんは恋の病ですか。ってか、オレも聡太みたいにシゲって呼んでいいか?」
「ん?後藤、いたの?」
「いたの?じゃねーし!今気付いてんのかよ!そしてオレの質問無視してんじゃねーよ!」
「質問?」
「お前、マジで恋の病なのな。シゲって呼んでいいか、って聞いたんだよ。オレのことも名前で呼んでいいからさ。」
後藤が呆れながら重清に目を向ける。
「なんだ、そんなことか。別にいいけど・・・」
「ん?お、お前まさか。」
「後藤と下の名前って、何?」
「うぉいっ!やっぱり知らなかったのかよ!正だよ。タ・ダ・シ!」
「ははは、知ってたさー。」
重清が目線を反らせて返すも、正はそれを疑いの目で見る。
「シゲ、嘘は良くないよ?」
ソウの言葉に、諦めた重清は頭を下げて、
「正さん、すみませんでした!」
潔く謝るのであった。
「いやまぁ、別にいいんだけどさ。」
「あ、あの。」
聡太が正に声をかける。
「ぼくも、正って呼んでいい?」
「へ?あ、ごめん。オレ勝手にそのつもりだった。オレもソウって呼ぶぞ?」
「うん!」
そんな会話をしていると、担任の田中が教室へと入ってきた。
「ほーい、席につけーー。ホームルーム始める前に、少し個人的な時間もらうぞー。」
田中の言葉にクラス全体が??になっているなか、
「鈴木、風間、娘がよろしくってさ。」
「「はい??」」
重清と聡太が、声を揃え、クラスメイトと視線が2人に集中する。
「田中・・・え、もしかして、琴音さんの・・・」
「お義父さん!?」
「確かに琴音は娘だが。鈴木、お前今、義理の父と書いてお義父さんって呼ばなかったか?」
「いやー、まさかー、冗談やめてくださいよお義父さん。」
「次そう呼んだら、お前だけ宿題倍な。そして、娘に手を出したら、ぶっころ・・・おっとっと、教育者として不適切な発言をするところだったよ~、ろす。」
「ちょ、間に余計なの入ったけど、最終的に不適切な発言しちゃってますよお義父さん!!」
「はーい。今日は鈴木だけ、宿題倍にするように先生方にお願いしておきまーす。じゃ、ホームルーム始めます。」
「シゲ、お前の恋に最大の壁が現れたな!」
正がはやしたてると、クラスメイト一同が声をあげて笑うのであった。
こうして忍者部の面々は、昼は中学生、夕方は忍者として、日々を過ごしていく。
2度目の模擬戦から1週間、忍者部では相手を変えての模擬戦や、各々の修行により、新入生4人とプレッソの基礎力は向上していた。
「そろそろ、中忍体を想定した訓練もやっていこうか。」
そんな古賀の予告の翌日、いつものように部室へと集まる忍者部の面々。
そこへ、古賀がやってくる。
「あー、すまない。今日は1件依頼が入った。簡単な依頼だから、今日は1年生4人と、ショウで当たってもらいたい。」
ショウたちに目を向けて、古賀がそう告げる。
「昨日先生が言ってた、中忍体を想定した訓練、ってのはどうするんですか?」
恒久が古賀に対して手を挙げる。
「それは、明日からかな。依頼が入らなければ、だけどね。」
「今更なんですけど、訓練した後に依頼にかかってもいいんじゃないですか?こっちだったら時間も関係ないですし。」
アカが、今更な疑問を古賀にぶつけると、古賀が頷いて答える。
「確かに、それ自体は可能ではある。でも、それはやらないよ。」
「理由を聞いても?」
アカの言葉に、古賀が続ける。
「それは、任務に対する姿勢の問題だ。」
「姿勢??」
重清が首をかしげる。
「そ、姿勢。依頼を受けたのに、その前に訓練って考えが気に食わないんだよね。そんな姿勢で依頼をこなそうとすること自体、認めるわけにはいかない。私も、師匠からこの辺は厳しく言われていたからね。」
「先生にも、師匠がいるんですね。」
アカが珍しいものでも見るように古賀に目を向ける。
「そりゃあ、ね。」
古賀が苦笑いをしながらも話を続ける。
「そう言うわけで、依頼を受けた日は、残ったメンバーだけで修行してもらうことになる。今回は簡単な任務だし、正式な依頼としては初めてだから、4人とショウに当たってもらうけど、これからは依頼内容と適正によって、先輩後輩関係なく数名で組んで、依頼に当たってもらうことがあるから、よろしくね。」
「それで、今回の依頼は、なんなんですか?」
ソウの質問に答える前に、古賀がシン、ケン、ノブに目を向ける。
3人は頷き、各々修行へと向かう。
「依頼は、受注者以外は内容に触れないことにしているからね。ということで、今回の依頼はこれ。」
古賀が差し出した紙を、5人とプレッソがのぞき込む。
そこには、可愛い丸文字でこう書かれていた。
『うちの可愛い小太郎が、いなくなっちゃったんです。どうか、早く探してください!!』
「え、ちょ、誘拐!?どこが簡単な依頼なんですか!?」
重清が慌てて古賀に目を向けす。
「ちゃんと最後まで見てよ~」
そんな重清に、古賀が気怠そうに答える。
「へ??」
そんな声を出して重清が依頼の続きに目を向けると、いなくなったという『うちの子』の写真が、しっかりと張られていた。
そこにいたのは、柴犬であった。
「わかった?動物の捜索。依頼物の初歩中の初歩でしょ?ってことで、行ってらっしゃい!」
古賀に雑に送り出された一行は、柴犬を捜索するために、町へと繰り出すのであった。
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