第120話:可哀相な重清

「・・・あれ??」

雷弾が弾けたのを見ていた重清は、そんな声を出してそのまま地に膝をついていた。


「おい、重清!大丈夫かよっ!?」

突然マキネッタから猫の姿に戻ってしまったプレッソが、そう言って重清の元へと駆け寄る。


「プ、プレッソ。なんかおれ、体に力が入らないや。」

そう乾いた笑いで重清が返していると、


(プレッソ!一旦重清に戻るわよっ!)

チーノが離れた場所から声をかけてくる。


(チーノ、どういうことだよ!?)

(重清は今、忍力のほとんどを使い切ってしまったのよ。

おそらく、先程の雷弾のせいね。使い慣れていないものをいきなり使ったことで、忍力を無駄に消費していたわ。

ただでさえ今日、重清は何度かプレッソを具現化し直したることで、忍力をかなり使っていた。

その上であんなこと急にやって、忍力が尽きかけているのよ。

プレッソの銃化が解けたのも、それが原因よ。

私達が重清に戻れば、多少は忍力を重清に返せるわ。)


(そういうことか!)

そうチーノに返して、プレッソは自身の体を光に変えて、重清の体へと吸い込まれていった。


(私もっ!)

チーノもプレッソに続き、自身の体を光へと変え、重清へと戻る直前、


「どうやら忍力切れみたいね。悪いけど、このまま倒させてもらうわよっ!」

麻耶がそう呟いて、重清へと駆けていく光景をチーノは目にしていた。


(まずい。忍力が戻って、重清がすぐに麻耶に反応しないと、このままじゃ・・・

具現化は重清の意思でないとできないのに。

ちょっと、重清のピンチに冷静さを欠いてしまったようね。)


そう、自身を嘲笑しながら、チーノは麻耶に対して成すすべもなくそのまま重清へと戻っていった。


「・・・ん。」

プレッソとチーノが戻った事で多少ながらも忍力の戻った重清は、フラ着く足で立ち上がろうとして目の前に視線を送ると、麻耶が猛スピードで重清へと迫っていた。


「や、やばい。」

ガタガタと笑う膝を抑えながら、重清はなんとか立ち上がって、重い腕で防御の構えを取る。


「そんな状態で、防げると思ってるの!?」

麻耶は叫んでその場から飛び上がり、重清に向かって蹴りかかる。


その時、重清と麻耶の間に人影が現れ、麻耶の蹴りをクロスした2本のナイフで防いでいた。


「な、なんで、アンタがっ!」

麻耶はそう言いながら、その場から飛び退き、目の前の人物を睨みつける。


「イチ!あんたなんで重清を庇うのよ!?説明してもらうわよっ!!」

「くぅー。ハニーの雷は相変わらず効くねぇ!」

風魔イチが、そう言いながらナイフを捨てて麻耶に苦笑いを向ける。


「そんなことは聞いてない!ちゃんと理由を――――」

「こっちにも、色々と理由があるんだ、よっ!!」

麻耶の言葉を遮ってそう言いながらイチは、重清の足を掴むと、体の力を全開にしてそのまま重清にジャイアントスイングをかけ、


「えっ、ちょっ!!あぁーーーれぇーーー」

そのまま重清を、彼方へと放り投げるのであった。


「イチ!なにしてるのよっ!!」

「わりぃ。俺の口からは言えねーんだわ。」

「意味分かんないわよっ!私は部長よ!?その私に言えないって、どういうことよ!?」

「・・・・すまない。」

「あぁ、もぅ!!」

麻耶はそう言って、イチに背を向ける。


「どこに行くんだ?」

「決まってるでしょ!?重清を追うのよっ!」

「ちっ。お前まだ―――」


その時、3年敗退を告げる事務的なアナウンスが響き渡る。


「3中はいなくなったみたいだな。麻耶。アイツはどうせリーダーじゃない。どうせなら、2中のリーダーを狙ったほうが良くないか?」

「ふんっ。それはアンタに任せるわ。」


「そんなー。どうせだったら相手してよー。」


麻耶とイチの会話に、のんびりした声が割り込んでくる。


「ちっ。もう追いついて来やがったか。」

イチが、忌々しそうに声のする方を見ると、ショウがニコニコと笑って2人を見つめおり、その隣ではソウが、辺りをキョロキョロと見回していた。


「えっと。その子、何でそんなにキョロキョロしてるのかしら?」

ソウのキョロキョロっぷりに、先程まで怒っていた麻耶が、ついそう言ってショウに視線を送る。


「いやー、なんか、友達が見当たらないみたいでねー。」

「重清なら、さっきコイツが吹き飛ばしちゃったわよ?」

「へ!?・・・あ。」

麻耶の言葉に、ソウはそんな声を漏らす。


どうやら、探していたのは重清ではないようである。

可哀相な重清なのであった。


「ソウ、完全にシゲのこと忘れてたでしょー。」

「い、いや、そんなまさかー。」

ソウが慌てたように言い返すも、後の祭りであった。

可哀相な(以下略)。


「さっきアナウンスあったでしょー?3中が敗退したから、リキって子は強制的に戻されちゃったんだよー。」

「え!?そうなんですか!?もっと早く教えてくださいよ~!よかったぁ~。ぼく、すごく心配で・・・」

「少しは、吹き飛ばされちゃったっていうシゲにも、その心配を分けた上げてねー。」

ショウが、笑ってソウに言っていると、


「お前ら、随分と余裕そうだが、わかってんのか?あとはそっちとうちしか残ってない。

ここでカタつけてやるぜ?」


「えー?こっちはまだ誰もリタイアしてないからねー。でもそっちは違うでしょー?既に2人リタイアしてるんだから、その麻耶って子を倒せばウチの勝ちだよー?」


「へぇ。私に勝てるとでも―――ってちょっと待ちなさい!2人って、どういうことよ!?あんたたちまさか、トクを!?」

「そうだよー。トクって人は、ここにいるソウと、3中のリキ君が倒しちゃったよー。ちなみにもう1人は、ヒロって性格悪そうな子だよー。そっちは、僕が倒しちゃったけど。」


「ヒロは、まぁ、いいわ。でも、可愛い後輩のトクを倒されたと聞いたら、アンタ達を放っておくわけにはいかなくなったわね。」


(あ、ヒロって人はいいんだ。)

心の中で、そっとつっこむソウ。

雅の孫と聞いていたため、つっこむのに躊躇したのである。


もしこれが恒久であれば、きっと本人につっこんでいただろう。

まだまだつっこみ初心者のソウには、この状況は少しハードルが高かったようである。


「で、どうする?私はさっさとアンタ達倒して、重清を探したいんだけど?」

「えー、ゆっくり楽しもうよー。」

「ちょ、おいお前!麻耶に馴れ馴れしく話しかけてんじゃねーよっ!」

「ショウさん、やっぱり女子慣れしてるんですね。」


「「「「・・・・・・」」」」


それぞれが言いたいことを言い合い、お互いににらみ合って構え、


「「「「はぁっ!!!!」」」」


決戦の火ぶたが切って落とされる。



---あとがき---


明日は午前8時更新です!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る