第288話:重清、クラスメイトの家に上がり込む
伊賀グラの勘違いな襲撃からしばし時は経ち、秋も終わろうかとしているある日の放課後。
「おーい、鈴木ー!お前今日、日直だったよな?
このプリント、今泉の家に届けてくれないか?」
1年3組の担任田中が、重清へと声をかけてきた。
「へ?今泉って、誰?」
田中の言葉に、重清は首を傾げた。
「お前なぁ。クラスメイトの名前も覚えてないのか」
そんな重清に、田中は呆れたように重清を見ていた。
「クラスメイト?そんな人、いましたっけ??」
「まぁ、1度も学校には来てないからな。名前は今泉健太郎。会ったことはないだろうが・・・それでも何か渡さなきゃいけないときは、日直に頼んでたんだがな」
「もしかして、不登校ってやつ?」
「まぁ、有り体に言えばな」
「へぇ。じゃぁタイミング悪く、おれのときは渡すもんなかったんですね。えっと、部活後でもいいんですか?」
「いや、早めに持っていってくれ。あんまり遅いと、今泉の家に迷惑かけちまうからな」
「あー、じゃぁ今日の部活は休みだな」
「いや、どれだけ今泉の家が遠いと思ってんるだ。直ぐ戻ってこれる距離だから安心しろ。古賀先生には、鈴木が遅れること伝えておくから。頼んだぞ」
田中はそう言ってプリントを重清へと渡し、教室を出ていった。
「まぁ、少しでも遅れたら、うちの部は間に合わないんだけどね」
聡太が、そう笑いながら重清へと話しかけた。
忍者部の部室では時が止まっており、少しでも部室に入るのが遅れた場合は、次の瞬間には修行を終えた面々と鉢合わせすることになるのである。
「ってことで、今日はおれ、休むわ」
聡太へ返した重清は、手を振って教室を出ていった。
「シゲ、変なことしでかさないといいけど・・・」
教室の出入り口を見ながら、聡太はそう、呟くのだった。
「『今泉』と。ここだな」
『今泉』と書かれた表札を見ながら、重清は躊躇いもなくインターホンへと手を伸ばした。
『はい』
すぐにインターホンか、女性の声が聞こえてきた。
「あ、1年3組の鈴木です。プリント持って来ました」
『ああ、いつも悪いわね。今出るから、少し待っててね』
その声のすぐ後に玄関の扉が開かれ、そこから今泉の母親が姿を現した。
「あら、あなた初めてくる子ね。いつも皆さんには良くしてもらって、助かるわ」
「なははー。ま、クラスメイトなんで」
重清は、今泉の母親に笑ってそう答えた。
「今泉君は?」
「え?あぁ、部屋にいるわよ」
「会いに行ってもいいですか?」
「えっ、もちろん良いけど・・・多分、会えないわよ?」
驚いたように重清へと返すと母親にべコリと一礼して、
「お邪魔しまーす!」
重清はズカズカと玄関へと上がった。
「えっと・・・今泉君の部屋、どこですか?」
「ふふふ。その階段を上がってすぐ右の部屋よ。
あの子、もしかしたら失礼なこと言うかもしれないけど・・・」
「あ、大丈夫です!そういうの、慣れてるんで!」
申し訳無さそうに言う母親に、重清はニカァっと笑いを返して階段を登り始めた。
(見たこともねぇクラスメイトの家に上がり込むなんて随分物好きだな、重清)
プレッソが、重清の中から話しかけてきた。
(そうか?会ったことないクラスメイトいたら、会いたくなるじゃん)
(ほっほっほ。重清らしいわい)
ロイが、プレッソと同じく重清の中で笑っていた。
ちなみにチーノは、忍者部を休むと聞いた途端に雅宅へと女子会に向かっていたりする。
「ここだな」
階段を登った重清は、そう呟いて目の前の扉をノックした。
「こんちはー。同じクラスの鈴木なんだけどー。今泉君いるー?」
重清の言葉に返す者はなく、ただノックの音だけが廊下に響いていた。
「あれ?いないのかな?お邪魔しまーす」
そう言いながら重清は、扉のノブへと手をかけた。
「開けるな!」
その時、突然部屋の中から声が聞こえてきた。
「なんだ、いるんじゃん!」
重清はそう言いながらも、扉を開こうとした。
「だから開けるなって!」
扉の向こうから開きそうな扉を抑えつつ、今泉が叫んだ。
「お前頭おかしいのか!?こういう時、普通扉開けようなんてしないだろ!?」
今泉の言葉に、扉を開くのを諦めた重清は、笑いながら答える。
「え?そうなの?まぁ、そんなんいいじゃん!どうせなんだし、少し話でもしようよ」
「うるさいな!帰れよ!他の奴らは、お袋に渡すもん渡して、さっさと帰ってたぞ!」
「えー、クラスメイトなのに、みんな薄情ー」
「いいから帰れよ!あと、風間ってやつに伝えろ!
お前もいい加減、話しかけるの辞めろってな!」
「おぉー、流石ソウ。ソウも話しかけてたんだな。あいつ、良いやつだろ?」
「お前話聞いてんのかよ!?帰れっつってんだろ!?」
「えー、そう言わずにー。おれ今日暇なんだよ」
「人を暇つぶしに使うなよ!あぁ、もう!お前と話してると調子狂う!もう絶対に返事しないからな!!」
今泉はそう言うと、それ以降一言も話そうとはしなかった。
それでも重清は、ただ1人で扉の前でどうでも良いことをひとしきり話し続け、
「じゃ、今日はそろそろ帰るかな。また来るな」
「・・・もう来んな」
「おっ、最後に返事してくれたな!」
「・・・・・・」
「じゃ、またな!」
重清は扉に向かってそう言うと、階段を降りていった。
その先にいた母親は、そんな重清を下から笑顔で迎えていた。
「鈴木君、ありがとうね」
「いえいえ。おれが喋りたいこと喋ってただけなんで。それよりおばさん、また来てもいい?」
「ええ、もちろんよ。あの子があんなに楽しそうに返事しているの、久しぶりに聞いたからね」
「おっ、マジで!?」
「えぇ。今度来るときは何かお菓子でも用意してあげるわよ」
「おぉ、おばさん太っ腹!じゃぁ、コーヒーと、それに合いそうなお菓子、よろしくっ!今泉君のと、2人分ね!」
重清は図々しくもそう言ってピースして、今泉宅を後にするのであった。
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