第287話:伊賀グラの事情聴取

俺は現岡神楽、忍名は伊賀グラ、26歳独身。

好きなものは猫、そして動物全般!


あ、すみません、そこまで言わなくて良かったんですね。


――このオウって人、めちゃくちゃこえぇー!


ガクって人から話を聞かれるために協会に連れてこられたと思ったら、こんな偉いっぽい人が来るとは思ってなかったよ。――


え?あ、はい、何で具現獣を狩っていたか、ですね。


いや、自分としては狩っていたつもりはなくて、ただ可哀想な具現獣を救けただけなんですよ。


ゴリもポッポーも、具現者から暴力を受けてまして。


え?ゴリはゴリラの具現獣で、ポッポーは鳩の具現獣ですよ。

そのまんまじゃないかって?


それはよく言われますけどね。

本人達が納得してるんだからいいじゃないですか。


いや、名前だけで暴力と同じくらい可哀想って、それはないでしょ!


あいつらだって、俺が一生懸命考えてくれたからって泣いて喜んでたんですよ?

そりゃぁ、新しい名前を言ったときには、一瞬だけ間はありましたけど・・・


え?そんなことはいい?

いや、オウさんが振ってきた話じゃ・・・はい、すみません。


とりあえず、俺は旅の途中で見つけた苦しめられているあいつ等を救けただけです。

悪いことをしたなんて思ってませんから。


え?旅ですよ、旅。ちょっと人を探してて、そのために旅してるんです。


仕事?

旅してる奴が定職になんて就くわけないじゃないですか。


旅先で依頼見つけて、日銭稼ぎながらの気楽な1人旅ですよ。

あ、あいつらがいるから1人旅じゃねーか。


って、そんなに睨まないでくださいよ。

ちゃ、ちゃんと協会を通して依頼は受けてますよ!


た、旅の目的?

だから人探しだって言ってるでしょ。


妹ですよ、妹。


なぜ依頼を出さないのかって?


だって、協会通すと高いじゃないですか。

ウチ、両親が早くに亡くなって妹と2人、親戚のうちに厄介になってたんですよ。

まぁ親戚も、ひどい扱いはしなかったですけど、まぁ俗に言う健康で文化的な最低限度の生活ってやつですか?


とにかく、普通に生きさせてはもらってましたよ。


一応中学卒業したら働き始める予定だったのに、愛具凛あぐりのやつ、卒業した途端いなくなっちゃって。


あ、愛具凛って妹です。

そう、双子なんですよ。


妹は忍者か?

あぁ・・・・

どう答えたらいいんですかね。


今は違いますよ。


いや、契約破棄されたんじゃないですよ。

中学に入学してすぐに俺達は忍者部に入れたんですけど、愛具凛はその・・・


武具も具現獣も具現化出来なくて・・・


そうそう、それです。その『捨て忍』ってやつにされちゃって。


まぁ、それ自体はそれほど問題じゃないんですよ。

愛具凛もそのことは全く記憶に残って無いみたいでしたから。

それまで通り、俺達は仲良くやってたはずなんですよ。


それなのに中学を卒業した途端、急に居なくなっちまって・・・


あいつ、一途なところがあって。

変な男に惚れてついて行ったんじゃないかって、それだけが不安で・・・


可哀想にな、って他人事ですね。

あっ、ちょ、その話はもう終わりって、ひどくないですか!?

少しは心配するとか、『協会の方でも探してみよう』とかないんですか!?


あ、いや、そんな大金はないので・・・

1人で探します、はい。


え?どうだったかって、なにがです?


彼らとの戦い、ですか?


いやー、重清って子も聡太って子も、中1にしては力がありますね。

流石に『獣装じゅうそうの術』使えば、ビビって降参してくれると思ったのに、諦めるどころか向かって来ましたからね、彼ら。

いくらこっちが手加減していたとはいえ、あんなに苦労させられるとは思いませんでした。

特にあの聡太って子、2つの術を組み合わせたりして、とても中1とは思えない才能でしたね。


――ん?オウって人、聡太って子の話になった途端、表情が気持ち悪いくらいに緩んだぞ?これは・・・・

我、勝機を得たり!!――


いやー、ほんとにあの聡太君には恐れ入りましたよ。

彼はきっと、将来大物になりますね!


――やっぱり!この人、聡太って子を褒められると一気に顔と気が緩んでいる!――


いやほんと。あの重清って子は、なんていうか見た目バカそうで抜けてる所があるみたいですけど、聡太君はもう、見た目から理知的ですもんね!


――あれ?オウって人の顔が青ざめてる?うわっ!いきなり婆さん出てきやがった!

はぁ?重清ってこのお祖母さん?は!?あの雑賀雅!?

ってことはあの重清って子、雑賀平八様と雅様の孫!?――


いや、ちょ、冗談ですよ。

重清君も、かなり凄い術使ってましたよね!

でもあの子、具現獣2人から協力してもらっていなかったような・・・・


え、あのもう1人の猫、雑賀平八様の具現獣だったんですか!?

しかももう1人の亀は、元雑賀本家の具現獣!?


そんなん、彼らが本気出したら、俺なんて消し炭じゃないですか。

あぁ、だから手を出さなかったんですね。


そんな彼らと契約するなんて、重清君も将来が楽しみですね。


――ぃよっし!!雅様の表情も和らいだぞ!!

このまま、聡太君と重清君を褒めちぎって、具現獣狩りの事は許してもらうぞ!!!――



その後、伊賀グラの取り調べを終えたオウと、いつの間にかそれに加わっていた雅が口を揃えてグラを見逃すことに同意し、グラは『具現獣狩り』についての責を免れることとなったのであった。


その時のオウと雅の顔は、それはもう緩みに緩みきっていたという。

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