第127話:敗退の後は

中忍体が1中の勝利で幕を下ろし、中忍体に参加しなかった恒久達を含めた3校の関係者全員が広場へと集められていた。


そんな場で、


「ほんっとうに、すみませんでしたっ!!!!」


見事なまでの土下座とともに、重清の声が辺りに木霊する。


「シ〜ゲ〜、おまえよくもこの俺に銃を向けやがったなぁ〜。」

土下座する重清の正面から、シンがそう言って重清の頭を指でグリグリしていた。


「確かに、あれはビビったのぉ〜。」

「先輩に銃向けるのは、ダメ。」

ノブとケンも、そう言ってグリグリに加わる。


「すみませんでしたぁ〜。」

重清は、3グリグリされながらも、ただただ土下座を崩さず謝り続けていた。


「「「な〜んてな。」」」

「へ?」


揃った3人の声に、重清が思わず顔を上げると、そこには笑顔の3人がいた。


「まっ、気にすんなシゲ!来年、また俺らと頑張ろうぜっ!」

「そうじゃ!シゲはシゲらしく、バカみたいに騒いでいればいいんだっ!!」

「静かなシゲは、シゲじゃない。」

3人は、各々そう言って重清に笑顔を向ける。


「シゲ、俺らよりも、ちゃんと謝らないといけない人がいるだろ?」

シンの言葉に、他の2人も頷いて、3人の視線はある人物へと向く。


「あっ。」

重清は、3人の視線を追ってそう声を洩らし、その場に立ち上がるとシン達に一礼をして、その人物の元へと駆け寄る。


重清のせいで、最後の中忍体を終えることとなったその人物の前へ、重清はそのままスライディング土下座を披露し、平伏したまま叫ぶ。


「ショウさんっ!!おれのせいで、最後の中忍体をこんな形で終わらせてしまって、本当にすみませんでしたっ!!」


そのまま、しばしの沈黙が流れる。そして。


「ほんと、許せないよね。」

いつもは間延びしているショウの言葉が、この時ばかりはそうではなかった。それはつまり・・・


(や、ヤバい。ショウさん、ガチギレしてるっ!!)

平伏したままの重清は、そのままガタガタと震えていた。


いつも優しく指導してくれるショウ。

そんなショウの最後よ中忍体を自分のせいで終わらせ、さらにはここまで怒らせてしまった。

重清は、その場でただ、震えることしかできなかったのだ。


その時、重清の肩にそっと手が添えられる。


「人の恋心をあんなふうに利用するなんて、ほんと許せないよね。」

ショウの、そんな優しい声が重清の耳に響いてくる。


「ショ、ショウさん??」

重清が、恐る恐る顔を上げると、そこには優しく微笑むショウがいた。


ショウはそのまま重清の耳元へと近づき、周りに、特にノリに聞こえないようにそっと重清に耳打ちをする。


「僕、恋バナ大好きなんだよ。よかったら、今度から恋の相談は僕にしてよー。アドバイスは出来ないけど、話は聞くよー?」

「いやそれ、ただの野次馬じゃないですかっ!!」

いつもの間延びしたショウの言葉に、ついつい重清はいつものように叫び返す。


「そうそう。それでこそシゲだよー。でも、近距離で叫ぶのは辞めて欲しいかなー。」

耳を抑えながら、ショウはそう言って笑っていた。


「あのっ、ショウさん、怒ってないんですか!?」

「まさかー。そもそも僕が、早く麻耶さんを倒せていれば、負けなかったんだからねー。」


「ショウさん・・・」

「それよりもシゲ。この中忍体では、色んな自分の弱点が見えたんじゃない?」


「それは・・・はい。」

「僕はまだまだ、この忍者部にいるから。これからも、お互いに弱点を克服しながら、一緒に強くなろー?」

「っ!はいっ!!」

重清は、そう元気よく返事を返す。


「だからー、近距離で大きな声出さないでよー。」

「あぁっ!すみませんっ!!」

そう言って、2人は笑い合うのであった。



その頃、同じように広場に集まっていた1中では。


「ちょっとっ!これはどういうこのなのっ!?重清を操っていたなんて、私、聞いてないんですけど!?」

麻耶が怒っていた。ものすごーく。


「お前なら、絶対に反対すると思ってたから言わなかったんだぜ?」

鬼のような形相の麻耶とは正反対に、1中忍者部顧問の風魔ロキが、ヘラヘラ笑いながらそう答えていた。


「そりゃ反対しますよ!いくら相手が重清でも、人の心を利用するなんて!!

こういうの私が嫌いって、先生知ってますよね!?

トク!あんたも知ってたの!?」


「いいえ、あっしは知りやせんでした!ロキ先生も、あっしに知らせたら麻耶さんに伝わるのがわかってたんでしょう。」

風魔トクが、麻耶の傍らに控えながらそう答える。


「あぁもう!なんでトクはそんなに冷静なのよっ!!ヒロ、イチ、カツ!あんたたちは知ってたの!?」


「ふんっ!そりゃ知ってたわよ。でもそれをあんたに教えてやる義理なんてないじゃないの。むしろ私は、あんたがそうやって怒っているのを見れて、いい気分だし。」

「いや、そりゃ知ってたがよ・・・麻耶が重清ってヤツのことを好きなんだとばっかり思ってたし、ロキ先生からも口止めされてたから言えなかったんだよっ!」

「お、おれはっ!ヒロさんの信じた道をついてくだけなんで・・・」


ヒロ、イチ、カツがそれぞれそう答えるのを忌々し気に見ていた麻耶は、ため息をついて視線をコトへと注ぐ。


「コトちゃんもコトちゃんよ!こんな作戦に乗るなんて!あなたはどう思っているの!?」

迫力のある麻耶の視線に臆することなく、コトは口を開く。


「私は、1中が勝つために自分ができることをやっただけです。」

「だからって、好きでもない男に媚を売って、恥ずかしくはないの!?」

「媚を売るなんて、ひどいですね。あくまでも私は、重清君の想いを受け入れた振りをしただけですよ?

それに、私達は忍者なんです。自分自身を、女を武器にしたとして、それの何が悪いっていうんですか!?」

コトが、語尾を荒げてそう麻耶に返すと、


「あんた―――」

コトの強い口調に麻耶がたじろいでいで言葉を詰まらせていると。


「バチンッ!!」

突然、コトは頬に鈍い痛みを感じることとなる。


「っ!?」

コトが、頬を押さえながら自身の目の前に立つ少女に目を向け、呟いた。


「あなた、誰?」


コトの目の前には、自身を睨んで平手を打ち抜いた雑賀アカが立っていた。


「いや、知り合いじゃねーのかよっ!!!!」

そして、それを見ていた恒久は、思わずそうつっこむのであった。

1中忍者部員の集まる中でも気負うことなくつっこむ。これが、恒久クオリティなのである。



---あとがき---


明日は午前1時更新です!

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