第172話:襲撃ヒアリング その4

「さて。ひとまず師弟問題は色々と解決したみたいだね。」

雅が、重清と智乃に笑いかけてから全員を見渡した。


「襲撃者の件は協会に任せるってことで、異存はないね。オウ、後は任せたよ。」

「はい。かしこまりました。どこまで彼らを動かせるかはわかりませんが。」


「そこは、あんたの腕の見せ所だよ。」

「せっかく弟子ができたというのに、人使いの荒いお方だ。」


「ふん。協会なんぞにおるからそんなことになるのさ。」

「おや。儂が協会におるのは、平八様のせいなのですがね。」


「ほぉ。『儂が平八様の跡を継ぎますっ!』などと息巻いておったのは、どこの誰だったかな?

その割に、未だに幹部にもならず、燻っているようだけど。」

「そ、それは・・・協会幹部は、平八様のお考えを疎ましく思っておるからで・・・」


「まぁいいさ。オウが協会にいてくれることは、こちらとしても助かるからね。」

「だったら、最初からそのように儂をいじめてくださるな。」


「すまないね。協会に対する不満は、あんたにしかぶつけられないからね。」

「はぁ。その不満を解消するのが、儂の役目、ということですかな。

それでは、儂はこの件を協会に持ち帰らせてもらいます。

さてさて、あの重い腰を、どこまで動かせることやら・・・」


オウは、そう言うとそのまま店の奥へと入っていった。


「さて、ひとまずこれで、この件は一旦終わりだよ。みんな、特に重清は色々と心配だろうけど、今日襲ってきたやつらのことはひとまず協会に任せておきな。」

雅が、そう言って一同を見渡した。


「あれ、なんでおれが特に心配なの?」

雅の言葉に、重清が首を傾げる。


「いやシゲ、あの人たちシゲに会いに来たんでしょ!?」

聡太が、そんな重清に呆れたように言った。


「あ、そういえばそうだった!なんかもう色々とありすぎて、すっかり忘れてた。」

「いや忘れてたんか~~~い!」

すかさず、恒久がつっこんだ。


「まぁとにかく。本人が一番気にしていないみたいだし、みんなも気にせずに、今日のところは解散としよう。」

「雅様の仰ったとおりだ。せっかくのキャンプがこんなことになってしまって申し訳なけないが、今日はこれで解散だ。みんな、気をつけて帰れよ。家につくまでがキャンプだぞ!」


「いや、俺らもうガキじゃねーぞ!」

「はっ!俺から見たら!お前らはまだまだガキだよっ!」

恒久のつっこみにノリがそう返すと、一同はブーブー言いながら『中央公園』を後にするのであった。


その場に残った雅とノリは、しばしの沈黙を保つ。



「雅様、これでよろしかったので?」

「あぁ。連中の目的がわからないんだ。しばらくはオウに任せるしかないさ。

まぁ、こっちはこっちで探ってはみるがね。」



「しかし、雅様の介入を防ぐほどの力を持つ者がいるとは、驚きです。」

「まぁ、そんなこともあるだろうさ。」


「しかし、なぜシゲを。他のお孫さん達へも接触があったのですか?」

「いや、麻耶も含めてそれとなく聞いてはみたが、その気配は無さそうだよ。」


「では、やはりシゲだけを狙って。まさか、あの件が関係しているのでは?」

「あれは、お前やオウを含めごく一部の者にしか伝えてはおらん。が、その可能性はやはり捨てきれはしないね。」


「・・・考え直す、ってのは無しですか?」

「無いね。これはあの人の意思でもあるんだ。」


「そうですか・・・平八様のご意思でもあるなら、私はもう何も言いませんが・・・」

「おや。それはあたしの意見だけであれば何か言うということかい?」


「いや、そうではありませんが・・・」

「重清が心配かい?」


「えぇ。確かにアイツは、まだまだ発展途上です。しかし、アイツには周りを明るくする力がある。まるで、平八様を見ているようで・・・」

「あんたも、重清にあの人を重ねているんじゃないだろうね。」


「否定はしません。まぁ、実力は平八様とは比べようもないので、そこまで重ねることもできませんが。」

「あの子は、あの人によく似ているからね。あの人はよく言ってたもんさ。『重清は自分によく似ている。いつか、この頭も似るんじゃないか』って。」


「ぷっ。あ、いや。もう既に、脱線癖と女性に弱い所が、似てしまっていますからね。」

「あんた今、あの人の頭を笑ったね?」


「いやいや雅様、今のは完全に雅様が仕掛けた地雷ですよ!?」

「それでも、笑った。」


「今のは、ちょっと昔のことを思い出しただけですよ。」

「昔のこと?」


「怒らないで聞いてくださいね?私が平八様に声をかけられて忍者部に入った際に、平八様が私たちの前で、その、被り物を取って仰ったんですよ。

『これは世を忍ぶ仮の姿。この頭こそ、自分のシンボルだ!』って。その時、私つい言ったんです。『忍べてねーよ』って。

何故か今、それが思い出されて懐かしくて・・・」


「ふっ。確かにあれは、バレバレだったからね。いつも言ってたんだけどね。『私が術で生やそうか』って。」

「平八様はなんと?」


「『親からもらった体に、余計なことはしたくない』、だとさ。」

「ピアス開けるんじゃないんだから。」


「本当にね。まぁ、あたしはそんなあの人に惚れちまったんだけどね。」

「はいはい。お熱いことで。」


「結婚てのは意外といいもんだよ。あんたもそろそろ諦めたらどうだい?」

「いつも言っているでしょう?私には―――」

「理想の出会いがある、だろう?」


「えぇ。そのとおりです。」

「あんたの理想の出会いってのは、その、あたし達のような、ってことだろう?あんな出会い、今の時代では―――」


「そんなこと、わかってますよ。それでも、一度決めたことは曲げたくないんです。」

「それは良いことだが・・・あの子達の恋愛を禁止するのは、どうなんだい?」


「アカから聞いたんですね。私が禁止しているのは、あくまでも部内での恋愛だけですよ。まぁ、実際にそんなことが起きたとしても、何もしないんですけどね。

あ、これ、アカには内緒にしてくれません?」

「まぁあの子のことだから、それを知ったらショウ君にまっしぐらだろうからね。ちゃんと、内緒にしとくさ。」


そう言って、雅はふっと笑うのであった。

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