第379話:忍ヶ丘2中の王

重清達忍者部員達が音楽室へと入ると、ピアノの前に1人男が座っていた。


白い髭をたっぷりとたくわえているにも関わらず、頭には一切毛がないその初老の男は、音楽室へと入ってくる重清達を見ると、そのでっぷりとした体をゆっくりと立ち上がらせた。


「困りますね。我が校ではこんな時間に、授業はやっていないのですが」

男はそう言って忍者部員達を見つめたあと、ノリへと目を向けた。


「彼らは、あなたが顧問をする社会科研究部員ですね?」

「はい。これは私の責任です。私がしっかりと、こいつらに言い聞かせますので」


「いけませんねぇ」

男はノリの言葉に首を振った。


「我が校の可愛い生徒達を『こいつら』などと呼んではいけませんよ、古賀先生?」

「・・・失礼しました。校長」


「校長先生!?」


ノリの言葉に、忍者部の面々は声を上げた。


何故ならば目の前の『校長』と呼ばれた人物と普段見かける校長には、大きな違いがあったからである。


主に、頭頂部の違いが。


「えっと・・・校長先生、ヘアスタイル、イメチェンしました?」

その疑問をぶつけるかのように、重清は校長と呼ばれた人物へととんでもない爆弾を投げつけた。


(うぉーーーーいっ!!)


あまりにもどストレートな重清の言葉に、忍者部一同だけでなくその場にいる教師達も、顔を真っ青にして心の中で重清へとつっこんだ。


「おや、失礼。外しているのを忘れていたよ。大切な生徒達の前では、正装に見を包んでいたというのに」

そう言いながら校長は懐から立派なカツラを取り出すと、それを頭に乗せた。


カチリ、という小さな音が、音楽室に鳴り響いた。


ツネ(ちょっと待て!今カチリって聞こえたぞ、オーバー!!!)

シゲ(え?カツラだと、普通じゃない?じいちゃんのもカチリってなってましたよ。オーバー)


シン(いやいやいや、そういうのって、残った自毛に止めるときになる音だろ!?オーバー!!)

ケン(確かに、校長の頭には毛は無かった。オーバー)


ソウ(えっ・・・・じゃぁ何に止めたの!?オーバー)

アカ(怖い怖い怖い!!どうなってんのあれ!?オーバー!!)


ノブ(まさか、肌に直接か?オーバー)

シゲ(あ、アカが遂に、オーバーって言ったぞ。オーバー)


ユウ(凄い。重清先輩、怒涛の脱線ラッシュですね)

ツネ(今はそこじゃねぇよっ!!)


ユウ(あっ、また恒久先輩につっこまれちゃった)

ノリ・シン(イチャイチャしてんじゃねぇよっ!!)


ツネ(だからしてねぇよっ!!!)


忍者部一同が混乱し始めているなか、校長は笑顔のままカツラを手櫛で整えると、重清達を見渡した。


「それで、君達はこんな時間になにをしているのかな?」


突然の核心をついた校長の質問に、一同は口を噤んだ。


正確には、この場での混乱した会話は聡太の『通信』で行われていたものなので、ほとんどずっと無言だったのだが。


「えっと・・・」

さすがに無言のままというわけにもいかず、部長のシンが口を開いた。


「すみません。この学校に、七不思議の噂があって。社会科研究部として、その七不思議の調査に来ました」


ケン(シン、正直に言うのか?)

シン(あぁ。ちょっと気になることもあるからな。みんな、そのまましばらく黙っていてくれ)


ケンの問に心の中でそう答えたシンは、皆に目で合図してそう伝えた。


「七不思議、ですか。その噂なら私も聞いたことがあります。確か、よくある階段の数え間違いが1つと・・・」

そう言いながら校長は、教師達へと目を向けた。


「あとは、時折動く、保健室の人体模型」

花園(あれぇ〜。校長、私の事見てるぅ〜)


「陸上部部室で唸る猛獣の声」

斎藤(あらやだ、猛獣なんて失礼ね)


「図書室ですすり泣く声」

島田(えっ、私のこと!?やだ、恥ずかしい)


「それから、社会科準備室ですすり泣く声、でしたか。しかしおかしいですね。今日は色々と忙しくて、もそれどころではなかったはずなのですが・・・」


ノリ(校長め。俺達の行動は全て把握しているってわけか)

校長の言葉に、ノリは苦虫を噛み潰したような表情をうかべた。


「あぁ。あとこの音楽室にも1つありましたね。

ひとりでに鳴るピアノ、でしたか。言っておきますが、私がこの音楽室のピアノを弾いたのは、今日が初めてですからね?

七不思議のお役に立てなくて残念ですが。

それよりも・・・」

そう言った校長は、忍者部一同を見渡した。


「さすがに今回の件、古賀先生にお任せするわけにはいきませんね。こんな時間に学校に侵入するなどと。

さて、皆さんには何か処分を受けてもらわなければなりませんね」

そう言って校長は、目の前の生徒達をじっと見つめていた。

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