第274話:雑賀本家にて

ロク「いやそれなんだよっ!!」

ツネ「なんだよじゃーよっ!中身が全然ねーじゃねーかっ!」


ロク「わかってるよっ!!」

ツネ「返事とつっこみがごっちゃになってんだよ!」


ロク「うるせーよっ!!」

ツネ「んだとこらぁ!!」



「ねぇ、クル。あれは一体なんなの?」


雑賀本家の修練場の隅に目を向けながら、雑賀美影はため息交じりに隠へと問いかけた。


「えっと・・・六兵衛様の、修行、ですかね?」

隠は、苦笑いしながら美影へと答えた。


「あぁ、姉上は初めて見るんですね。最近時々、あの伊賀の末席―――じゃなくて伊賀恒久が来ては、ああやってお祖父様のつっこみの修行をしているようですよ?」

美影の弟である雑賀充希が、隠との修行でかいた汗を拭きながら美影へと笑いかけた。


(あぁ、今日も姉上はお美しい!!)

心の中で、姉の美しさを称賛しながら。


「ふぅ〜ん。あんなの、何が面白いのかしらね?そんなことより、どうせだったら伊賀の子じゃなくて重清が来てくれればいいのに」

美影は、六兵衛と恒久のやり取りを興味なさそうに見つめながら顔を赤らめて呟いていた。


「はっはっは。そう言わないであげてください、美影様。六兵衛にも。お考えがあってのことなのです」

そう言いながら、雑賀日立が現れた。


「日立。あんなことするのに、お祖父様に何かお考えがあるっていうの?」

美影は、バカバカしいとでも言いたげに日立に目を向けた。


「美影様は、六兵衛様の今のお立場をご存知ですか?」

「なによ急に。立場って、忍者協会の会長でしょ?」


「やはり、ご存知ありませんか。たしかに六兵衛様は協会長です。しかし、今その立場が非常に危ぶまれているのです」

「なによそれ。そんなの初耳よ」


「六兵衛様も、美影様に心配をかけたくなかったのでしょうな。そもそも、現在かなり落ち目と言われている雑賀本家が協会長になっているという時点で、周りからは色々と言われていました」

「まぁ、雑賀本家が落ち目なのは父上のせいなんだけどね」

隠が、汗だくの充希とは違って涼し気な顔で横から茶々を入れてきた。


「ふっ。隠よ、言うようになったではないか。まぁ、確かにその通りだ。しかし、これからはこの雑賀のために、しっかりと働くと誓おう」

「もう年なんだから、あまり頑張らないでね」


「隠、お前こちらに戻ってから儂への当たりが強くはないか?」

「今までの仕返しだよ」


「ふっ、そうか」

「ねぇちょっとあんたたち。親子水入らずのとこ悪いけど、話を戻してくれない?これじゃ、重清みたいだわ」

お互いに笑顔で話す日立、隠親子に、美影が不貞腐れ気味に言った。

しかしその美影の表情も、どこか楽しそうだった。


日立、隠親子も美影も、重清達との出会いで大きく変わったようである。


(あぁ、ちょっとスネている姉上もまた、良き!!)


充希だけは、相変わらずのようだが。


「それで、お祖父様の話の続きは?」

美影が、日立へと問いかけた。


「そうでしたな。これまでもお立場が悪かった六兵衛様が今の地位に居続けられたのは、六兵衛様が平八殿に対して否定的であったからなのです」

「でも、お祖父様は平八様を尊敬していると仰っていたわよ」

美影が、首を傾げた。


「えぇ、実際はそうだったのでしょう。しかし、立場上そういう訳にもいかなかったのでしょうな」

日立は、美影へとうなずき返した。


「だが今は違う。六兵衛様は、これまでの立場を翻すかのように、平八殿推奨派に転じられた。他の者達が、黙っているはずがないでしょう?」

「それはわかるわ。でも、それとあの無駄な修行に、何の関係があるのよ?」

美影は、六兵衛と恒久へと目を向けながら言った。


「六兵衛様は仰っていました。恒久君の、相手や自身の立場を気にせずに物を言う精神が、羨ましい、と。これまでご自身が我慢を強いてきたからこそ、そう思われるのでしょうな」


「んー。わかったような、分からないような・・・もういいわ。あの2人のことは放っておくことにするわ。

それよりもクル!次は私の番よ!ほんと、クルがこんなに強いのに気付かなかったなんて、私もまだまだね。クル、今日こそは一発入れて見せるからね!」


「お手柔らかにお願いします」

そう言って美影と隠が構えると、日立はそれを楽しそうに眺め、充希は熱い視線を美影へと送るのであった。



「ちょっと休憩!」

美影達から離れた場所で、恒久が六兵衛へと言った。


「いや〜、言いたいことを言うというのは、楽しいもんだな」

「そうっすか?俺いつもこんな感じだから、よくわかんねーや」


「はっはっは!師匠には、ずっとそのままでいて欲しいものですな」

「その、師匠ってのやめにしません?俺が目指してる協会長からそう言われると、むず痒くって」


「え〜、これ気に入っておるのに〜」

「いや、そんな風に言っても、可愛くねーからな?」


「おぉ、休憩中もつっこむとは、流石は師匠!」

「はぁ。もういいよ。それより、いつかまた、2中に遊びに来てみてよ。シゲ達といると、休む暇なくつっこまなきゃいけねーからな」


「おぉ、それは楽しみだ。しかし、今の儂に彼らへのつっこみが務まるかどうか・・・」

「そのための修行だろ!よし、もう少しやるか!」


「いや今休憩入ったばっかり!」

「よし!その調子だ!!」


「やれやれ。我が師は、厳しいな」

六兵衛は、そう言って楽しそうに笑うのであった。

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