第26話:忍術と中忍体
4人がそれぞれ忍術契約書を確認したのを見て、古賀が話を続ける。
「おそらく、ソウとアカには1つ、重清と恒久にはもしかしたら複数の術が書かれてるんじゃないかい?」
古賀が4人に対してそう言うと、4人はそれぞれ頷く。
「ソウとアカは、今の私との契約で正式な忍者となったことで、重清と恒久は、血の契約を行って忍者となったことで、それぞれ自動的に忍術が1つ、契約されているんだ。その術は、きみたちの得意な属性に応じて契約される、最も基本的な忍術なんだよ。ちなみに、アカはどんな術を?」
「火鎧(かがい)の術って書いてあります。」
「それは、火の鎧を纏う術だね。体の得意なアカにぴったりだね。」
「なんか、かっこいい!わたしは燃える女なのね!!」
「うんそうだね。」
なぜかテンションの上がっているアカをさらっと流す古賀。
「ソウの術は?」
「木砲(もくほう)の術、ですね。」
「それは、植物を使った遠距離攻撃用の術だね。ソウのレーダーと組み合わせると、かなりのものになりそうだね。」
『攻撃用』という言葉に、誰かを攻撃することを想像したソウが、少し怯えながらも頷く。
「重清、きみはいくつの忍術があったのかな?」
「鉄壁の術と、鉄玉の術の二つです。鉄玉の術は、『具現獣の忍術』ってなってるんですけど、プレッソも忍術を覚えることができるんですか??」
「うん。具現獣は、具現者とは別に忍術を覚えることができるよ。ただし、具現獣が覚えた術を具現者が使うことはできないし、逆に具現者の術を具現獣が使うこともできないんだけどね。」
「だってよプレッソ!」
「他人事かよ!」
プレッソが重清につっこむ。
「それで、恒久はいくつ術がある??」
「三つ、ですね。」
「ツネ、お前ひとりで、そんなにあんのかよ!?」
重清が驚いて恒久を見る。
「あぁ。先生、なんでおれだけこんなに?」
「その前に、きみの術に何があるか、教えてもらってもいいかな?」
「はい。土穴(どけつ)の術、武具分身の術、幻刀(げんとう)の術、ですね。」
「ほう・・・恒吉さんらしいな。」
恒久の術を聞いてそう微笑みながら呟いて、古賀が続ける。
「土穴の術は、他のみんな同様、きみが忍者になったときに契約した術だね。これは、地面に穴をあける術だ。それ以外の2つは、伊賀家の忍術だね。恒久が血の契約をしたときに、恒吉さんが与えてくれたんだろうね。武具分身の術は、一般的にも出回ってる術で、その名の通り武具を分身させる術だね。幻刀の術に関しては伊賀家固有の術だろうから、恒吉さんから教えてもらってくれ。」
「伊賀家固有??」
恒久が口に出した疑問に、古賀がさらに続ける。
「伊賀家だけが使用できる忍術ってこと。このあたりが、契約のもう一つの要素って言うのと関係してくるんだよ。じゃぁその話をしようか。きみたちの忍術の契約書の中に、『作成した忍術』って箇所があるでしょ?以前話したように、忍術は、心・技・体それぞれの力と忍力によって作ることができるんだ。初めて作られた忍術であれば、そこにその忍術が記載されることになるんだよ。」
「すげー!忍術って、自分で作れるんだ!」
そう興奮する重清に対して古賀が返す。
「確かに忍術は作れる。でも、確実ではないんだ。これまでの長い忍者の歴史の中で、多くの忍術が作られている。自分で作ったと思っても、既に誰かが作っていたということもあるんだ。」
「その場合は、どうなるんですか?」
ソウが聞く。
「その場合はね、実はその忍術の最初の製作者によって違うんだ。」
4人が不思議そうに話を聞いているのに気付いた古賀が続ける。
「もし仮に、今私が誰も作ったことのない忍術を作ったとしよう。そうすると、今きみたちが出したのとは別の、作った忍術の契約書が出現するんだ。その契約書の中で、他の忍者のこの術との契約を制限できるんだよ。『自分だけが契約者となる』とか『伊賀家の血をひくもののみ契約できる』とかね。そのときに、『誰でも契約できる』とか『権利を忍者協会に譲渡する』ってすると、誰でも契約できるよになって、術の難易度によっては契約時に自動的に契約できるようになったりするんだよ。フリーソフトみたいな感じだね。」
「えっと、忍者協会ってなんですか?」
と、アカが首を傾げて可愛く聞く。
「忍者協会っていうのは、忍者の取りまとめをしているところって感じかな?忍術の管理だったり、忍者の数を把握したり。ちなみに私のような忍者の教育者は、その下部組織の『忍者教育委員会』ってところ所属してるよ。」
「ちょぉっと待ったぁ!忍者協会の話は分かりました!それより、なんでツネには伊賀家の固有忍術ってのがあって、おれにはないんですか!?」
重清が、今さら気付いてそう叫ぶ。
「その辺は、私に言われても困るよー。その家が持っている術を契約させるかどうかは、当主次第だからね。文句があるなら、雅様に言ってくれ。」
そう言われて、重清は黙ってしまう。
雅にそんなことを言ったら、もれなく修行が付いてくるであろうことを想像して。
「さて、重清がぐぅの音も出なくなったところで、ひとまず忍術と契約の話はおしまい!」
「ぐぅ」
重清がわざわざ声を上げるのを無視して、古賀がまた話し出す。
「最後に以前話した中忍体のルールについて話そうか。中忍体は、毎年8月に行われる。各地区の中学校の中で中忍体に出場するチーム全てがまとめて争うことになる。また、メンバーは必ず6人いなければいけない。この人数に達していない中学校は、出場の資格がないんだ。ちなみにうちも、去年は残念ながら定足数に達することができず、出場することができなかった。」
そんな古賀の言葉を聞いてふと重清が先輩たちに目を向けると、先輩たちが少し悲しそうな顔をしていた。
「そしてルールだが、まずチームは7点持っている。そして、メンバーが1人倒される毎に、1点がチームの点から引かれる。またチームには1人、リーダーを立てる。このリーダーが倒されると、一気に5点が引かれることになる。そして、全ての点数が無くなったチームはそこで敗退となる。ここまではいいかな?」
「つまり、リーダーと、メンバーが2人倒されてしまうとそこで終了ってことか。」
と、恒久が確認するように呟く。
「そ。逆に言うと、リーダーさえ倒されなければ、全ての点が無くなることはない。しかし、ルールはそれだけではない。各チームは、それぞれ中学校の校旗を隠してもらう。もしそれが他のチームに奪われてしまった場合、その時点で敗退となるんだ。ただし、校旗はただ奪えばいいというものではない。奪った校旗を、決められた自分たちの陣地に持ち帰ることで、初めて奪ったと見なされるんだ。だから、もし奪われても、相手が陣地に戻る前に取り返すことができれば、問題はないってことになる。これが、中忍体のルールだ。わかったかな?」
3人が、古賀の言葉に頷き返すなか、ソウが質問する。
「校旗を奪ったチームには、加点とかは無いんですか?」
「いや、無い。この校旗を奪うというのは元々、機密文書を奪うという、忍者によくある依頼が元になっているんだ。奪うという任務で、奪って戻ってくるのは当たり前、依頼は達成して当たり前っていう意味が込められているんだよ。だから、ただ奪うのではなく、それを持ち帰ることまで求められているんだよ。」
古賀の説明に、4人が納得するように頷くのであった。
「さて、とりあえずこれで中忍体のルールはおしまい!」
そう言って、古賀は仕切り直す。
「さてと、諸々の説明はだいたい終わったけど、まだ時間があるね。本当は明日にしようかとも思ってたけど、これからちょっと、模擬戦やろうか。」
「「「「模擬戦!?」」」」
久々に、4人の声が揃う。
「いや。そんなに驚くところ?きみたちが契約した術も、試してみたほうがいいでしょ?さ、さっきの森に戻るよー。」
そう言って忍者部の扉を開いて、歩き出す8人と1匹なのであった。
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