第178話:ダメ、絶対

「うぉーーーーーーっ!!!!」


恒久が『青忍者育成契約』による吊し上げにあった翌日。

夏休みでまだ人気の少ない校内に、恒久の悲痛な叫びがこだましていた。



「ふぅん。そんなことがあったのね」

茜から前日の騒動の経緯を聞いた麻耶が、呆れ顔で茜の話を聞いていた。


「本当よね。キャンプの帰りにあれだけの目に会ったばかりだっていうのに」

茜も、麻耶に賛同するように頷いていた。


「うぉーーーーーーっ!!!!」


「あーもう!うっさいわねぇ。それで、その話とこの叫び声、どう関係があるの?」

「なんか、自分で自分に罰を課してるみたい」

そう言って茜は、図書室の間取から見えるトレーニングルームに目を落としていた。



「いい!恒久君凄く良いわっ!!やっぱりあなたは、我が陸上部に必要な人材よっ!!そうでしょ!?野郎どもっ!!」


「恒久!キテるか!?キテるのか!?」

「いいぞ!恒久っ!!筋肉はトモダチだっ!!」

「鍛えろっ!!そして徹底的に自分をいじめ抜けっ!」

「そうだ!その先に、違う世界が見えてくるぞっ!!」

「あぁー、このしなやかな体っ!食べてしまいたいぞっ!!」


「あんたら、うるせーぞっ!!おれはただ、ここでトレーニングしてるだけなんだよっ!陸上部なんかに、入部はしねーよっ!

だから、だから・・・


頼むから皆さん、離れてトレーニングしてくれよっ!!!!」


「「「「「「筋肉はトモダチっ!!」」」」」」


「いやだから、意味わかんねーって!!」



現在恒久は、よっちゃん率いる陸上部の皆さんと一緒に、仲良くトレーニング中なのである。


何故か、屈強な皆さんがゼロ距離で密集している中で。


前日のチーノの話を聞いた茜がボソリと呟いた一言に恐怖した恒久は、その日の夜、必死になって考えた。


どうすれば、自身の罪を償えるのか、と。


そして考えた末に出た結果が、これである。


名付けて『リアルよっちゃんの刑(重清命名)』である。


よっちゃん率いる陸上部と共に、(物理的に)揉まれながらひたすらトレーニングで自身をいじめ抜く。


身体的にも、精神的にも。


恒久の決意を聞いた男子一同は、全員が漏れなく心の中で、恒久を賞賛した。

よくぞ決断した、と。


そしてそれは、茜と麻耶も同様であった。


「まぁ一応、反省はしてるみたいね」

「まぁ、一応はね。麻耶、あのバカのこと、許してくれる?」


「私は別にいいんだけどね。茜はいいの?」

「ん〜、まだ腹が立つには立つんだけど、あそこまでさせたら、ね」


「じゃぁ今回は、これで許してやるか。でも次にこんなことがあったら・・・」

「もちろん、ただじゃおかないわよね」

茜の言葉に、2人はニヤリと笑うのであった。



そんな2人が忍者部の部室へと入っていくと。


「っしゃぁーー!今日こそ新しい術覚えるぞーっ!!」

重清が、1人意気込んでいた。


「・・・こっちはこっちで、相変わらずバカみたいに元気ね」

麻耶が!呆れたように重清に目を向けた。


「あっ、麻耶姉ちゃん!ツネは??」

「あいつなら、あんたの言う『真よっちゃんの刑』の真っ最中よ。今日は、こっちには来ないんじゃないかしら?」

麻耶に代わって答えるアカの言葉に、重清は笑って、


「ツネも大変だなぁ」

と、呑気なことを言っていた。


「言っとくけどねぇ」

麻耶が、そんか重清を睨む。


「あんた達だって、次に覗きなんて真似をしようもんなら、あんなんじゃすまないんだからね!?

わかってんの!?ショウ以外の男子っ!!」


「「「「「イエッサァーーー!!!」」」」」


ショウ以外の男子が、揃って麻耶に向けて直立した。


「っと。バカどもに釘を刺したところで、今日も修行修行っと。茜、たまには私の相手をしてくれない?」

「よーし!みーちゃんとの修行の成果を、見せてあげるわっ!」

そう言いながら、2人は扉を開けて、森の中へと進んでいった。


「・・・さて、僕らも修行、頑張ろうかー。」

そんな2人の後ろ姿を見ていた、唯一そのまま座っていたショウがそう言って、一同は直立を崩して各々が森へと進んでいった。


「重清、さっきの術のことなんだけど・・・」

ソウと並んで森へと進む重清の背に、チーノ声をかけた。


「ん?」

「新しい術、そろそろ私が教えましょうか?」


「んー。いや、やめておくよ。どうせだったら、自分の力でやってみたいし。

あ、あと、さっきはあぁ言ったけど、修行はこれまで通り、力の使い方を、中心にお願い!」

「あら、それでいいの?今あなたが目指している術は、『男の夢』ではなかったの?」


「まぁ、それはそれ。まずは、基礎をしっかりと、だ。大将のじいちゃんま言ってたしね」

「まったく。自分を襲ってきた相手の言いつけを守るなんて。あなた、それでいいの?」


「良いも何も、おかしなことは言ってないからね。おれが納得してんだから、それでいいんだよ!なんとなく、じいちゃんが生きてても、同じ事を言いそうな気もするし」

「まぁ、平八なら、言いそうではあるわね」


「だろ?ってことで、今日もよろしく!」


「オイラ達のご主人様は、やっぱり意外とちゃんと考えてるんだよな〜」

「この子の具現獣で、良かったでしょう?」


「まぁ、な。あいつといると、退屈はしねーな」

「まったく、素直じゃないんだから」


「おーい、チーノ!プレッソ!早く行くぞー!」


「ご主人様が呼んでいるわよ?」

「はいはい。わーってるよ重清っ!いちいち大声で呼んでんじゃねーよっ!!」


こうして彼らは、今日もまた修行に明け暮れるのであった。



「うぉーーーーーーっ!!!!」

そして、忘れちゃいけない恒久もまた、筋肉とオトモダチになるべく、頑張るのであった。


「あぁーーーっ!!覗き、ダメ!絶対っ!!!」

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