第177話:割に合わない

「あ、ある条件、だと?」

ノリの言葉に、恒久はそう言って冷や汗を流していた。

それはもう、ダラダラと。


「そうだ。やましい気持ちを持ってこの術を契約しようとすると、『青忍者育成契約』によって警告が発せられることになってんだ。

つまりツネ!警告を受けた時点で、お前はもう詰んでるんだよっ!!」

そう言ってノリは、高らかに宣言して恒久を指差した。


いわゆる、『犯人はお前だ』スタイルである。


「ノリさん、ノリノリだな。ノリさんだけに」

重清が、ボソリと呟いていたが、この場において最もつっこみに秀でた恒久は、それに対してつっこむ余裕などあるわけもなく。


「ひゃ、百歩譲ってそうだったとしても!実際に覗きをやったわけでもねーだろ!?だったら、罰せられる筋合いはないはずだろ!」

そう言ってノリに食い下がった。


往生際が悪いことこの上ないのである。


「あんたねぇ!罰が無いわけないじゃない!少しは反省を―――」

そんな恒久に、アカが怒りの声をあげるも、ノリがそれを遮った。


「確かに、お前の言うとおりだよツネ」

「ちょっ、ノリさん!!」

ノリの言葉にアカは反論し、恒久は口元をニヤリと緩ませる。


ノリは激昂するアカに目を向け、ただ頷き返して恒久を見据えた。


「今回のような場合、基本的にはちょっとした罰が適用されるが、それが免除されることもある。今回は、その免除が適用される要件を満たしている」

「また要件かよっ!なんだよそれは!?」

恒久が、声を荒げた。


「そもそもな、今回のような場合はその日に来ている忍者部の全員を集めて、全員の前で伝えることになってんだよ。で、その中に女子がいた場合、罰は免除される。今回は、アカがいるから免除、ってわけだ」

「はっ!だってよ、アカ!お前のお陰で助かったよっ!」

恒久は、そう言ってアカに笑いかける。


「あ、いや。気安く話しかけないでもらっていいですか?この犯罪者が。」

「なっ!?」

侮蔑の眼差しとともに浴びせられるアカの言葉に、恒久はただ絶句した。


「な?わざわざ罰を課さなくても、こういうことになるんだよ。アカ!このことはしっかりと、麻耶にも伝えておけよ!」

「もちろん!いや、ちょっと。そこの人、見ないで貰えますか?汚らわしい。」


(うわぁ・・・)

その場にいた男子一同は、漏れなく恒久に同情の念を抱いていた。

あのショウさえも。


そして、全員が心の中で誓っていた。


(絶対に、やましい気持ちで術を覚えるのは辞めよう)


と。


「あの〜」

いたたまれなくなったソウが、手をあげた。


「ちなみに、女子がいなかった場合はどうなるんですか?」

「その場合はな・・・」

ノリはそう言いながら、1つのプラカードを取り出した。

そこには、こんなことが書かれていた。


『私は、透見の術で覗きを企てた犯罪者です』


「これ持って、近くの女子がいる別の中学の忍者部に遊びに行くことになってたな」


(罰エグっ!!!)


男子一同が、恐怖に打ちひしがれた。


「ふふふ。」

そんな男子達の様子に、チーノが笑っていた。


「チーノ、もしかしてこの事、知ってた?」

そんなチーノを見て、重清が声をかける。


「もちろん。だってこれ、考えたの平八ですもの」


「おのれ!雑賀平八めっ!!!!」

それを聞いた恒久は、血の涙を流しながら叫んだ。


「いやお前、誰の目の前で平八様に八つ当たりしてんだよ。そもそもこれは、お前のせいだろうがっ!!」

そう言って、ノリは恒久の頭に拳を振り下ろした。


「いってぇ!わかってるよっ!!反省してるって!!!」


「ふふふ。懐かしいわね。恒久、平八もね、同じ事を考えたのよ?」

「へ、平八さんが?」

頭を押さえながら、恒久がチーノを見る。


「ええ。しかもあなたのように未遂ではなく、実際にやっちゃったのよ。」

「ちょ、それ個人的には聞きたくなかったっ!」

重清が複雑な表情を浮かべて叫んでいたのを気にせず、


「そ、それで、平八さんはどうなったんだよ?」

恒久はチーノを促した。


「あの時は、こんな契約は無かったから。実際に覗きをやって捕まり、周りの女性陣から裸に向かれて木に逆さ吊り。

そそのあと○△が□✕で、それからあれがこれして・・・」


※『青忍者育成契約』に基づき、明確な表現は控えさせて頂いております。


「で、大いに反省した平八が、後の若い忍者達が、自分と同じような目に合わないようにするために、この決まりを作ったと言うわけよ。」


「おぉ!!雑賀平八様っ!!先程は失礼なことを言ってすみませんでしたっ!!」

チーノの話を聞いた恒久は、涙を流して重清に拝み始めた。


「いやおれに言われても。」

恒久から拝まれる重清は、困惑してそれを見ており、それ以外の男子一同は、


(平八様、グッジョブ!!)


心の中で平八に、心の底から感謝していたという。


そんな忍者部の部室では、


「それもいいわね」


アカが1人そう呟き、それを聞いた恒久が恐怖に体を硬直させていた。

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