第176話:青忍者育成契約

重清達の視線が、ソウに集中する。

正確には、ソウの手元に。


そんなソウの手のひらでは、小さな竜巻のようなものが渦巻いていた。


「えーっと・・・えいっ。」

ソウは、戸惑いながらもその竜巻を近くの木へと放った。


ソウの手のひらから放たれた竜巻は木へと近づいていき、そのまま木を切り裂いた。


「「おーーっ!!」」


重清とプレッソは、その光景にただ拍手を送って感嘆の声を漏らしていた。


「今のは、鎌鼬の術ね。確か、協会が管理している術だったはずよ。」

「あ、だからすぐに使えたんだね。」

解説役のチーノに、ソウが納得したように頷いていた。


「先生役が真っ先に術覚えちゃったわね。」

アカが、笑いながらソウへと近づいてきた。


「あははは。なんか、ごめんね。あれ?ツネは?」

「ツネならまだ向こうの方で、なんか真剣に―――」


アカがそう言って振り向き、ソウや重清達もその視線の先を追ったとき、


「きたきたきたぁーーーっ!!!・・・あれ?」


テンションを上げて叫び、直後に首を傾げる恒久の姿が重清達の視界へと飛び込んできた。


重清達は視線を交わして、恒久へと駆け寄った。


「ツネ、どうしたの?術、出来たの??」

「ん?あぁ、ソウ。多分出来たと思うんだけどさ。なんか、前みたいな音じゃなくて、警告音みたいなのが頭の中で鳴ったんだよな。」

恒久が、不思議そうに術の契約書を見ながらそう返していた。


「ちっ。やっぱ、術は覚えてねーか。だったらさっきの音は―――」

恒久が、術の契約書を見ながら舌打ち混じりで呟いていると、


『えー。お前ら、一度部室まで戻ってこい。直ぐにだ!』

ノリの声が、辺りに響き渡った。


「どうしたんだろう?何かあったのかな?」

ソウが、怯えたように3人とプレッソ達を見ると、


「ふふふ。大丈夫よ。行けばわかるわ。」

チーノが笑いながらソウに返した。


「だってよ。ま、行ってみようぜ!」

重清の言葉に、一同は頷いて部室へと駆け出していくのであった。



「よし、全員揃ったな。」

2中忍者部の面々がそれぞれ適当に席に着いたのを確認したノリが、部屋を見渡して切り出した。その顔は、少しにやけていた。


「本日は、非常に残念なお知らせがある。先程俺に連絡が入った。お前らの中に、『青忍者育成契約』に違反した者がいる。」


「『青忍者育成契約』??」

一同が、声を揃えた。


「まぁ有り体に言えば、『健全な忍者を育てましょう』って決まりごとだ。

今回は、とある術を覚えようとした者がいる。」

ノリの言葉に、1年生全員の目が恒久へと注がれた。


「え、いや。俺じゃねーかもしれねーじゃん!」

「いや、ツネ。お前だよ。」


「あーそうかよっ!ためる気無しかよっ!!」

恒久の諦めたような叫びが響いた。


「ノリさん。ツネは、どんな術を覚えようとしたんですか?」

シンが、恒久をちらりと見る。


「今回ツネが契約しようとした術は『透見(すけみ)の術』。

術者が任意の障害物を無視して、その先を見ることができる術だ。

壁や床、それから・・・」

そこでノリは恒久をじっと見て口を開く。


「服、なんかをな。」

「ちょ、ちょっと待てよノリさんっ!確かに俺は、そんな術を狙ってたさ!でもな、服を透けさせるなんて、そんなこと考えてなかったぞ!!」

恒久が、アカのジト目を掻い潜りながら立ち上がって声を上げた。


「ツネ、そんな言い訳は通用しないんだよ。」

そんな恒久に、ノリは寂しそうな顔を向けた。


「この『透見の術』はな、普通に契約しようとすれば、問題なく契約できる。ただな、ある条件を満たしたときだけ、協会を通して我々教師に警告が来るようになっているんだよ!!」

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