第284話:グラの本気

「「オオカミと、ゴリラに鳩って・・・」」

重清とソウは、砂塵から現れた具現獣に目を奪われていた。


((なんか、全部惜しいっ!!))

2人の心は、その言葉でいっぱいだった。


彼らの頭の中には、犬・猿・雉をお供にした桃から生まれし勇者の姿が浮かんでいたのだった。


彼らに緊張感というものは無いのだろうか。


「さてと。これで数でもこっちが有利になったわけだが」

グラがそう言いながら、重清達に笑いかけた。


「安心しろ。こいつらは直接手は出さねぇよ。つっても、手は貸してもらうがな」

グラは自身の姿が桃男と重ねられているとはつゆ知らず、そう言って忍力を放出した。


「いくぞ、お前らっ!!」

「ワォーーーン!」

「ゴリゴリッ!」

「クルッポー!」


グラの言葉に、具現獣達は声を上げてその体を光へと変えていった。


「いや、ゴリラの鳴き声おかしくね?」

そんな重清のつっこみなど聞こえていないグリの体を、光となった具現獣達が包み込んでいった。


「「「うわぁ・・・・」」」


光に包まれていたグラの姿があらわになると、重清達は声を漏らした。


グラの腕は、ゴリラのたくましい腕へと変わっており、その足もオオカミの俊敏そうな足へと変化を遂げていた。


さらにその背からは、大きな鳩の翼が生えていた。


「バサバサッ」


その翼で上空へと舞い上がったグラは、重清達を見つめていた。


そのグラの顔は、ゴリラの様な深い堀が入り、顔中にオオカミのように毛がびっしりと生えていた。

さらにその頭には、猫耳ならぬオオカミ耳が生えており、その下にはグラ自身の耳もしっかりと残っていた。


グラは、鳩の嘴となった口を開いた。


「この姿になったらゴリ、もうお前らに勝ち目はポッポーだわぉーーん!!」

「いや半分は何言ってるか分かんないんですけど」


なんかもう、本当に『うわぁ』な姿となったグラに、重清はボソリとつっこんでいた。


「でもさぁ、シゲ。なんか変じゃない?」

ソウは、グラから目を逸らさないまま重清へと話しかけた。


「うん。あの姿は変すぎるよね」

「いやそこじゃなくて」

ソウはグラを見つめたまま、重清へとつっこんだ。


「あの人さっき、具現獣よこせって言ってたよね?

ってことは、最低でもあの3体のうちの2体は、誰かから奪った可能性が高いよね」

「あぁー。まぁ、その可能性はあるな」


「それなのになんで、あの具現獣達はあの人に協力してるのかな?」

「もしかして、術で操ってるとか?」

ソウの言葉に、重清がグラをじっと見つめながら返すと、


「はぁ!?具現獣を操るなんて、オイラ絶対に許せないぞ!!」

プレッソが重清の頭に乗りながら怒りの声を上げた。


(いいえ、その可能性はないと思うわ)


そんなプレッソと重清の頭の中に、智乃の声が響いた。


「うわっ、びっくりした!いきなり話しかけないでよ、智乃」

(ごめんなさいね)


(で、智乃。あいつが具現獣達を操っていないって根拠は?)

プレッソが、智乃へと頭の中から問いかけた。


(あの子が使っている術よ。あれは、『獣装じゅうそうの術』といって、具現獣と心を通わせていないと使えないのよ。もしも心を通わせていなかったら、全身が獣へと変わってしまうの)


「全身が獣に・・・・」

重清はそう呟きながら、グラの姿をじっと見た。


「いや、微妙じゃね?」

まぁまぁ獣になっているグラの姿に、重清はグラが具現獣と心を通わせているのか、判断に迷った。


顔はほぼ獣なのだから、無理もないのである。


「智乃、なんだって?何が微妙なの??」

1人会話に加われていないソウが、重清へと問いかけた。


「あー。あの人が使ってる術、『獣装の術』っていって、具現獣と心を通わせてないと、全身獣になっちゃうんだって」

「うん。それは確かに微妙だね」

ソウは、重清の言葉に納得したように頷いた。


(あの術に飲み込まれた者の姿は、あんなものではないわ。やっぱりあの子・・・・)

(うむ。ならば何故あの者は儂らを・・・)

智乃とロイが、2人だけでそんな会話をしていると。


「おいガキどもゴリ!作戦会議はクルッポーか!?じゃぁそろそろわぉーーんっ!!!」


グラはそう言って、翼を羽ばたかせて重清達へと向かっていった。


「ゴリーーっぽーー!!」

グラは叫びながら、拳を突き出した。


「くっ、鉄壁の術、硬!!」


咄嗟に重清は、グラの拳の前に鉄の盾を発動した。


しかし鉄の盾はグラの拳を受け止めることなく突き破られ、そのまま霧散していった。


鉄の盾に一瞬だけ阻まれたことによって狙いの逸れたグラの拳は、重清達が背にしていた岩へと叩きつけられた。


「「「うわぁっ!!」」」


爆散した岩の衝撃で、重清たちは散り散りに吹き飛ばされた。


「鉄壁でも防げない・・・これ、ヤバくね?」

重清は、グラの姿を見ながら久々に冷や汗をかくのであった。

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