第69話:ガクからの追加報告
小野田が笑ったのを見て安心した重清は、ふと思う。
「って、あれ?契約って、忍者の根幹ってノリさん言ってましたよね?ってことは、名前つけるのって、じいちゃん関係なくないですか?」
「今更かよ!ノリさん、コイツ本当に平八さんの孫なんですか!?」
(あ、じいちゃんのこと、凄いとは思ってくれてるんだ。)
小野田の言葉に、嬉しくなる重清。
祖父を嫌っていると思っていた男が、ちゃんと認めてくれているということが嬉しかったのだ。
お互いにニヤニヤしている小野と重清、そしてそれを呆れ顔で見ているプレッソにため息をつきながら、ノリが話し出す。
「重清の言うとおり、契約というものは昔から存在していた。その中には、お前らが最初にやった契約も、確かに入っていた。だがな、昔は名前を勝手に決めるなんてシステムは無かったらしいんだよ。」
「え?」
「それが契約に組み込まれたのは、今の忍者教育のカリキュラムが作られた頃だと言われているんだよ。」
「言われている?でも、ノリさんはじいちゃんの弟子だったんでしょ?その辺、聞いてないんですか?」
「そりゃ聞いてみたさ。でもな、その話になると先生は、いつものように笑ってお茶を濁して教えてくれなかったんだよ。色んな意味で、隠し事の多い人だったからな。」
「ぶふぉっ!」
ノリの言葉に、小野田がつい吹き出していると、
「ストンっ」
と、輪になっていた3人(と、重清の頭の上のプレッソ)の真ん中に、クナイが刺さる。
「「「「・・・・・・・」」」」
3人と1匹が視線を組み交わし、ただ無言で頷いていた。
「えっと・・・あ、でな。結局、コイツの忍名がガクになったってのは、平八先生のせいかもわからないのに、コイツは勝手に決めつけて、平八先生を敵視してたってわけさ。」
「へ、へぇー、そうなんですねぇー。」
クナイの件を気にしないように努めていた重清は、ノリの言葉にたどたどしくそう返す。
「で、重清の話ってのは終わりか?」
「はい!ありがとうございました!じゃぁおれ、みんな所に向かいます!ガクさんも、ありがとうございました。」
「いや、こっちの方こそありがとうな。シゲ、いや。雑賀重清!修行、頑張れよ!」
「はい!」
そう笑って返事をした重清は、プレッソを頭に乗せたまま走り去って行った。
「いい子ですね。」
「だろ?平八先生の孫で、俺の教え子なんだ。当然だろ?」
「あたしの孫でもあるんだけどねぇ。」
背後から突然会話に入ってくる声に、ノリと小野田は体を強張らせる。
「後ろを取られるなんて、あんたちもまだまだだねぇ。」
「いや、雅様が相手だったら、ほとんどの忍者はそうなりますって。」
ノリが苦笑いしながら突然やって来た雅に返す。
「雅様、修行はいいんですか?」
「ん?前も言っただろ?男と2人っきりにはなりたくないって。でも、重清も向かったことだし、あたしも向かおうかねぇ。」
そう言って歩き出した雅が、くるりと向き直す。
「ガクや。今度、あの人に会いに来ておくれ。」
「えぇ、必ず。そしてちゃんと、平八さんに謝らせてもらいます。」
「本当は、あの人がちゃんと生きてる時にそうして欲しかったんだけどねぇ。あの人、ずっと気にしてたんだよ?」
「・・・申し訳ありません。」
「ま、重清のお陰で考えを改めてくれたんだ。あの人も喜んでいるだろうさ。」
そう言うと雅は、その場を去っていく。
「・・・あの人、どこから聞いていたと思います。」
「そりゃぁ、最初からだろ。」
顎で先程地面に刺さったクナイを指しながら、ノリが小野田の言葉に答える。
「ですよね。まったく、恐ろしい人だ。」
「あの人の修行を受けたこと無いやつが、あの人の恐ろしさを語るな。」
「そ、そんなに厳しいんですか?」
「・・・何も聞くな。」
そう答えるノリの目から、血の涙が流れているのが小野田には見えたが、それはきっと勘違いなのである。
「それよりもガク、俺に何か話したいことがあるんだろ?」
「あ、そうでした。いつの間にか脱線していましたね。」
「だろ?だいたいの場合、ウチの脱線の原因は、重清なんだよな。」
「ふっ。本当に面白い子ですね。っと。また脱線しそうなので、本題に入りますよ。先程報告したひったくり犯、小松についてです。」
「まだ何かあったのか?」
「えぇ。と言っても、小松自身についてではありませんが。
ウチの署長の松本なのですが、どうやら、小松が忍者であることに気付いていたフシがあります。」
「何?どういうことだ?我々でも気付かなかったのにか?」
「はい。明確に、と言うわけではなさそうなのですが。」
「詳しく話せ。」
ノリの言葉に頷いて、小野田は話し出す。
「松本は自身の部下に、独自に今回の事件を調べさせていたようなんです。おそらくは、どの事件を忍者部に協力させようか考えるためだと思います。
その部下からの報告で、今回の犯人が常人よりも早いスピードで走り、いつの間にか姿をくらませるというような情報が入っていたようです。」
「忍者の存在を知る松本ならば、その情報から犯人が忍者である可能性に行き着くこともできる、か。」
「はい。」
「だとしたら、これは明確な契約違反だぞ?」
「えぇ。本来、忍者を相手とする場合には、犯罪の重さに関わらず、忍者が相手をすることになっていますからね。
しかし、今回の場合は・・・」
「なるほど。あくまでも『軽犯罪の捜査に忍者部が協力する』ことになっていた。だから契約違反ではない、ってか。ふざけたヤローだ。」
「しかも、もしも犯人が忍者かもしれないと知られたときのために、わざわざ俺を彼らに付けています。」
「『もしもの時のために、ガクをつけてましたー』ってことか。あの古狸め。」
「どうします?」
「どうも何も、ここまで虚仮にされてんだ。とりあえずアイツの裏くらいは探ってみるよ。」
「しかし・・・」
「安心しろ。お前に頼るつもりはない。曲がりなりにもアイツはお前の上司なんだからな。」
「すみません。」
「そう思ってるんなら、さっさと上に上がりやがれ。」
「・・・善処します。」
「ったく。話は終わりか?そろそろ修行に向かうが、お前も見ていくか?」
「いえ、今日のところは帰ります。あ、最後に1つ。
重清なんですが、小松との接触で殺気に敏感になっているようです。気をつけてやってください。」
「お前も、大概面倒見がいいな。」
「良い見本がいますからね。」
そう言って笑う小野田に、
「じゃぁな。あ、小松ってやつと契約した甲賀を名乗る忍者、こっちでも探るつもりだが、お前の方もたのんだぞ。」
と、ノリは照れくさそうに頬をかきながら、去っていく。
「さてと、仕事に戻るか。ったく、上司の尻拭いしてんだから、特別手当くらい欲しいもんだぜ。」
そう呟いて、小野田も忍者部の部室を出ていくのであった。
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