第180話:合宿と回収
「なぁ、どうする?」
『中央公園』の片隅で、重清が絶望に打ちひしがれながら囁くように言った。
重清の視線の先には、同じく絶望の色を浮かべた聡太、恒久、茜が、ただ俯いて座っていた。
ちなみに、プレッソとチーノはそれぞれ玲央と智乃へと変化し、4人とは少し離れてその様子を見ながら、小腹を満たしていた。
「ま、まだ1週間あるんだから、そこまで悲観的にならなくても、いいんじゃない?」
重清が、無理矢理作った笑顔を3人に向ける。
「そ、そうだよな!まだ1週間もあるんだし、これから始めればどうにかなるよな!」
「ま、まぁそうよね。何も、そこまで焦る必要はないのよねっ!」
恒久と茜が、重清の言葉に同調して頷いた。
「で、でもさ。これからそれぞれが題材を決めて、もしそれが被ったりしたら・・・」
聡太が、楽観的な3人にそんな言葉を投げかける。
「「「・・・・・・・」」」
再び、あたりは静寂に包まれる。
そんな静寂を破ったのは、聡太だった。
「あのさ、今日みんなで、泊りがけで考えない?」
3人の視線が、聡太に集中した。
シゲ「ソウ、それいいな!」
ツネ「みんなで考えれば、被ることもないもんな!」
アカ「でも、どこに泊まるのよ?」
ソウ「ウチは、無理かなぁ。お父さん忍者じゃないし、色々と説明が面倒くさそう」
アカ「それだったらウチもそうよ」
ツネ「ウチも無理だからな!お袋、そういうのスゲー嫌がるんだよ!」
シゲ「まぁ、ウチだろうね」
ソウ「じゃ、シゲん家に決定!」
ツネ「だな!シゲん家なら、親がどっちも忍者だし、その辺の理解はあるしな」
アカ「あ、わたし参加できないかも」
ツネ「おいっ!出鼻挫くなよっ!」
アカ「仕方ないでしょ!?ウチのパパが、男の子の家に泊まるのなんて許してくれるわけないもん!」
シゲ「アカ、パパって呼んでるんだ」
アカ「今そこは関係ないでしょ!?」
ソウ「じゃぁ、ぼく等3人はシゲの家で一緒にやって、アカはぼくの『通信』でのオンライン参加でいいんじゃない?」
ツネ「いやそれ、普通にスマホのテレビ電話使えばよくね?」
その後、何だかんだと話し合い、重清、聡太、恒久は鈴木家にて泊まり、茜は自宅からスマホによる参加という形で、一緒に作業することが決定した。
「あ、母さんから連絡返ってきた。ウチ、OKだってさ」
重清がスマホを確認してそう言うと、一同は一旦解散することとなった。
「まさか、この夏休み期間中に2回もお泊りするとは思わなかったな~」
『中央公園』からの帰り道、重清はそう言って笑っていた。
ちなみにその後ろでは、玲央と智乃が小腹を満たしたことで満足そうな顔をして歩いていた。
とはいえ、彼らの本来の食事は重清の忍力であるため、本当にちょっと小腹を満たしたくらいの感覚でしかないのだが。
それはさておき。
「とりあえず、今回は変な事件が起きないといいけどね」
重清の言葉に、聡太は真剣な顔でそう答えた。
「ちょ、ソウ!ここで変なフラグ立てんなよな!」
「ごめんごめん!」
そう言って笑いあいながら、2人は重清の家の前へと到着する。
「じゃ、またあとでな!」
「うん!すぐ行くね!」
そう言って聡太と別れた重清が家の扉を開けようとすると・・・
「バタンッ!!」
目の前で突然開いた扉に、重清は思いっきり顔面を強打した。
「いってぇーーーーーーー!」
「おいおい、大丈夫かよ重清!」
開け放たれた玄関の前で顔を押さえてうずくまる重清に、玲央と智乃が駆け寄っていると、扉の奥から人影が出てきた。
「ちょ、扉はゆっくり開けて――――」
重清は扉から出てきた人物に抗議すべく、顔面の痛みをこらえながら顔をあげ、そして息を呑んだ。
重清の視線の先にいるのは、美しい少女だった。
おそらく、年のころは重清と同じくらいのその少女は、長い黒髪を後ろでひとくくりにし、何故か和服を身に纏っていた。
普段着なのであろうか。
決して派手なものではなく、むしろ地味ともいえる色合いのその和服は、逆に少女の美しさを際立たせることに一役買っていた。
そんな少女に重清が見とれていると、少女が慌てたように重清へと近づき、うずくまったままの重清に合わせてその場に屈んだ。
「申し訳ございません!大丈夫ですか?」
「は、はいっ!!」
重清は、痛みも忘れて少女に答えた。
「もしかして、こちらのお宅の?」
少女は、そう言って首を傾げた。
(かっ、かわええのぉ!!)
そんな少女の様子に目がハートにならんばかりに見惚れてしまった重清は、そう思いつつ気を取り直し、何故か正座した。
「はいっ!おれ、じゃなくて、僕、鈴木重清と言います!!」
「ちっ。余所行きモードになって損した」
「へ??」
重清がそんな声をあげるのと同時に、重清の頬に衝撃が走り、その勢いのまま倒れこんだ。
「なっ!?」
玲央はその光景に唖然として立ち尽くし、智乃はただ、少女を見据えて立っていた。
「どけよ末席。私の道を塞いでんじゃねーよ。潰すぞ?あー、末席の顔、触っちまったよ」
重清に見事な裏拳をかましたその少女は、そう言って自身の手の甲にアルコールを吹きかけ、そのままスタスタと歩いて行ってしまった。
「えー」
重清は、頬を押さえてただそう声を漏らした。
「あれ?シゲ、そんなとこでなにやってんの?っていうかさっきの子、誰?めちゃくちゃ可愛くなかった!?」
少女と入れ替わるようにやってきた聡太が、暢気な声でやってきた。
「なんか、もうさっきのフラグ、回収したみたい」
重清は頬を押さえたまま、呆然とした表情で、聡太にそう返すのだった。
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