第6話:そして、1年
古賀少年が中学に入学して、もうすぐ1年。
春休みを目前に控え、1年を締めくくる終業式の日、忍者部の部室にノリの怒号が響き渡った。
「学校を辞めるって、どういうことだよ!?」
その怒号を受けた平八が、困り顔で答える。
「どういうも何も、そのまんまの意味だよ?そもそも私は、顧問のいないここの忍者部を1年だけ臨時で見るために来てただけだし。って、説明したよね?」
「聞いてねーよ!なぁロキ!?」
「え?聞いてたんだぜ?」
「はぁ!?お前、何でそれ俺に教えなかったんだよ!?」
「教えるも何も、一緒に聞いてたんだぜ?」
「いや、俺は聞いてねーぞ!!」
「いや、確かにその場にいたんだぜ。社会科研究部の説明会だーって平八先生が話し始めた、一番最初に言ってたんだぜ」
「はぁ!?いや、絶対聞いてない!」
(ノリ、ちゃんとその場にいたわよ?)
具現化されていたハチが、ノリの心に語りかけてきた。
「いや嘘つけよ!お前はまだその時、具現化されてなかっただろうが!」
(ちぇっ、会話に加わりたかったのよ〜)
ハチが、不貞腐れたようにそう言っていると、
「ノリは、ブス〜っとした顔で座ってたからね。『俺は、触れるもの皆傷つけちまう〜』みたいな表情浮かべて。だから、聞いてなかったんじゃない?」
平八が、渾身の『俺は、触れるもの皆傷つけちまう〜』表情を浮かべて言った。
「いや、ちょ、そ、そんな顔してねーよ!なぁロキ!」
「いや、確かにしてたんだぜ?しかも、時々スゲー怖い目で俺のこと睨んでたんだぜ?」
「あ〜、睨んでた睨んでた!」
「いや俺の表情のことはいいんだよ!あぁもう!!平八先生と1年も過ごしたから、ナチュラルに脱線に乗っかっちまうじゃねーかよ!」
「会話はいつも、脱線の連続だったんだぜ。脱線に脱線を重ねて、回り回って話の本線に戻ったときは凄かったんだぜ」
「いや、あれは確かに奇跡的だった・・・じゃねーよ!それはいいんだよ!そんなことより、平八先生!辞めるなんて言うなよ!」
「そんなこと言われても、ねぇ」
そう言って平八は、頬をかいていた。
「俺、まだまだ平八先生から色んなこと学びてーんだよ!」
「私の後任も、素晴らしい忍者だから学べることはたくさんあるはずだよ?
なんたって、元天才忍者、風魔呉羽の数少ない弟子の1人―――」
「そんなの、関係ねーよっ!!!」
平八の言葉を遮るように、ノリは叫んだ。
「俺は、あんたの元で学びたいんだよ!平八先生!俺を、正式に弟子にしてくれよ!!」
ノリは、そう言って平八に頭を下げた。
「こう見えて、私は色々と忙しいんだよ?協会の仕事もあるし。でも、学びたいと言われたら教師としては・・・ん〜、でもなぁ。せっかく私の作ったカリキュラムだから、しっかりと忍者部で学んでほしいし・・・」
「わかった!じゃぁ、カリキュラムが終わるまでは正式な弟子じゃなくてもいい!基本的には新しく来る先生の元で学ぶ!平八先生は、手の空いた時だけ教えてくれればいい!カリキュラムが終わったら、その時に改めて弟子にするか考えてくれればいい!だから!!」
「わ、わかったって!じゃぁ、ノリの方針でいいから!とりあえず、今は仮弟子ってことにするから!
はぁ〜。もう弟子は取るつもり無かったのになぁ〜」
「じゃ、じゃぁ!?」
「うん。ノリを、この雑賀平八の弟子として認めるよ!」
「ほ、ホントですか!?って雑賀!?っていうか、このカリキュラムって平八先生が作ったの!?」
「あ、間違えた。今は甲賀平八だった。っていうか、今更〜」
「いや、その話はどっちも初耳で、俺も驚いてるんだぜ」
ロキが、呆れたように平八を見ていた。
「あれ〜?おかしいな?ま、いっか。その辺のことはおいおい話すとして。あ、正式に私の弟子になっても、雑賀は名乗れないからそのつもりでね」
「ったく。んな大事なこと、まいっかで済ませるなよな」
ノリほため息交じりにそう言うと、ロキへと目を向けた。
「ロキ、お前も平八先生に弟子入りするだろ?」
「ちょ、ノリ!私の意見は―――」
「いや、俺は平八先生の弟子にはならないんだぜ」
ロキは、平八の言葉に被せるようにノリに答えた。
「えぇ〜。それはそれでショックだな〜」
と小さく聞こえる爺のわがままを無視して、ノリは再び声を荒げた。
「なんでだよ!?一緒に平八先生の元で修行してきたじゃねーか!これからも、一緒にやろうぜ!」
1年前のノリからは想像もできない言葉が、3人だけの部室に響く。
しかし、ノリはそんな言葉を恥ずかしげもなく言ってのけた。
彼はこの1年で、大きく変わったのだ。
そんなノリに対して、ロキは決意を込めた目で見返した。
「俺は、お前に、甲賀ノリに勝つ事が目標なんだぜ。だから俺は、お前とは違う道を行くんだぜ!」
「違う道って言っても、中学のうちはここでの修行がほとんどなんだけどね」
「先生!今俺のカッコいい所なんだぜ!!」
ロキは、平八に抗議の声をあげて、ノリに笑いかけた。
「まぁ!そういうわけなんだぜ」
「ったく、無駄なことを。どうせお前は、俺には勝てねーよ」
「んー。ロキは時々卑怯な手を使うから、心配だな」
「卑怯だろうとなんだろうと、勝てばそれでいいんだぜ!」
ロキの言葉に、平八とノリはお互いに苦笑いを浮かべるのであった。
こうして孤独だった古賀少年は、忍者となり、そこで生涯の師と友を手に入れたのであった。
その後、彼がどんな人生を送ったのか。
それは是非、彼に会って確かめて欲しい。
彼は教師として、どこかの中学校で忍者部の指導をしているはずだから。
著:雑賀 平八
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