第334話:松本の息子
「松本、だと?」
ノリは、目の前の少年にバレないように舌打ちをした。
元忍ヶ丘警察署長の松本は、以前重清達が警察の厄介になった際に、それを不問とすることを条件に忍者部とノリへ、捜査協力依頼をしてきた男であった。
軽犯罪を忍者部に、重犯罪をノリに、それぞれ無償で捜査協力せよとの条件であった。
にも関わらず松本は、ひったくり犯であった小松が忍者かもしれないという情報を掴んでおきながらそれを隠し、軽犯罪として中学生である忍者部にその捜査協力を依頼してきた。
その結果、捜査協力に当たった重清達は窮地に立たされ、ガクの助けもあって難を逃れていた。
ノリが報復のために松本の汚職の証拠を集め、いつでも告発できるという時になって、自殺に見せかけて何者かに殺害された男なのである。
(あいつ、忍者の存在を知っているのをいいことに、息子をここに来るよう誘導しやがったな)
ノリは心の中で呟いた。
本来忍者の存在は、隠されている。
しかし一部の権力者にはその存在が明かされている。
松本もそうであった。
いくら忍者の存在を知っていても、それを他言することは禁じられており、それを破ればその記憶を無くすという契約を、権力者達は忍者協会と結んでいた。
松本の行為は、それにギリギリ反しない範囲でのものではあったが・・・
(限りなくアウトに近いぞ、あの野郎)
ノリは心の中で毒づいた。
しかし既に松本はこの世にはおらず、また目の前の少年に至っては何も知りはしないのだ。
しかもその少年はノリの忍力に怯えながらも、強い意志を持ってその場に留まっていた。
(さすがに、追い返す訳にはいかないか)
ノリはそう考えて、松本少年に笑いかけた。
「松本署長のご子息ですか。お父様には生前、お世話になっていました」
ノリは松本少年にそう言うと、もう1人の生徒と松本少年を交互に見て、
「では、2人とも入部希望ということでいいですね。
このあとの話を聞いたら、『やっぱりやーめた』はナシですよ?」
ノリがそう言うと、2人の生徒は強く頷き返した。
「いや〜、去年の入部希望者と違って、聞き分けが良くて助かるよ」
そう言いながらノリは、重清達へとニヤニヤとした笑みを向ける。
シゲ「あ、もしかして今の、嫌味ってやつ?」
ツネ「だな」
ソウ「シゲでも分かるくらいの盛大な嫌味だったね」
アカ「いや、わたしはあの時、何も反論してなかったんだけど」
新2年生達が口々に声を漏らすのを咳払いで制したノリは、2人の生徒に向かって言い放った。
「実はこの社会科研究部、忍者部なんです」
「「へ??」」
ノリの言葉に、2人の1年生は声を揃えた。
「いや〜、毎年この反応を見るのが面白い。でも、事実なんだなぁ、これが」
ノリはそう言いながら、背後の掛け軸へと手をかざした。
その瞬間光輝く掛け軸を、2人は呆然と見つめていた。
「後の話は、
ノリはそう言うと、そのまま掛け軸の向こうへと歩き去ってしまった。
「うわ〜。ノリさん今回、説明雑だな」
シンはそう言うと、掛け軸の方へと歩き、1年生2人へと振り返った。
「まぁ、俺らもその忍者部の一員なんだ。悪いようにはしないさ。だから安心して、来てくれよ」
嗤ってそう言ったシンが掛け軸の向うに歩いていくと、
「シンの言う通りだ!安心してついてこい!」
「このゴリラの事は無視して良い。けど、何も心配はいらない」
ノブとケンも、そう言って忍者部の部室へと進んで行った。
「ま、そういうことだから、2人とも、行くわよ!」
茜はそう言ってショウの弟(仮)の腕を引くと、そのまま2人で掛け軸の向こうへと消えていった。
「あいつ、2人ともとか言いながら、1人だけ連れていきやがったな」
「まぁ、茜らしいよね」
恒久と重清はそう言いながら、前に進み、
「「じゃ、お先!」」
そのまま聡太と松本少年を残して行った。
「まったく。先に行っちゃうなんて、先輩としての意識に欠けるよね」
聡太はため息混じりにそう言うと、
「大丈夫?行けそうかな?」
松本少年に心配そうな目を向けた。
「は、はいっ!」
「よし!じゃぁ、行くよっ!」
松本少年の元気な声を聞いた聡太は、彼の手を引いて皆の待つ部室へと歩みを進めるのであった。
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