第146話:呉羽ばあちゃんの具現獣講座

「ありゃ、私の土の忍力さ。

具現獣は、具現者の忍力であれば何でも好んで食べるんだよ。

まぁ、さっきみたいに土の忍力を与えられた具現獣は、その分の忍力は土の忍力としてしか使えないんだけどね。」

「えっ、じゃぁ、属性の忍力を与えるのって損じゃない?」


「まぁ確かに、多くの忍者はそう思っているね。」

「ってことは、実際は違うのかよ?」

やっと立ち直った恒久が若干苛立たし気に呉羽を見る。


「まったく。それが術を習いに来た者の態度かってんだ。まぁいいさ。

あんたの問いに答えるならば、答えは否。実際に、具現獣は与えらえた属性の忍力としてしか使用はできないよ。」

「じゃぁ、何で呉羽ばあちゃんは土の忍力をあげたの?」


「使用が限られるという短所はあるが、ちゃんと長所もあるのさ。多くの者は、気づいていないようだがね。」

「長所?どんな??」

重清が、ついつい身を乗り出す。


「ぐいぐい来るね。ま、先輩として教えてやろうかね。

まずは効率、だね。通常具現獣は、与えられた属性の無い忍力をそれぞれの属性に変換して使用しているんだよ。


その時、ごく僅かだが忍力が消費されるのさ。本当に些細なものだから、あまり気にされてはいないがね。

しかし事前に属性の忍力を与えていれば、そんなことは起きない。与えられた忍力の分だけ使うことができるってわけさ。」


「おぉ~~」

重清が小さく声をあげる。


「そしてもう1つが、術の威力さ。具現者の忍力をそのまま使えるからか、術の威力が強くなるのさ。

まぁそれも、あくまで多少は、だがね。

それでも、実力の拮抗した具現獣同士であれば、その差が勝敗を分けることだってある。」


「なるほどな。忍力の消費にも、同じことは言えるってことか。」

「そういうことだよ。」

恒久の呟きに、呉羽が頷く。


「なるほどなぁ。プレッソ達にも、今度から属性の付いた忍力をあげたほうがいいかなぁ。」

「おやあんた、具現獣が複数いるのかい?」

重清の言葉に、呉羽が意外そうな顔をする。


「おれの元々の具現獣はプレッソっていう猫なんだけど、じいちゃんの具現獣だったシロとも、契約したんだ。今はチーノって呼んでるけど。」

「あのシロをかい!?そりゃまた懐かしいねぇ。

それにしても意外だね。あのシロが、平八以外の者の下につくとはねぇ。」


「呉羽ばあちゃん、じいちゃん達のことも知ってるの!?」

「いやあんた、むしろ知らない忍者の方がおかしいよ。

それにしてもシロ、いや、今はチーノだったかい?

懐かしいねえ。」


「なんだったら、呼ぼうか?って、ここじゃ呼べないのか。」

重清が笑ってそう答える。


「まぁ、少しくらいなら良いか。よし、今術を解除するから、チーノを呼んでおくれ。」

「えっ、いいの?」


「もちろんさ。老い先短いこのばばぁに、友と会えるチャンスがあるなら願ってもないことさ。」

「ぜんっぜんくたばりそうにないけどな―――いってぇ!!」

恒久がボソッとつっこんでいると、小さな鉄の玉が恒久の顔に直撃する。


「なんか言ったかい?」

「イイエー、ナンデモゴザイマセーン。」

恒久は、頭を擦りながらカタコトでそう答えていた。


「まったく、父親とは違って可愛げのない。

それより、もう具現化できるはずだよ。」

「オッケイ!」


呉羽の言葉にそう返事をした重清は、目の前にプレッソとチーノを具現化する。


「呉羽、久しぶりね。」

「おやおや、随分とまぁ可愛らしい姿になったねぇ。」

チーノの言葉に、呉羽は笑ってそう答えた。


「もう、みんなそう言うんだから。」

「イーッヒッヒ。昔のあんたの姿を知ってる者からしたら、そう思うのも無理はないさ。

それにしても、急にこんなところに呼び出されて、驚きもしないんだね。」


「えぇ。さっき、重清から聞いたからね。」

チーノはそう言って微笑んでいた。


ちなみに、チーノの言うさっきとは、重清達が雅にこってり絞られていたときのことだったりする。


「うわっ!このお茶不味っ!!」

そんなチーノの横では、重清から貰ったお茶を舐めたプレッソが、悶絶していた。


「・・・呉羽は、相変わらずのようね。」

「あぁ、変わらず元気に生きてるよ。」


((いや、今のは絶対そういうことじゃない。))

チーノの呉羽の会話を聞いていた重清と恒久は、心の中でつっこんでいた。


「婆さん達の同窓会もいいんだけどよ、結局術の方は教えてくれるのか?」

恒久が心の中でつっこんだついでに本題を切り出した。


「本当に可愛げのない。そもそも今回の課題は、密書を持ってくることだったはずだよ?」


「「うぐっ。」」

呉羽の言葉に、重清と恒久が苦々しい顔をする。


「でもまぁ、雅のババァの面白い顔も見れたことだし、それに免じて今回は―――ん?」

「呉羽。」


「あぁ、わかってる。すまないねぇあんた達。ちょっとわたしに

お客さんのようだ。」


呉羽がそう言うのと同時に、小屋の扉が吹き飛んだ。

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