第147話:久しぶりの着信音

「いるんだろぉ!?クソババア!!」


扉を蹴破った男が、そう叫びながら小屋の中へと入って来る。


「やれやれ。今日1日で、何回クソババアと呼ばれるのやら。

そんなに悪いことをした記憶は無いんだがねぇ。」


シゲ「中学生を奈落の底に突き落としたよね。」

ツネ「あぁ。それにテメーの事情だけで、中学生を鬼の皮をかぶった悪魔の住処に送り出したよな。」

チー「私を見て笑ったわよね。」

プレ「クソ不味いお茶を出したぞ。」


呉羽の後ろで、重清達は口々に呉羽をディスっていた。


「ガキ共っ!何をごちゃごちゃ言ってやがる!!」

どうやら、入って来た男はご立腹のようであった。


「子ども相手にむきになるんじゃないよ。

あんた、昔から少しも変わっちゃいないみたいだね。」

呉羽は呆れたように男に言った。


「ちっ。俺のこと覚えてやがったか!だったら、俺がここに来た理由も、わかってんだろうなぁ!?」

「はて。あんたとは20年以上も会ってはいないはずだねぇ。

私が何か、恨まれることでもしたかねぇ。」


「知らばっくれるな!俺の記憶を消しやがってっ!!

俺があの後、どれだけ散々な人生を送ったか、お前に分かるか!?」


「そんなこと、知りたくもないね。そもそも記憶を奪われたのは、無闇に力で人を傷つけたあんた自身のせいさ。

それに記憶だって、普通に暮らすための記憶は無くしていなかったはずだよ。


それでも散々な人生を送ったと言うなら、それはあんた自身に問題があるんじゃないのかい?

自身の人生が上手く行ってないからって、他人に責任を擦り付けるのはよろしくないねぇ。」


呉羽はそう言って、じっと男を見つめていた。


「それにしても・・・」

そう言って再び、呉羽が話し出す。


「わざわざこうやって来たってことは、記憶を取り戻したみたいだねぇ。

一体誰と、契約をしたんだい?」


「そんなこと、お前に教える義理はない!」

「そうかい。じゃぁ、1つだけ教えてくれ。 あんた、今も風魔ヒトなのかい?」


「違う!俺はもうお前の弟子なんかじゃない!今の俺は、甲賀ヒトだ!!」

「あ。」

ヒトが叫ぶ声を効いた重清が、声を漏らした。


「おや、重清、だったかい。何か知ってるのかい?」

呉羽が、目の前のヒトを無視して重清に目を向ける。


「このクソババア!俺のことを無視する―――なっ!?」

怒りを顕にしたヒトの体に、電気を纏ったロープが絡みついていく。


「あんたは少し黙ってな。それにしても、こんな実力でここに来るなんてねぇ。

で、重清や、何か知ってるのかい?」

ヒトに一瞬だけ視線を向けたあと、再び呉羽が重清を見つめる。


「知ってるってほどじゃないけど。前も会ったんだよ、昔忍者だった人と。その人も、誰かと契約し直して記憶を取り戻してたらしいんだ。で、その人も確か、甲賀って名乗ってた。」


「なるほどねぇ。甲賀、か。それだけではヒトの師に辿り着くのは難しそうだが。重清の会った忍者とヒトの師、無関係というわけではなさそうだね。

どうなんだい、ヒト?」


「し、知るかっ!俺が記憶を取り戻したのは最近だ!」

「おや、そうなのかい。」

呉羽がそう言うと、ヒトの拘束が突如解かれる。


「一応確認するがヒト、あんたは私に復讐しに来たと思ってもいいのかい?」

「当たり前だっ!ただのご挨拶で、扉を蹴破るかっ!!」

ヒトがここにきて、もの凄い正論をぶつけてくる。


「とはいえ、私もそうそうあんたに命をくれてやるつもりもないよ。まだまだ若いんでね。」


(((どこがだよっ!!)))

いつものように、重清と恒久、そしてプレッソが心の中でつっこんでいると、


「ヒト、この2人に勝てたら、私のこと好きにしても構わないよ。」

「なっ、そ、それは本当か!?」


「あぁ。で、どうだい?」

「あんたの言いなりになるのは釈然としねぇが、その話、乗った。」


「ありがとよ。じゃぁ、少し時間をもらうよ。」

呉羽はそう言って、寂しそうな笑みを浮かべてヒトに視線を向けたあと、重清達に向き直る。


「ってことであんた達、任せたよ。」

「マジかよ婆さん!俺達、まだ中学生だぞ!大人になんて勝てるわけねーだろっ!!」

「いや、わかんないよ、ツネ。」

恒久のつっこみに、重清が口を挟んだ。


「何だよシゲ、アイツに勝つつもりなのか!?」

「うーん。さっきも言ったけど、前も同じような大人と戦ってるんだよ、おれ。でもその人さ、ショウさんよりは、弱かったんだよね。」

「あぁ、確かにそうだったな。」

重清の言葉に、プレッソも頷いて同意する。


「はぁ!?んなわけねーだろ!」

「いや、おかしくはないよ。」

恒久の言葉に、今度は呉羽が口を挟む。


「そのショウって子のことは知らないが、あのヒトは、中学時代に契約を破棄してるんだ。であれば、ヒトの実力はまだ中学生レベルのはずだよ。」

「そ、そうか!」

呉羽の言葉に、恒久が納得して声をあげる。


「とはいえ、ヒトが契約破棄されたのは中学3年の時だった。おそらく、単純な力ならあんた達1人1人よりは上だろうね。不本意かもしれないが、ここは、2人でおやり。

その前にあんた達、術の契約書を貸してみな。」


呉羽の突然の言葉に重清は、ふとチーノに目を向ける。

重清と目の合ったチーノは、大丈夫、とでも言うように頷いていた。


というか、

(大丈夫よ、渡してみなさい。)

と、重清の心に語りかけてきた。


それを聞いた重清が術の契約書を具現化して呉羽に差し出すと、恒久も渋々重清に続いた。


「ほぉ、重清は面白い忍術をもっているねぇ。

それに恒久、だったかい。伊賀家らしい良い術を持ってるねぇ。」

呉羽がブツブツと呟き、


「それなら、これと、これかねぇ。」

呉羽がそう言うと、術の契約書が光り、同時に、


「ピロリンッ♪」

2人の頭に、着信音が鳴り響いた。


「本当は、たっぷりと修行をつけて覚えさせてやりたかったが、今日私を楽しませてけれた礼だよ。

これで、私の馬鹿弟子をぶっ倒しておやり。」


そう言って2人に差し出された呉羽の手から契約書を受け取った2人は、それをちらりと見て、


「はいっ!」

「おう!」

そう言って、ヒトへと向き直った。

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