第198話:甲賀ソウ 対 雑賀クル

「「・・・・・・・・」」


(どうしよう。凄く気不味い)


隠を前にして、ソウは心の中で呟いていた。



時は少し戻ってアカと重清達がそれぞれ雑賀充希、雑賀美影と戦い始めた頃。


隠と戦うべく対峙していた聡太は、その前に少し話でもしたいと、そう思っていた。

しかし彼は、何を話すべきかわからなかった。

それは隠も同様だったようで、2人の間には重い沈黙だけが続いていた。


そんな沈黙を破ったのは、隠だった。


「雑賀クル―――」

「あ、そっか、まずは自己紹介―――」


「行きます」

「どうぇっ!?うわっ!!」


隠、もといクルの言葉にソウが驚きの声をあげた時には、クルは一歩踏み出してソウの目の前まで迫っていた。


「ぐぁっ!!」

そのまま繰り出されたクルの拳を両腕で防いだソウは、そのまま吹き飛ばされた。


(飛翔の術!)

吹き飛ばされながらも飛翔の術を発動したソウは、そのまま空中へと飛び上がり、態勢を整えようと先ほどまで自身がいた場所を見下ろした。


「え、いない!?」

ソウは驚きの声をあげて、辺りを見渡した。

しかし、クルの姿を見つけることはできなかった。


「そんな、感知もできないなんて」

自身の武具であるスマホの画面を除きながら、ソウは声を漏らしていた。

『同期』だけでなくスマホでさえも、クルの居場所を探し出すことができなかったことに、ソウは少なからず驚いていた。


先ほどアカに、『1年の中で一番強い』と言われ否定していたソウであったが、それでもこと感知という点においては、他の3人よりも自信があった。

しかし自信を持っていた感知ですら、クルを探し出すことができないという事実に、ソウは驚いているのだった。


しかしいくら驚いたところで、クルが見つからないという事実が変わるわけでもなく、ソウはただ漠然と、空中でクルと探すことしかできなかった。


「一体、どこに―――」

「ここだよ」


後ろから聞こえてきたその声とともに、突然ソウは感知した。クルの気配を。


しかし時すでに遅く、ソウの方に衝撃が走りそのままソウは地面に向かって蹴り落された。


「くっ!」

ソウは地面に激突する直前に飛翔の術でその勢いを殺し、そっと着地して頭上を見上げた。


「また、いない!高速で走っているのかと思ったけど、違う?一瞬感じた彼の忍力は、飛翔の術でもなかったはず。もしかして、隠密の術?」


「正解」


その声とともに、クルが姿を現した。

自身の身を包んでいたマントを背に回し、クルはただ、ソウの前に立っていた。

その姿は、ヒーローのようだったと、のちにソウは語っている。


「マント。それが君の、武具?」

襲ってこないクルに、ソウは尋ねた。


「うん。これを使って隠密の術を使うと、凄くうまく隠れられるんだ」

そう言って、クルは照れ臭そうに笑っていた。


「ぼく、感知には自信があったんだ。これ、このスマホ。元はレーダーなんだけどね。この武具の力もあって、ぼくは感知能力が他の人よりも強いって思ってた。でも、君のことは全然見つけられなかったよ。

多分、そのマントの力だけじゃない。君の術の練度が、高いと思うんだよ。

あの2人よりも、ね。」


「っ!?」

ソウの言葉に、クルはほんの一瞬だけ目を見開いた。

そしてその直後、何事もなかったかのように口を開いた。


「何を言っているのかわからないな」

「君、あの2人よりも強いでしょ?」


「・・・・・・そんなわけ、ない」

クルは、俯いてそう返した。


「そうかなぁ?君の攻撃を受けて、ぼく思ったんだよ。君は術の練度だけじゃない。体の力の使い方も凄かった。君は、絶対にあの2人よりも強い。

ウチの爽やかイケメン先輩と、同じくらい強いよ」

ソウは、爽やかイケメン先輩ことショウの顔を思い浮かべながら笑って言った。


「・・・なんでわかったの?」

クルは、恐る恐るソウを見た。


「う~ん、なんとなく、かな?あ、でも、君の武具がマントだとは思わなかった。てっきり、ずっと抱いていたあの子が君の具現獣なんだと思ってたよ」

「ゴロウ様にも気づいてたんだ。君の方がよっぽど凄いよ」

クルが、少しだけ苦笑いを浮かべた。


「それにしても君―――隠君、って呼んでいいかな?隠君、なんでわざわざ力を隠しているの?もしかして、あの2人に命令されて?」

「違う。あのお2人は、僕の力のこともご存じじゃないし、僕が嫌がるようなことは絶対に命令しない」


「でも、あの2人凄く口が悪いし―――」


「う、うるさい!!お2人のことを良く知りもしないくせに、勝手なこと言うなっ!!」

クルは、突然怒鳴り声をあげた。


「ご、ごめん、気を悪くしたんなら謝るよ。ぼくはてっきり、君がいやいや彼らの言うことを聞いているのかと思って」

「ぼ、僕の方こそ大声をあげてごめん。心配してくれたんだよね。でも、絶対にそんなことはないよ。僕は心からあのお2人を尊敬しているし、あのお2人をずっと支えていきたいと思っている」


「そっか」

「1つだけお願い。僕の力のこと、お2人には絶対に言わないで?」


「うん、わかった。約束する!」

ソウが笑顔でそう答えると、クルもまた、ソウに笑顔を返すのであった。

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