第197話:雑賀重清 対 雑賀美影 その4

(具現獣銃化の術っ!)

重清が術を発動すると、チーノの体が光へと変わり、重清の手に艶銃えんじゅう・マキネッタが現れた。


重清が両手で持った狙撃銃から、チーノの声が聞えた。


「そのまま私を上に投げなさい!」

「へ?チーノ、何を―――」


「いいからっ!」

「だぁっ、もう!!」

重清は叫んで、言われるままマキネッタを放り投げた。


「変化の術っ!!」

空中で回転する狙撃銃から声が聞こえるのと同時に、1人の幼女が地へと着地した。


「へ?智乃―――って何それ!?」

変化の術で姿を変えた智乃チーノを見た重清が、驚きの声をあげた。


姿そのものも普段の智乃よりもさらに幼くなっていたが、そんなことが気にならない程に違和感のある彼女の腕に、重清の視線が注がれた。


「それ、サイフォン?」

「えぇ、そうよ」

事も無げにそう言った智乃は、腕があるはずの場所にサイフォンを掲げて見せた。


「なんていうか、凄いな」

「あぁ。でもよぉ重清、あれって・・・」


「「なんかグロい」」


「ちょっと!それ今、わざわざ声揃えて言うこと!?ってそんな場合じゃないわ。来るわよ!」

少し怒り顔で言った智乃は、後方へと目を向けた。


智乃の視線の先にいる美影は、今まさに重清に向けて2丁の拳銃を発砲するところであった。


「あなた達がバカにしたこの姿の力、よく見ておきなさい!!」

((あ、ちょっと気にしてたんだ))

美影の方へとサイフォンとなった腕を構える智乃の後ろ姿に、重清とプレッソマキネッタが若干の申し訳なさとともに、そう考えていた。


それでもなお、2人は思う。


((やっぱあれ、グロい))


と。


そんな2人の想いなど知る由もない智乃は、ただ2人にディスられたその姿の有用性を証明するために狙いをつけ、撃つ。


美影の撃った弾は、智乃の放った弾を避けるようにカーブし、そのまま重清へと迫った。

しかしそれが重清へと届くことはなく、避けたはずの智乃の弾にはじかれ、そのまま霧散していった。


「やはり、一度防げば何とかなるわね。まだまだ練度が低いようね」

そう言って妖艶な笑みを浮かべる幼女の姿に、美影は怒りをあらわにする。


「な、なんなのよアイツ!!さっきから想定外なことばかり!それに、3対1なんて卑怯よ、末席!!」


「ほら、やっぱ卑怯って言われた」

美影の叫びに、重清が智乃へと目を向けた。


「忍者が具現獣を使役することのなにが卑怯なのよ。まったく、どんな教育を受けているのかしら」

呆れ顔で智乃は美影を見るが、美影は混乱したように、1人ぶつぶつと何かを呟いているようであった。


美影から離れた重清達には聞こえてはいなかったが、彼女はこんなことを呟いていた。


「なんで雑賀家の術が、具現獣なんかに。そんなのありえない。きっとあれよ、私の体調が良くないせいだわ。そうよ、昨日からなんか、ちょっと熱っぽかったし。

今日は帰ったら、クルにたっぷりマッサージさせましょう。うん、そうしましょう。それから温かいミルクを飲んで寝るの。

あ、でもその前に―――」


・・・・ただの現実逃避である。


美影は、自身の予想を遥かに超える出来事に、もはや完全に混乱していた。


その様子を離れて見ていた重清達は、


「やっぱあの人、なんていうか、混乱してない?」

「えぇ。私もそう思うわ。きっと、次々に初めての事が起きて、対処出来てないのね」

「あれで本当に、雑賀本家なのか?」


口々に言いながら美影に憐れみの視線を送っていた。


かたや1人現実逃避していた美影は、重清達の視線に気づいた。


そして彼女の脳裏には、『屈辱』の二文字が浮き上がってきた。


(この私が、末席に憐れみの目を向けられている?ありえない、こんなこと、ありえない!!)


現実に無理矢理引き戻された美影は、最後の手段に打って出ることを決意した。

未だ扱いきれない、力に。


「ゴ、ゴロウ、手を貸しなさい!!」


美影が叫んだ。


・・・・・・・・・


しかし、何も起きなかった。


「ゴロウって誰―――だぶっ!!」


美影の言葉に、重清が口を開いたのと同時に、重清は前方から突然足元を掬われ、顔面から地面へと倒れ込んだ。


「な、何だ今の!?」

顔を土まみれにした重清が辺りを見回してみるも、そこには智乃が立っているだけであった。


しかし重清は気づいた。

智乃が、美影の方を睨みつけているのを。

そして智乃は、呟いていた。


「やはり、出てきたわね」


「出てきた?」

重清が首を傾げていると、


「重清、見てみろ」

プレッソマキネッタの声が聞え、重清は釣られるように智乃の視線を追った。


そこにいるのは、先程と変わらず立っている美影。

そしてその足元には―――


「犬の、ヌイグルミ?」


隠がずっと抱いていた、犬のヌイグルミがチョコンと立っていた。

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