第98話:ある少年のその後。

近藤の件から時は経ち、陽射しが強くアスファルトを照りつける気候へと変化していた。

夏休みまで残り2週間。

そして、それは中忍体まで2週間であることを意味していた。


重清達は、相変わらず修行に依頼にバタバタしており、さらには夏休み前の期末試験2向けた勉強が加わり、中学生らしい、ようならしくないような変わらない日々をおくっていた。


・・・1つ訂正しよう。

彼らの生活には、ほんの少しだけ、変化があった。


「「優大君、おはよう!」」

「シゲ君、ソウ君、おはよう。シゲ君、今日は寝坊しなかったんだね。」

芦田優大は、そう言って重清に笑顔を向けた。



近藤からのイジメの記憶を失った芦田は、イジメのない、平和な生活を送っていた。

それは、イジメを受ける前に感じていた何の面白味も無い生活。


イジメを受けていた頃の芦田は、そんな面白味の無い生活に戻る事を渇望していたのだが、そんな記憶の無い芦田は、ただただ惰性で生きているような感覚で、日々を送っていた。


そんな中で芦田は、不思議な事に気付いた。


登校中に見かける、猫達を連れる少年。

彼を見ると、何故だか安心感を抱くのだ。


それは、記憶を失ってなお無くなることのなかった感情。


その感情に気付いた日から、芦田は少年を目で追うようになっていた。

まさか同性を目で追うことになるとは、なんて苦笑いしながら。


その視線に、重清と聡太は気付いていた。

しかし、元々依頼主であった芦田に対してどう接するべきか迷い、その視線に気付かないフリをしていた。


そんな微妙な登校の日々が続く中、芦田は意を決して重清達の元へと歩みを進めた。


「あ、あの!よかったら、友達になってくれない、かな??」


芦田のそんな言葉に、重清と聡太は視線を交わす。

2人は、ノリの言葉を思い出していた。



「さすがに、こっちから依頼主だった者に接触するのは辞めておけ。まぁ、向こうが話しかけてきた場合は、普通に接して構わんだろうがな。」



2人ニヤリと笑って、芦田に笑顔を向けて返した。


「「はいっ!!」」


こうして、重清達の登校は少しだけ賑やかになったのであった。


そしてこの日も、いつものように3人と2匹は仲良く登校していた。


「優大君、おれがいつも寝坊してると思ってない!?」

「え!?違うの!?」

「いやいや、優大君の言う通りでしょ。それともシゲ、他にも理由があるっていうの?」

「無いっ!!」

「「いや、無いんかい!」」


そんなこんなで、重清が寝坊しない日はこうして楽しく登校する日々を送っている3人と2匹なのであった。


(優大が加わってから、オイラ達が会話に入れなくなっちまったな。)

(まぁ、それは仕方ないわよ。でも、みんな楽しそうなんだから、いいじゃない。)


プレッソとチーノは、そんな会話をしながら3人の後を着いて行くのであった。


(こんな毎日が続けばいいなぁ~)

重清は、そんなことを考えていた。


その日、彼の身に恐るべきことが起こることなど知る由もなく。




その日の放課後。


「はぁ、はぁ、はぁ。なんなんだよっ!」

重清は物陰に身を隠し、小さく呟く。


重清は追手が来ていないことを確認し、ほっと息を着く。


その時。


「見つけたわ。」


突如、背後から声が聞こえる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る