第88話:最終日遭遇戦 その9
ショウ達5人が大魔王ヘハラブと対峙している、その場から少し離れたところで、重清が具現獣銃化の術を発動していた。
チーノの体が光となり、重清の手元へと集まり、重清の手に1丁の銃が現れる。
その姿は、猫銃・マキネッタとは似ても似つかない長い銃身を持ち、その銃身にはスコープが付いていた。
「狙撃銃?」
それを見たソウが、言葉を漏らす。
「そ!これがおれの武具の1つ。その名も、『
そう言って(重清的に)カッコよく構える重清の右目には、単眼鏡が付いていた。
「あれ?シゲ、その片眼鏡みたいなの、なんなんだ?」
それを見たシンが首を傾げる。
「これで、照準を合わせるんです。って、話してる暇はなさそうだな。」
そう返しながら重清が大魔王の方へ目を向けると、ショウ達がまさに挑みかかっているところだった。
「シンさん、タイミング見て、あの砂嵐をお願いします!ソウも、援護よろしくっ!」
「「了解っ!」」
そう言ってサイフォンを構える重清に、シンとソウは、返事をしながらも思う。
((じゃぁ、あのスコープの意味は・・・))
と。
重清が、艷銃・サイフォンを出した頃。
ヘハラブが、話し合うショウたちに対して言葉を発する。
「さて、そろそろ作戦会議は済んだかい?さっさとかかってくるがいいさ!」
そう言って大袈裟に手を広げ、大魔王の貫禄たっぷりに5人を挑発する。
しかし、その顔には泥棒スタイルに巻かれた手ぬぐい。
大事なシーンが全て台無しなのである。
一体、どこで何を調べたらこのスタイルに落ち着くのか、それは本人にもわからないのであった。
そんなことさておき。
ヘハラブの言葉に、5人は視線を交わし、大魔王を囲うように散る。
直後、ヘハラブの正面に留まったアカが、全力で炎弾の術を放つ。
それに対して片手で受け止めようとした大魔王は、もう片方の手を後方へと向ける。
「キンッ」
背後から恒久によって放たれた手裏剣を防ぐ大魔王であったが、防ぐ直前に恒久の術、武具分身の術により分身した手裏剣が、実体化して大魔王に襲いかかる。
「まったく、女を後ろから襲うなんて、関心しないねぇ。」
そう呟くヘハラブは、アカの炎弾を弾き返しながら、手裏剣に応戦する。
(きたっ!みーちゃんが言うように、この炎弾を吸収するっ!!)
(さすがあっちゃんだね。もうあたしが言ったことを試そうとしている。)
アカが、弾き返された炎弾を目前に炎を纏った腕を構えていると、突如大魔王の足元が陥没する。
手裏剣とアカに関心を向けていた大魔王は、突如現れた穴に片足を突っ込んでしまうこととなり、体勢を崩して片膝をつく。
(ほっほっほ。まさか土穴の術にはまるとはねぇ。)
その状況を楽しむかのように笑ってそう考えているヘハラブの目の前には、ショウの放った水砲が迫る。
「甘いわっ!」
それを受け止めるべく腕をかざすヘハラブであったが、水砲はヘハラブに防がれる直前、爆ぜる。
そのままただの水となり、ヘハラブへとその水が降り注ぐ。
「なんだい、こりゃ?」
そう呟くヘハラブに、氷拳の術を発動していたノリが迫る。
「だからあんたは、真っ直ぐに突っ込みすぎなんだよっ!」
そう叫んで片膝をついたままのヘハラブが構えると、
「ヘハラブさん!俺も一応、色々頑張ったんすよっ!!」
そう言ってノブはヘハラブではなく地面を殴りつける。
氷を纏った拳によって殴りつけられた地は、その力を流しているかのように氷の道を作り、その道がヘハラブへと届く。
地を這って氷は、ショウの水砲によってヘハラブにまとわりついた水の力を飲み込み、そのまま大魔王を氷が覆い尽くす。
(なるほど、考えたねぇ。しかしこんなもの・・・っ!?)
ヘハラブが氷を打破ろうとしていたときには、その足元には蔦が巻き付いていた。
ケンの放った蔦は、ヘハラブを覆う氷を吸収し、そのまま木となってヘハラブへと巻き付いていった。
さらにケンが火縛の術を発動すると、ヘハラブの足元に2匹の火の蛇が現れ、大きく成長した木を喰らいながらヘハラブへと巻き付き、一体の双頭の蛇へと変わり、そのままヘハラブの体を締め上げる。
その時には、ヘハラブによって弾き返された炎弾を吸収し、大きくなった炎を手甲に纏ったアカが、その炎を炎弾へと変え、ヘハラブへと放っていた。
さらに、離れていながらもヘハラブをレーダーによって『追尾』の対象としていたソウも、火砲の術をヘハラブに対して発動していた。
炎弾と火砲が、大魔王ヘハラブへと迫る。
しかしそれらは、ヘハラブへと直撃する直前、ヘハラブに巻き付く双頭の蛇によって飲み込まれ、それによって蛇は、大蛇へと変化する。
双頭の大蛇はヘハラブを覆うように巻き付き、2つの頭はそれぞれの腕に嚙みついていた。
その時、ヘハラブを中心に砂嵐が巻き起こり、その視界を妨げていく。
「・・・みんな、すげーな。」
重清を除く全員の連携を離れた場所で単眼鏡を通して見ていた重清は、呟いた。
それぞれの持つ属性が見える単眼鏡の中心には、黄色い靄に包まれ、赤い何かに巻き付かれている、ヘハラブの姿があった。
その姿は、白、青、緑、赤の4色を強く放っていた。
その周りでは、青と緑、緑と赤、白と青、黄と白、赤と、5つの姿があった。
(あれ!?もしかして、ツネも2つ目の属性使えるようになってる!?)
「重清今はそれどころじゃねーだろ!」
「まったく、少しは集中しなさい。」
サイフォンから、プレッソとチーノのそんな声が聞こえてくる。
「悪ぃ!じゃぁ、プレッソ、チーノいくぞ!」
そう言って重清は、サイフォンの照準を大魔王へと合わせ、引き金を引いた。
そしてサイフォンから、1つの玉が発射される。
それは、重清の弾丸の術によって作られた弾ではない、小さな鉄の玉であった。
小さな鉄の玉は、真っすぐにヘハラブへと突き進む。
そして、小さな鉄の玉が叫ぶ。
「今度こそ、くらえーーーーー!!」
プレッソのその声とともに、小さな鉄の玉は1メートルほどのサイズに膨れ上がり、プレッソの最大、最重量の鉄玉の術が、艷銃・サイフォンの出す最速に乗って、大魔王ヘハラブへと激突する。
そんな中、ケンだけがふと思っていた。
(あのバカ、火の中に鉄玉ぶち込みやがって。おれが術を解除していなかったら、どうするつもりだったんだよ。)
心の中では、結構饒舌なケンなのであった。
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