第67話:ひったくり犯と殺気
悲鳴を聞いた重清が後ろを振り向くと、先程のおばあさんを助けていたと思われたら男が、助けていたはずのおばあさんのバッグを持って走り出していた。
「っ!プレッソ!アイツを追ってくれ!おれも、すぐに追いつく!」
(分かった!)
プレッソが犯人を追い始め、重清もスマホから小野田に位置情報を送信する。
そのままプレッソに追いついた重清は、
(このまま、距離をおいて追いかけるぞ!おれは時々位置情報送るから、プレッソはアイツから目を離さないでくれ!)
(りょーかい。っと、アイツ、路地裏に入っていくぞ!)
プレッソの言葉と同時に、男は人気の無さそうな細い路地裏へと入っていった。
それを追って、重清とプレッソも路地裏へと入っていく。
「あれ、いない!?逃げられた!?」
重清が呟くと、物陰から男が姿を現す。
「俺を追っていたのは、お前か?ビビって損した。ガキじゃねーか。」
「やべっ、バレてたぞ!?・・・あ。」
突然現れた男に焦ったプレッソが、思わず喋ってしまう。
「っ!?猫が喋った?もしかしてそいつ、具現獣なのか?」
「へ?」
「へー、具現獣って喋るんだな。ってことはお前も、忍者か?」
「お前、も?ってことは・・・」
重清の言葉に答えるように、男から忍力が流れ出る。
「おれの忍名は風魔・・・じゃねーか。甲賀 タク。久々に目覚めたんだ。少しリハビリに付き合ってもらうぜ?まぁ、嫌だっつっても、現場見られてたんだ。ただで返すわけにもいかねーけどな。」
そう言って男は、ナイフを具現化させる。
「っ!やばいっ!大人の忍者だ!プレッソ、逃げるぞ!」
「逃がすかよ。」
重清が叫んだ時には、男は重清のすぐそばに来て、手に持ったナイフを突き出していた。
重清は咄嗟に、鉄壁の術・硬を発動してそれを防ぐ。
鉄壁の術に防がれたナイフは、そのまま折れ、消滅してしまう。
「ちっ。」
男はすぐにその場から離れ、
「鉄の盾、か?そっちが術を使うなら、こっちも使わせてもらうぜ?」
そう言って男は、地面に手を付ける。
「木砲の術!」
男がそう言うと、地面から木が生えてくる。
その木は、手が2本あるひとのような形になり、頭部(にあたる場所)から木の実をちぎり、重清に向かって投げてくる。
重清は、先程出した鉄壁に更に力を込める。
それは相手が、属性的に不利であるはずの木の属性で攻撃を仕掛けてきたために、かなりの力を込められていると予想しての行動であった。
しかし、鉄壁に当たった木の実は、特に何を起こすでもなくそのまま霧散していく。
「ちっ。その盾、かなり硬いんだな!それなら!」
そう言って男は、再度ナイフを具現化して重清へと襲いかかる。
(遅い!?でもっ!)
男のスピードは、重清には遅く感じていた。
もちろん、忍者でない者と比べると早いスピードではあったものの、忍者部の面々と比べると遅いと感じたのだ。
ショウならばまだしも、同じ1年生であるソウ達と比べても。
それにも関わらず、重清は足を竦ませていた。
相手から向けられる殺気に。
重清は、これまでも散々雅から殺気を向けられてはいた。
しかしそれは、あくまでも威嚇を目的としたものであり、そこには重清への害意は一切含まれていなかった。
今重清に殺気を向けている男は、雅と比べると拙いという表現が当てはまる程度の殺気しか発していない。
しかしそこには、明確に、重清に対する害意があった。
そんな殺気を受けた重清は、ただ足を竦ませて立っていることしか出来ていなかった。
「馬鹿野郎!」
そんな重清を、体当たりでプレッソが吹き飛ばし、直後にプレッソは、男の攻撃をその身に受ける。
「プレッソ!」
吹き飛ばされた重清は、起き上がりながら叫ぶ。
男の攻撃を受けたプレッソは、そのまま重清の方へ飛ばされるも、何事もなかったように平然と重清の隣へ着地する。
「オイラなら大丈夫だ!金の力で体を強化してた!それより重清!何ぼーっとしてんだよ!?」
「・・・ゴメン。」
「ったく。っ!?来るぞ!!」
そんな会話をしていた重清達に、男は再び襲いかかる。
しかし、重清の体は再び硬直する。
その時。
「中学生相手に、何やってんだ?」
その声と同時に現れた小野田の回し蹴りが、男の腹部に直撃する。
「ぶふぉっ!」
男はそんな声を上げて、そのまま吹き飛ばされる。
「おいお前ら、大丈夫か!?」
そう言って小野田は、重清とプレッソに目を向け、特に怪我をしていないのを確認する。
「無事みたいだな。たが油断するなよ!相手は同じ忍者だ!相手は俺がする!お前らは離れていろ!」
その言葉に頷いて、重清とプレッソは小野田から距離を取り、吹き飛ばされた男の方へと目を向ける。
・・・・・・・・・・
「あれ?」
小野田が間の抜けた声を出す。
「おいおい、今ので終わりか?弱っ!えっ、だって、アイツ、忍者だよな!?多分20歳は余裕で超えてたよな!?な!?」
何故か重清に詰め寄る小野田。
「いや、おれに言われても・・・」
重清が困ったように返していると、ノブと恒久が駆けつけてくる。
「シゲ!忍力感じたけど大丈夫か!?」
今度はノブが重清に詰め寄る。
「とりあえず、プレッソにもおれにも怪我はありません!犯人はガクさんが倒したみたいです。」
「いや、まぁ、倒したんだけどさ。なんだかなぁ。」
ポリポリと頬をかきながらそう返す小野田は、
「とりあえず、捕まえるか。お前ら、一応警戒しとけよ?」
そう言って、倒れている男に近づく。
警戒しながら近づく小野田であったが、男はどこをどう見てもただのびており、呆気なく小野田に確保されるのであった。
「なんなんだこいつ。おい、シゲだったか。コイツ、忍者だったんだよな!?」
「はい。武具もナイフを具現化してたし、忍術も使ってきました!」
「意味わかんねぇ。高校生だって、さっきの一撃くらい耐えられるぞ?」
小野田はそう呟きながらも、
「お前ら、今回の依頼はここまでた。あとは、応援が来るから、その前に帰れ。この件は、あのジジイ(署長)以外には、社会科見学後に起きたって報告しとくから。」
小野田の言葉に、重清たちは頷き、その場を後にする。
その日の夜。
重清の家のリビングでニュースが流れていた。
「本日、連続窃盗事件の容疑で、無職の小松 拓人容疑者が逮捕されました。小松容疑者は、4月に入って多発したひったくり容疑の疑いがかかっております。本日起きた事件では、小松容疑者の姿を多数の人が目撃しておりましたが、小松容疑者は『記憶にない』と、容疑を否認しております。」
部屋で布団に包まって震えていた重清が、その事を知るのは翌日のことであった。
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