第182話:鈴木家の食卓
「んーっ!このカレー美味しいっ!!」
鈴木家の食卓で、聡太が幸せそうにカレーを頬張っていた。
「あら、聡太君は美味しそうに食べてくれるわねぇ。久々にちゃんと作った甲斐があったわね」
重清の母、綾香が、そんな聡太を微笑ましそうに見ていた。
「おばさん、これホント美味しいですよ!」
恒久も、聡太の言葉に賛同していた。
「だろう?綾香は料理が上手いからなぁ!綾香の手料理を食べられるなんてかなりレアだから、神に感謝して食べてくれよ!」
「んもう、雅史さんったら!」
完全に出来上がった雅司に、綾香が顔を赤らめて答えていた。
「ちょ、2人ともやめて!?友達の前でいちゃつかないで!」
重清が、いちゃつく両親を見かねて言うと、
「いいじゃないの重清。仲良きことは美しきかな、よ?」
智乃が、鈴木夫妻を見て笑っていた。
「息子の身にもなってよ。友達の前でのこれは、さすがにきついんだって!!
っていうか、『久々にちゃんと作った』とか『手料理がレア』とか、母さんも父さんも何言ってるのさ。いつも作ってくれてるじゃん!」
そういって頭を抱えつつ、重清は不思議に思って顔を上げる。
「あら、私いつもは、ほとんど料理してないのよ?」
綾香が笑って答えると、重清が首を傾げた。
「え?だって、いつもちゃんと調理された料理が・・・」
「ふっふっふ〜。遂に、この時がきたのねっ!そうよ、重清っ!私はね、いつも術でご飯を作っていたのよ!
お義母様からいただいた、『嫁入り忍術シリーズ』の1つ、『お料理の術』でねっ!!」
「あっ、ごめん、仕事の電話だ」
「えぇ〜っ!!って父さんタイミング悪すぎっ!!もう少しこの驚きに浸らせてよっ!」
「玲央、鈴木家はいつもこんな感じなのか?」
鈴木親子の騒がしいやり取りに呆れた恒久が、カレーを黙々と食べる玲央に話しかけるも、玲央は口いっぱいにカレーを詰め込んだまま頷き返すだけであった。
「ここはいつもこうよ。玲央兄さんも含めて、ね」
見た目だけは一番幼い智乃が、そう言って恒久と聡太に微笑み返していた。
「智乃も、大変だね」
「あらそう?私は楽しいからこれでいいのよ」
聡太の言葉に、智乃が笑って返していると、電話が終わった雅史が部屋へと入ってきた。
「すまん。急な依頼が入ったからちょっと出てくる。3人とも、しっかり勉強するんだぞ。それから恒久君。いくら綾香が魅力的だからって、風呂を覗くんじゃない―――」
「わかってるよ!しねーよそんなこと!さっさと行けよっ!!」
「あら恒久君。私には覗くほどの魅力がないっていうの?」
「恒久君。それは 失礼なんじゃないか?人の妻をつかまえて」
「いやどうしろって言うんだよ!そしてシゲ!お前何を他人事のようにカレー食ってんだよっ!お前の親だろうが!?この状況どうにかしろよっ!!」
しれ~っとカレーを食べ始めていた重清は、恒久のもっともな指摘に諦めたように目の前の水をひと飲みし、
「っていうか父さん、依頼ってことは忍者の仕事なんでしょ?そんなに酔ってて大丈夫なの?」
と、見事に話を脱線させる。
「いやシゲ、今それ関係―――」
「ツネ!」
重清につっこもうとした恒久を、聡太が止めた。
(あ、そうか。せっかくシゲが話を逸してくれたのに、つっこむ必要ねーんだ)
恒久は、そう考えて口を噤んだ。
ちなみに、重清は特に話を逸らすことを意識していたわけではなかったりする。
それはさておき。
重清に疑問をぶつけられた雅司は、得意気な笑みを浮かべた。
「よくぞ聞いてくれた!いやほんと。今まで同じようなこと沢山あったのに、重清全然聞いてくれないんだもん。やっとだよ、やっと!」
「いやそんなこといいから、言いたいなら早く言ってよ」
重清が、カレー食べながら続きを促した。
「おい重清。食べながら喋るのは行儀が悪いぞ」
「面倒くせーな雑賀の血!さっさと話を戻せよっ!」
何故か重清に説教を始めた雅史に、恒久がつっこんだ。
恒久、鈴木家で大活躍中なのである。
「そうだったな。っていうか、恒久君、私へのあたり強すぎない?」
そう言って雅司が恒久に目を向けるも、恒久はただ雅史を睨むだけ。
そんな恒久の睨みに雅史はしょげて話し始めた。
「わ、私は、1つだけ、自分で作った術があるんだ。」
「「「自分で作った術!?」」」
術の作成で苦労した重清達3人(聡太はそんなに苦労してないけど)が、雅史の言葉に身を乗り出した。
それに気を良くした雅司は、テンションが一気に爆上がりした。
「そうっ!雑賀雅司、唯一にして最高の術!その名も、『酔醒(よいざまし)の術』っ!!」
「「「よ、酔醒の術ぅ?」」」
3人の興味が一気に引いていった。
「あれ!?リアクション悪い!なんで!?社会人忍者垂涎の究極の術だぞ!?この術を使えば、それまでどれだけ酒を飲んでても、体内のアルコールが一気に分解されて酔いが無くなるっていう、素晴らしい術なんだぞ!?」
「「「いや、酒飲んだことないし」」」
「未成年っ!!!」
「雅司さん。そんなことより、早く行かなくていいの?」
騒がしい夫に、重清達同様酒を飲まない綾香が冷ややかにつっこんだ。
「綾香までそんなこととか言う!?この術は―――」
「行ってらっしゃい」
「うぐっ。行ってきます・・・」
妻の冷酷な一言に、雅司はさらっと酔醒の術をかけ、そのままトボトボと部屋を後にした。
その小さな背を見た重清は、もっと父に優しくしようと、心に誓うのであった。
----あとがき----
誰も興味ないであろう裏話
重清君達はあんな反応でしたが、『酔醒の術』は社会人忍者に絶大なる人気があり、実際に多くの忍者から契約の申し込みがあります。
そして雅司は、年間1,200円という破格の金額で、申込者に術の契約を許可しているのです。
ちなみに契約期間は1月~12月。更新を希望する場合は事前に翌年分の支払いをする必要があり、契約期間の途中で契約を希望する方には、月割での支払いも対応しているとのこと。
その契約金は、忍者協会を通して税金を差っ引かれた後、鈴木家の元へと入ってきているのです。
なお、それによる儲けは全て雅司のおこずかい、などになるわけもなく、全額鈴木家の生活費へと充てられるという何とも世知辛い裏話なのです。
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