第445話:手のひらを返します

「重清っ!こんな奴の言う事を聞く必要なんてないわっ!」

允行に襟を掴まれた美影は、重清へと叫んだ。


「黙っていろ」

允行はそう言うと、美影の首に腕を回し、その口を塞いだ。


「さぁ、早く術を使うのだ。我が師が弟弟子達に与えた術を!」



(シゲ、どうするの?)

允行の言葉を聞いた聡太は、スマホレーダーの力の1つである『通信』で重清へと問いかけた。


(どうするもなにも・・・・やるしかないだろ)

重清がそう答えると、それを聞いていた恒久と茜も強く頷いた。


「じゃ、みんな行くぞっ!」

聡太と目を合わせて頷きあった重清は、そう言って具現獣達を具現化させた。


プレ「どうなっても知らないぞ、重清っ!」

チー「それをどうにかするのが、わたし達の仕事よ」

ロイ「ま、そういうことじゃな」


具現化された重清の具現獣達がそう言いながら、それぞれに構えると、


「ブルーメっ!」

聡太はそう言って首元にぶら下がるブルーメに声をかけ、


「はぁ。カーちゃん」

茜は若干いやいやながらカラスのカーちゃんを具現化させた。


ブル「パパ、あんなヤツやっつけちゃおう!」

カー(ハニー、初めての共同作業だな!)

ブルーメとカーちゃんが、思い思いに言いながらその場に姿を現し、身構えた。


そしてその場の一同の視線は、自然と恒久に集まった。


「で、ツネ。ツネの具現獣は?」

重清が恒久の顔を覗き込んだ。


重清達の視線を集めた恒久は、満を持したような笑みを浮かべて口を開いた。


「出番だぜ、近藤!」

「は?」


恒久の突然の言葉に、これまで完全に蚊帳の外だった近藤が間の抜けた顔で声を漏らした。


近藤はその名を呼ばれる直前まで考えていた。


(俺、必要なくね?)

と。


自身と同じくゴウの元で修行を積んだ琴音が眠らされた時には少なからず心が動いたものの、それ以外にこの場で起きていることに、近藤は一切関心を寄せていなかった。


美影がボロボロの状態で允行の足元に転がっているのを見た時には、


(あれが、以前琴音が襲った雑賀美影か。結構可愛いじゃん)

などと考えながらぼーっとしており、美影父、雑賀兵衛蔵の話になった際には、


(いや兵衛蔵って誰だよ)

と、心の中でつっこんでいた。


さらに突然始まった青臭い討論には、


(うわ〜、こいつら青春してんなぁ。あれ?そういえば腹減ってきたな)

と、もはや完全に早く帰りたいモードに突入していた矢先の、恒久の言葉なのである。


「いや、意味わかんねぇし」

近藤は面倒くさそうに恒久に目を向けた。


「俺が本家から借りてきた『麒麟の術』には、馬に近い具現獣が必要なんだ」

恒久は、ニッと笑って近藤へと答えた。


「いや、それと俺の何の関係が―――は!?お前まさか!!」

「そのまさかだよ近藤!お前が、俺の具現獣になれ!」


「はぁ!?」

恒久の言葉に、近藤だけでなく重清達も声を上げていた。


「いやいやいやいや、お前馬鹿なのか!?」

近藤は恒久に詰め寄った。


「なんで俺がお前の具現獣に―――っていうかそもそも、人間が具現獣になんてなれるわけねぇだろ!?」

「いや、多分大丈夫なはずだ!」

恒久は、自信ありげに近藤へと答えた。


自信がありそうな割に、おもいっきりと言ってはいるが。


「お前が使っていた『馬化ばかの術』を使えばな」

「いや、『ケンタウロスの術』な!じゃなくて!

いくらあの術で馬に近い姿になったからって―――」


「確かに、それならば可能性はあるわね」

近藤の叫びを遮って、チーノが小さく呟いた。


「以前重清達がショウにあげた『猫化びょうかの術』。あれも確かに、使った後のショウは私達具現獣に近い存在になっていたわ。

あなたが使った『馬化の術』は、それよりもさらに具現獣に近づいていた。

流石は、あのショウが天才だと認めるだけのことはあるわね」

「あ、褒めていただいてどうも―――じゃなくて!」

近藤は、若干混乱しながら叫んだ。


「な!頼むよ。天才さん?」

恒久はニヤニヤしながら、近藤の肩へと手を置いた。


「クソっ!誰がそんなこと引き受けるかよっ!」

しかし近藤は、その手を払い除けて恒久を睨みつけた。


「そうか・・・残念だ。俺のクラスにお前のこと格好いいって言っていた女子がいたから、紹介しようと思っていたんだけど―――」

「今回だけだぞ!!わかったら、さっさと契約試すぞクソガキ!」

突然手のひらを返したような態度に恒久はニヤリと笑い、


「わかってるって」

近藤へと頷いた。

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