第158話:思わぬお誘い

「あれ、ここは・・・」

いつの間にか先程までいた森とは別の場所に移動していた聡太は、呟きながら辺りを見回した。


そこにあるのは聡太も見慣れた風景。

『喫茶 中央公園』であった。


でも、と聡太は『中央公園』の窓から外に目を向けると、そこにはいつもの景色は無く、ただ真っ白な世界が広がるばかりであった。


(ここは、いつも修行しているのと、似たような場所?)

聡太がそんなことを考えていると。


「ふむ。呼び出されて来てみれば、お主は重清殿の友人の聡太君ではないか。」

カウンターの奥から、1人の老人が姿を現した。


「オ、オウさん!?」

姿を現した老人、『中央公園』のオーナー甲賀オウの姿に、聡太は驚きの声を漏らした。。


「いかにも。しかし、その年でこの術に辿り着くとは、なかなかやるのぉ。」

「この術?というかオウさん、ここは、一体何なんですか?」


「ふむ?お主、自分がどうしてここへ来たか、分かっておらぬのか?

よく見ると怪我もしておるようだな。一体何があったのだ?」


オウの言葉に聡太は、これまでの経緯を掻い摘んでオウへと説明した。



「ふむ。不思議な忍力を持つ者達の襲撃、か。」

「はい!だから、早くあの場所に戻らないとっ!」


「まぁ少し落ち着きなさい。ここは、雅様の術をお借りして作った空間だ。ここでいくら時間を使おうとも、元いた場所に戻ればここへ来た瞬間に戻れるわ。」

「そ、そうですか。」


「しかし、いくら追い込まれていたとはいえ、この術に、のぉ。

2中の中でも忍力が飛び抜けているとは思っておったが、ここまでとはのぉ。」

「あ、あの。さっきからオウさんが言っている術っていうのは・・・」


「お主はな、ワシが管理する術『飛翔の術』との契約の要件を満たし、ここへと来たのだ。」

「ひ、飛翔の術・・・た、確かに翔びたいと思ったような・・・」


「なんと、しっかり意識をせずにこの術との契約要件を満たすとは。」

「あの、その要件っていうのは?」


「なに、特別なことではないわ。術を構成する忍力と心・技・体の力の配分、そしてその術を使うイメージよ。」

「イメージ、ですか。」


「左様。術の作成にはそれぞれの力の配分だけでなく、その術のイメージが大切なのだ。力の配分とイメージが合わさった時、術が作られるのだ。」

「それで、ぼくがそれを満たしたと。」


「そういうことだ。もしもこれが、今まで誰も作っていない術であれば、その術はすぐさまお主のものとなっていただろう。しかし、飛翔の術は既に作られていたために、ここへと呼ばれたというわけだ。」

「っていうことは、既にある術と契約する要件を満たすと、必ずここへ来ることになるんですか?」


「いや、そうではない。たまたま飛翔の術がそうであったというだけだ。

要件を満たした際にどうなるかは、本来の術の契約者によって変わる。

まぁ、こんな場所に呼ばれることなど、ほとんどないがのぉ。」

「そっか。大魔王の術をお借りしてるって仰ってましたもんね。」


「いや大魔王て。」

「あ、すみません。いつものクセで。」


「まぁよいわ。儂らは雅様に強要されてそう呼んでおるわけではないからのぉ。」

「雅さん、本当に凄い人なんですね。」


「それはもう。お主も、その辺は良く分かっておるのではないか?」

「なははは。別の意味で、凄い人だとは思ってましたけどね。」

聡太はそう言って苦笑いしていた。


「そういえば。オウさん、今更なんですけど。ここに呼ばれたのって何か意味があるんですか?」

「いや、本当に今更だな。」


「だって、さっきまでボコボコにやられてたと思ったらこんなとこに飛ばされて、情報が整理できないんですよ。」

「いやそれ、ほとんど儂関係ないよね?」


「オウさん、時々キャラがおかしくなるってよく言われません?」

「ふむ。初めて言われたのぉ。」


(多分、誰もつっこめなかったんだろうな。)

聡太は諦めたようにため息をついて、


「あの、それでここに呼ばれた理由というのは?」

再びオウに問う。


「そうであったな。この術の契約者となりそうな者とは、儂が一度直接話すことにしておるのよ。まぁ、いわゆる面接というやつだな。

儂の気に食わん者に、この術を使わせたくはないのでな。」


「そっか。この術はオウさんが作った術なんですもんね。」

「いやいや。この術は儂が作ったわけではないぞ?

空を翔ぶことは、人類の夢の1つというものだろう?

そのような術、儂が生まれるよりも前にとっくに作られとるわ。

儂はただ、この術の管理を引き継いだだけよ。」


「引き継いだ、ですか。」

「左様。儂は師から、師はさらにその師から。この術がいつ作られたのかもわからない程に昔から、そうやって代々この術は管理者を代えて、多くの忍者を支えてきたのだ。」


「代々引き継いで・・・」

「左様。そうしなければ、術の管理者が死亡してしまうと、術の契約書が消滅し、その術は無かったことにされてしまうからのぉ。

まぁ、事前に契約書に入れておけば、特定の者や協会にその管理を委譲できるのだが・・・」


そこでオウは言葉を止め、じっと聡太を見つめた。


「あ、あの、何か?」

「お主、この術の次期管理者にならんか?というか、儂の弟子にならんか?」

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