第297話:伊賀本家招集

「ツネー!今日も『中央公園』行くだろ?」

忍者部での修行を終えた重清は、聡太を引き連れて恒久の元を訪れた。


「あぁ、悪ぃ。今日はパスするわ」

いつになく緊張した面持ちの恒久は、重清へと返した。


「えぇ!」

重清はそう叫んでから、恒久の耳元へ囁いた。


「今日は、一緒にショウさんへの卒業プレゼント考えるって約束だったろ?」

重清の言葉に、恒久はきまりが悪そうに頷いていた。


目前に迫ったショウの卒業に向けて、3人はこの日、プレゼントを考える予定だったのだ。


もちろん、恒久もそのことを覚えてはいたのだが・・・


「ほんとにすまない。急な用事ができちまってよ」


「用事?」

恒久の言葉に聡太が首を傾げると、


「まさか、女か?」

重清がそう言って聡太と視線を交わし、


「「ないないないない」」


2人は声を揃えて首を横に振っていた。


「いやお前ら失礼かっ!そうかもしれねーじゃねーかよっ!」

「そんなにムキになる時点で、それはないっておれでもわかるわー」

2人に反論する恒久に、重清は笑いながらそう返していた。


「ちっ。はいはい、今回、確かにそうですよ!」

恒久は拗ねながら言い返すと、珍しく真面目な顔で2人を見返した。


「本家に、呼び出されちまったんだよ」

恒久は、重々しい雰囲気で言った。


「本家って、伊賀家の、ってこと?」

「あぁ」

聡太の言葉に、恒久は頷いた。


「あー、それは大変だ。そっちも、雑賀家並に見下されてんだろ?ま、雑賀家はもうそんなことないけど」

「ムカつく!最後の一言がすげームカつく!!

あぁそうだよ!今から俺は、あの見下されの嵐の中に飛び込むんだよっ!!」

ヘラヘラ笑う重清に、恒久は鋭い視線と共につっこみをいれた。


「はぁ。もういい。お前らのお陰で、緊張してたのがバカらしくなった」

そう言って恒久は重清と聡太に背を向け、思い出したように振り向いた。


「あぁ、例の件ショウさんへの贈り物、俺は『猫関係の何か』に一票な」

そう言って、恒久はその場を後にした。


「相変わらず、ツネは元気だね」

恒久の背を見つめながら言う重清に、


「まぁ、ほとんどはシゲのせいだけどね」

聡太はそうつっこんで、顎へと手を当てた。


「猫関係、ねぇ。確かにショウさん猫好きだし、有りっちゃ有りかも。シゲ、何か良いものないかな?」

「猫、ねぇ・・・」


重清は、聡太の言葉にしばし考え込み、


「あっ!良いこと思いついたっ!」

そう言って走り出した。


「ちょ、シゲ!どうしちゃったのさ!?」

「ソウ!早く来いよ!おれ、ナイスなアイデア降りてきちゃった!」

重清は立ち止まり、聡太に手招きしながら叫んでいた。


「ナイスなアイデア、ねぇ。大丈夫かなぁ」

聡太はそう呟きながら、重清の後を追うのであった。



重清達の行く先はひとまず置き、本家に呼び出された恒久はというと。


父と共に、忍者協会へと足を運んでいた。


「親父。なんで本家に呼ばれて、協会に来てんだよ」

恒久は、恒吉へと声をかけた。


「そうか。お前は直接呼び出されるのは初めてだったな。

まぁ、普段は本家が時々、我々の様子を見にあらを探しに来るくらいだからな。


伊賀本家は、忍ヶ丘市からは何時間もかかる距離にあるのは知っているな。そんな所に簡単に行けるのは、雅様の術くらいしかないのさ。


しかし流石に雅様も、誰でも簡単に使えるようにはしていなくてな。

唯一、特定の場所からであれば協会にだけは行けるようになっているんだ。だからこういう時は、協会で会うことになっているんだ」


「ふ〜ん」


自分から聞いておきながら、恒久は興味なさそうに父の言葉に生返事を返していた。


ちなみに、恒吉の言う特定の場所とは、忍ヶ丘市では『喫茶 中央公園』がそれにあたり、2人はそこから、協会へと来たばかりなのであった。


「ここだな」

恒吉は、『小会議室5291』と書かれたプレートの掛かる扉の前で立ち止まり、恒久に入るよう促した。


「お、俺から行くのかよ?」

「呼ばれたのはお前だ。お前から行くのが筋ってもんだろう」

父の言葉に舌打ちをして、


(ってか会議室いくつあんだよっ!!)

心の中でそうつっこみながら、扉をノックした。


「入れ」

すぐに返ってくる感情の籠もっていない声に恒久は、一瞬顔を歪めながらも、すぐに表情と姿勢を正し、


「し、失礼します」

そう言って、小会議室5291室へと足を踏み入れた。


部屋に入るとすぐに、恒久の目に2人の男が入ってきた。


1人は部屋に敷かれた畳にあぐらをかいた初老の男であった。

そしてもう1人は、その男の側にじっと立つ、恒久とあまり年の変わらない少年であった。


(ちっ、アイツもいやがったか)


2人に頭を下げながら、恒久は心の中で、毒づくのであった。

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