第47話:重い空気

小太郎捜索の依頼を受けた一同の間に、重い空気が流れていた。


「シゲ、きみが悪いわけじゃないよ。これは、責任者として付いていた僕の責任だ。」

一番落ち込んだ様子の重清に、翔が声をかける。


「ショウさん、ありがとうございます。でも・・・」

言い淀む重清に、恒久が引きつった笑顔で、

「気にすんなって!おれたちがあの場にいたって、何もできやしなかったんだから。」

「そうよ。小太郎も無事だったんだし、気にしないの!」

恒久の言葉に続けた茜も、緊張した面持ちでそう重清を励ます。


そう、茜の言うとおり、小太郎は無事だった。


では何故、彼らはこんなにも重い空気を醸し出しているのか。



遡ること1時間。


小太郎に襲いかかるドラム缶を、重清は走り出しながらも見守るしかなかった。


その時、白い影が突然現れて、小太郎を抱えるように救い出し、そのままドラム缶の落下地点から飛び去った。


「ガランガラン!!」

ドラム缶が大きな音を立てて地面へと転がるなか、

「あ!」

着地することで動きの止まった小太郎を抱える白い影を見て、重清が声をあげる。

「お前、あの時の白猫??ってか、猫が犬を抱えてる?」


不思議な光景に重清が混乱している中、白猫は小太郎を下ろし、重清を一瞥すると、そのまま走り去って行った。


(あいつ、体育のときに邪魔したやつだよな?なんでここに・・・)

重清がそんなことを考えていると、小太郎がまた、重清とは逆の方向へ逃げ出そうとすると、


「待てよ。」

プレッソの声が突然聞こえてくる。


「プレッソ??」

(重清、少しの間、黙ってろ。)

突然プレッソの言葉が心の中に響き、重清は言われるままに口を噤む。


「大丈夫、こいつはなにも、お前に悪さしようってんじゃないんだ。飼い主のとこ、戻りたくないか?こいつに着いて行けば、帰れるぞ?」

「クゥーン」

プレッソの言葉を理解したのか、小太郎は重清へと向き直り、そのまま重清の元まで歩いてくる。


重清は、小太郎を抱きかかえ、プレッソに目を向ける。


「プレッソ、お前動物と話せるのか?」

「あぁ、そうみたいだ。それにしても、さっきもの凄い音してたけど・・・」

「おぉーい、シゲーー!大丈夫かぁー!?」

プレッソと話していると、他の面々も、先程の音を聞きつけて集まってくる。


「シゲ、大丈夫?」

「お、そいつ小太郎か?」

「あら、写真よりも可愛いじゃない!」

「どうやら、無事に小太郎を捕まえられたみたいだね。無事、なんだよね?さっきの音はどうしたの??」


それぞれが重清に声をかける中、重清は翔の質問に対して、これまでの経緯を話しだす。



「そうかぁ。」

重清の話を聞いた翔が、口を開く。

「とりあえず、その白い猫に助けてもらって小太郎は無事なんだね?」

「はい、見たところけがの類はなさそうです。」

「それなら、ひとまず依頼は達成だね。」

翔が答えたその時、


「君達、ちょっといいかな??」

そんな声が聞こえ、4人とプレッソがそちらに目を向けると、そこには警察官が1人立っていた。


「先ほど、この工場で大きな音が鳴っていたとの通報があってね。君達、何か知らないかい??」

そう言いながら警察官は、転がっているドラム缶へと目を向ける。


「あれは、君達が?」

警察官からそう問われ、5人は何も言えずに目をそらしていた。


「少し、派出所の方で話を聞かせてもらってもいいかな?」

「・・・わかりました。その前に、学校の先生に連絡してもいいですか?」

警察官の言葉に、翔が言葉を発する。


警察官が頷くのを確認した翔は、少し離れて電話をかけ始める。


「もしもし。芥川です。少し問題がおきまして・・・・・」


((((あ、ショウさんって芥川って苗字なんだ))))

プレッソを除く4人が、のんきにそんなことを考えている中、翔が電話を終え、戻ってくる。

「すみません、お待たせしました。行きましょうか。」

そう言いながら警察官へと近づく翔は、重清に小声で、

「プレッソに小太郎を連れて学校へ向かうように言って」

と指示を出す。重清がそれをプレッソに伝えている間、翔は警察官へと話し出す。


「すみません、あの犬と猫、僕らが飼っているわけではなくてノラみたいなんです。ここで放してもいいですか??」

「ん?あ、あぁ。あまり褒められることでもないが、派出所まで連れてこられても困るしな。放してあげていいよ。」

「ありがとうございます。」


そう言って笑顔を向けてくる翔に不思議な余裕を感じた警察官は、それを疑問に思いながらも5人とともに、プレッソと小太郎が離れていくのを見守ったあと、派出所へと向かいだす。


その途中、警察官のスマホが鳴る。

警察官は、発信者を確認した後、「すまない、少し待っていてくれ。」と5人に声をかけて、電話に応答する。


「はい・・はい・・えぇ、これから派出所へ連れて行こうと。え?何故ですか?・・はぁ・・・・わかりました。」


若干不機嫌そうな警察官が、5人に視線を送りながら口を開く。


「君達の誰かのご家族に、権力者がいたりするのかな?」


「???」

5人が、訳も分からず首をかしげていると、

「悪い、今のは忘れてくれ。何故か本部から、君達を派出所ではなく、警察署へ連れてくるようにとの指示があった。しかも、それまでは君達から話は一切聞くなときたもんだ。まさか、君のさっきの電話が関係あったりするのかな??」


警察官が翔に目を向けてそう問いかける。

「いや、僕はただ、部活の顧問に連絡をしただけなので・・・」

「そうかい。まぁ、上からの命令だから仕方ない。このまま警察署の方へ向かう。着いて来てくれ。」


警察署へ向かう道すがら、警察官が5人に話しかける。

「工場での詳細は聞くなって言われてるけど、このまま無言も気まずいし、世間話くらいならいいよな?」

そう言ってニッと笑って5人に話しかける。


「さっき君は、顧問の先生に電話したって言ってたけど、君達は何部なのかな?」

「社会科研究部です。」

恒久がそう答えると、

「おや、文科系かい?てっきり運動部だと思っていたよ。」

「理由を聞いても??」

警察官の言葉に、聡太が尋ねる。

「ん~、なんというか・・・なんかみんな、体の動きが軽やかな感じだったからさ。」

その言葉に、重清以外の4人がギョッとする中、何も考えていない重清は警察官に問う。


「お兄さんは、何か部活してたんですか?」

「ん?あ、そう言えば名乗っていなかったね。俺は森本っていうんだ。俺は、野球部に入っていたよ。」

「お、野球部ですか!おれも、そっちにしようかとも思ってたんですよね~」

こうして、ほぼほぼ森本の相手を重清に任せたまま、一行は警察署へと到着する。


そのまま警察署の一室へと案内された5人に、森本は別れを告げ、その場を去っていく。

代わりに来た警察官は、5人に冷たい視線を向け、着席するよう促す。


「そのまましばらく待つんだ。君達をどうするか、上が検討しているようだから。」

警察官は、そう言って部屋を出ていく。


「どうするか、ってなんなんでしょう?」

重清が、翔に不安そうに目を向ける。


「ん~、なんなんだろうね。さすがに、逮捕とかはないと思うけど・・・」


「「「「逮捕!?」」」」

4人が揃って大声を出す。


扉のすぐそばにいたであろう先ほどの警察官の咳ばらいを聞いた4人が、顔色を青くしていた。

「見張られてる?」

「え、じゃぁ本当に逮捕!?」

恒久と茜の声を最後に、これから自分たちがどうなるのか不安に感じた4人は、そのまま静まり返ってしまうのであった。




そんなこんなで、彼らの空気は重くなっていたのであった。


そんな中、突然、5人が待機していた部屋の扉が開かれたのであった。

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