第211話:『喫茶 中央公園』にて
「あー!あのおっちゃんスゲームカつくっ!!」
『喫茶 中央公園』に、甘いコーヒー牛乳を飲んだ重清の不機嫌な声が響いた。
「シゲ、気持ちは分かるけどちょっとうるさい」
そんな不機嫌な友に、聡太がブラックコーヒーを飲めながら苦笑いを浮べて返していた。
「まぁシゲの気持ちも分かるけどな。本家の奴らは、どこも同じくらい腹立つんだなー」
恒久が、エスプレッソを口にしながら呆れ声で重清に同意した。
「みっちゃん、いつも言ってたわ。本家なんてろくでもない、って。自分も本家の出身なのにね」
そう言った茜は、ハートのラテアートが描かれたカフェラテを、大事そうに啜っていた。
ちなみにプレッソとチーノは、いつもとは違い何故かテーブルの下で皿に入れられたミルクを、ペロペロと舐めるように飲んでいた。
「でもさ、『本家の方々にお相手頂けたことに感謝するんだな』は、流石にムカつくでしょ!」
友人達が好き勝手に言ったあと重清は、黄色いおっちゃんこと雑賀日立の言葉を思い出し、再び声を上げていた。
それは日立の、隠への躾と言う名のドメスティックバイオレンスをノリが止め、忍者部の部室へと集まった直後のこと。
ノリに家庭の事情へ介入されて不機嫌そうな顔をした日立は、
「ふん。契約忍者が余計なことを」
憎々しげにノリを睨んでいた日立は、180度表情を変え、
「ささ、美影様、充希様。このようなところにずっといては、雑賀の血が汚れてしまいます」
そう言って日立は、不服そうな表情を浮かべながらも意味深に重清に目を向けていた美影と、そんな美影とアカを交互に見て苦悩の表情で頭を抱える充希に声をかけ、忍者部一同を見渡して蔑んだような顔で笑った。
「本家の方々にお相手頂けたことに感謝するんだな。それに他の者達も、良い勉強になったであろう」
捨て台詞を吐いた日立は、美影たちを引き連れて忍者部の部室から掛け軸をとおして出ていったのであった。
息子である隠に一言も声をかけずに。
美影は一度振り向いて重清に視線を送り、充希は振り向きざまにアカにウインクをして。
そして少し遅れて隠が、そんな3人を追うように掛け軸へと向かい、その前で一同に向き直って一礼をした後、そのまま掛け軸の向こうへと去っていったのであった。
「はぁ~、もしかしてこれから、毎日あのおっちゃんも来るのかな~。スゲー憂鬱なんだけど」
『喫茶 中央公園』に、重清の心底嫌そうな声が響いた。
響いたといっても、重清たちのいる席には忍術がかかっており、店内の他の席にまで声は響いてはいないのだが。
「あははは、それはぼくも思うかも。隠君に対して、凄くひどかったし。でも、シゲがそんなに人を嫌うなんて、珍しいね?」
親友の聡太が、意外そうに重清を見ていた。
聡太の視線を受けた重清は、苦笑いを浮かべていた。
「いやまぁ、嫌ってるってわけではないんだけどさ。なんていうか、あの人めちゃくちゃ人を見下してるじゃん?あの美影って人も大概だったけど、なんていうかこう、あのおっちゃんはそれに輪をかけた感じ?」
そんな重清の言葉に反応したのは、茜であった。
「あ、それわかるかも!美影さんたちは、言葉ではわたし達のこと見下している言いぶりだったけど、そこまで嫌な感じがしなかった。でもあのオッサンは、わたし達契約忍者も、心底見下してるってのがバリバリ伝わったわ」
「そうそう。なんていうかさ、美影って人みたいに、おれだけをバカにするんだったらまだいいんだよ。まぁ、あれはあれで腹は立つんだけどさ。でも、あのおっちゃんは、会ったこともない人も含めて、雑賀本家以外は認めない~みたいな感じがして、見ててなんかモヤモヤするんだよね」
茜の言葉に同意しながら重清が頷き返していると・・・
「あの・・・父が、すみません」
「クルが謝る必要はないわ。これは、雑賀本家時期当主である、私の責任よ」
「いや〜、責任感のある姉上もまた、素敵だな~」
「「「「え?」」」」
「「「え??」」」
重清達が声のした隣の席に目を向けると、そこには美影、充希、そして隠が当たり前のように席を陣取りっていた。
「えっと、いつからいらっしゃったんですか?」
聡太が代表して、美影に声をかけた。
「『あのおっちゃんスゲームカつくっ!!』ってところからかしら?」
「いや冒頭から!?」
美影の言葉に、重清が珍しくつっこむのであった。
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