第52話:敗戦と・・・

ソウとショウが向かい合っている頃、重清と恒久も、会話と戦闘を繰り広げていた。


「お前とやり合うのは初めてだったな!血の契約者同士、楽しくやろうぜっと。」

そう言いながら、投げられる手裏剣をなんとか避けながら重清が返す。


「うぉっと。そう言えば初めてか。ってうわっ!!」

避けた手裏剣がUターンして再度襲ってくるのを感知した重清が、それをギリギリで避ける。


「あっぶね!よし、こっちも行くぞ!プレッソ!」

「おう!」

重清の手にあるプレッソ(玉バージョン)の返事とともに、重清は恒久へとプレッソを投げる。


恒久は迫りくるプレッソに、具現化した手裏剣を放つが、重量を重くした玉に、手裏剣は弾かれる。

そのまま迫るプレッソを避けて、恒久が呟く。


「ちっ。今のおれじゃ、プレッソは弾けない!」

「そりゃいいこと聞いたぜ。」

「!?戻りが早いっ!」

そんな声が背後から聞こえ、恒久は叫びながら、すぐさま腕でガードする。


その腕に、技の力で曲がってきたプレッソがぶつかり、

「うっ!」

恒久がうめき声をあげる。


「くそ。さっきのでダメージ判定入ったな。腕が使えねーぞ。でも確かに、痛みはそこまでじゃないな。それに、利き手じゃなかったのが不幸中の幸いか。」

恒久がダメージを受けながらも、自身の状況を冷静に判断する。


「余裕こいてる場合か?」

恒久の腕に直撃したことで勢いを無くしたプレッソが、猫へと戻ってそのまま恒久を爪で襲う。

それをなんとか避けた恒久が、その場を飛んで避ける。


しかしそこに、重清が現れて恒久に殴りかかる。


「あぁ!うざってぇ!!」

そう言って幻刀の術を発動した恒久は、そのまま突き出される重清の拳を両断する。


「うぐぁーっ!」

腕を切られた痛みで叫ぶ重清は、そのままその場でうずくまる。

「重清っ!」

重清に止めを刺そうとする恒久に、プレッソが襲いかかり、恒久はそれを避けてその場から距離をとる。


「重清、大丈夫か!?」

「あぁ、痛みはもう無い。けど、腕やられちゃった。動かないや。」

「お、幻刀の術でもダメージ判定入るんだな。」

重清の言葉に、恒久が安心したように割って入る。


「人の腕ぶった切っておいて、そんな冷静でいられちゃう!?」

重清が非難がましく恒久に叫ぶも、

「いや、これそういうルールだろ?」

と、恒久が平然と答える。


「くそー、腹立つわぁ!プレッソ、もう一回行くぞ!」

「お前、やられたの利き腕だろ!?大丈夫か!?」

「あぁ、そんなときのための秘策がある!プレッソいつもより少し軽くなって足元に飛んできてくれ!」


「!?オッケイ!」

そう言って足元に飛んでくるプレッソを、重清はそのまま恒久に対して蹴り返す。


「・・・お前、それをよく秘策と呼んだな。」

そう小さくつっこみながらも、迫るプレッソを弾けないと判断した恒久は、策もなく先程と同じように避ける。

その時。


「うわぁーーっ!」

ソウの叫び声が木霊する。


「ソウ!?」

重清がソウの方に目を向けると、ショウの放った水砲がソウのりょうあに直撃し、そのまま膝から崩れ落ちているところだった。


「止めだよ。」

ショウがそう言って、再びソウに杖を向ける。


「まずい!?プレッソ!」

重清は、すぐさまプレッソを自身の元へと召喚して叫ぶ。

「もう一回、鉄玉だ!」

「っ!?わかった!」

召喚されたことで鉄玉の術を解除されたプレッソが、重清の言葉を聞き、再度術を発動して鉄玉へと変化する。

しかし、慌てていたこともあって、プレッソは重量の調整が上手くできていなかった。

それに気付かない重清は、そのままプレッソをショウ放つ水砲へと蹴り上げる。


「ぐっ!」

予想していたよりも重いプレッソに、声を漏らしてはいたものの、プレッソはそのまま水砲に向かって飛んでいく。


重量が重かったことにより勢いの無いプレッソ玉が、重清とプレッソの技の力で加速し、水砲に迫る。


しかしそれも間に合わず、水砲はプレッソに触れることもなく、そのままソウの胸部へと命中する。

「かはっ」

その声とともに、ソウの意識が闇へと落ちる。


「ソウ!!!!!」

重清が声をあげる中、プレッソは猫へと戻り、空中を蹴って重清の元へと戻る。


「重清、このままじゃやべー!逃げるぞ!」

「プレッソはこう言ってるぜ?どうする、シゲ?」

先程の成り行きを、敢えて静観していた恒久が、重清へと近づいてそう告げる。


「ぐっ。」

ソウを守れなかったことへの無力感から、せめて恒久に一矢報いようとする重清が、使えなくなった右腕を抑えながら立ち上がる。


「無理するな重清!逃げるぞ!」

「で、でも・・・」

「お前が倒れたら、さっきのソウの情報が無駄になるんだぞっ!!!」

「っ!?わかった。プレッソ、逃げるぞ!」


「だそうですけど、ショウさん、どうします??」

2人の会話を聞いていた恒久が、離れたショウに話しかける。


「ん~、他にも何かありそうだし、今回は見逃してあげようか。ぼくとしてもその“何か”が気になるしね。」

ショウはそう笑顔で答え、重清とプレッソに視線を向ける。


「・・・ありがとうございます。」

見逃してもらえることに敗北感を感じながらも、重清は一瞬ソウに目を向けてから、その場を去る。


「さて、おれらはどうします?」

「ん~、ケンとノブを探そうか。そんなに遠くないところにいそうな気配だよ。」

「ソウはどうします??」

「彼には悪いけど、今はこのままかな。」

「・・・わかりました。悪ぃな。」

ショウの言葉に、恒久は小声でソウに謝罪の言葉を投げかけ、そのままその場を去るのであった。



ショウと恒久から見逃された重清は、森の中を走る。

「この辺じゃないか!?」

プレッソの声に、重清は足を止めて、辺りに目を配る。

すると、地面の一部が掘り返されたような箇所が目に付く。


「あれか?」

重清がつぶやき、その場を掘り返すと、折りたたまれた校旗が現れる。

「おぉ、聡太の言った通りだな!」

それを見たプレッソが、嬉しそうに重清の手元を見て笑顔を向ける。

「あぁ、これを陣地まで持って帰れば・・・」


「そこまで!ショウ・ケン・恒久・アカチームの勝利~~。」

重清がプレッソに答える言葉を遮って、古賀の声があたりに響き渡る。


その声を聴いた重清は、手に持った校旗をギュッと握りしめ、

「・・・負けちゃったな。」

そう呟いて歩き出し、プレッソもまたその言葉に無言で頷きながら重清の背を追うのであった。

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