第436話:お久しぶり

時はしばし戻る。


甲賀オウのゴウとの内通が暴かれ、ゴウの師が平八であったことが判明した後のこと。


驚きの嵐が吹き荒れた『喫茶 中央公園』では、一旦落ち着こうという雅の提案により、明美姉さんの珈琲が振る舞われていた。


「重清君、悪かったな。儂のせいで。君に迷惑をかけてしまった。聡太も、こんな師で失望しただろう」

オウは、目の前の珈琲に目を落としながら、頭を下げた。


「ま、ばあちゃんも言った通り、終わったことだしね。それにオウさん、ばあちゃんの修行っていう罰を受けるんでしょ?

だったら、帳消しどころかお釣りがくるくらいだよ」

重清は笑いつつも、哀れみのこもった目でオウへと返した。


「おじいちゃん。ぼくも、おじいちゃんの立場だったら同じことしてたと思う。だから、気にしないで」

そう言って笑う聡太の言葉にオウは、


「すまん。ありがとう・・・」

1人涙を流していた。


「ったく。辛気臭いねぇ。アンタ達、何か芸でもやりな」

雅はそんなオウに聞こえるようにそう言って、ユキ達に無茶振りした。


こう言っている雅だが、一応これは彼女なりの優しさなのである。

雑賀家の情報をゴウに流したオウに対し、雅はそれほど怒ってはいなかった。


平八の弟子である事も理由の1つではあるが、オウが情報を流した理由が友情によるものであったことと、一番被害を被った重清自身が、全くと言っていいほどオウに対して気にした素振りを見せていないことが彼女の心を落ち着かせていた。


とはいえ、そのオウへのフォローのつもりで言った言葉があまりにもな無茶振りであったところあたり、雅の僅かに残った怒りを誰かにぶつけたいという想いが垣間見れた。


「なんで俺達が芸なんかやらなきゃいけないのさぁ〜」

かたや、雅から突然の無茶振りをされたユキは、戸惑いながらも雅を睨みつけた。


ちなみに、ゴウは再び休むために店の奥へと戻り、花園とグリはそれについてその場にはいなかったりする。


「ユキ、落ち着きなさい」

そんなユキを止めるように声をかけたドウは、いつもその顔に張り付いた笑みを引きつらせて雅を見つめた。


「申し訳ありません。我々、芸と呼べるものはなにも―――」

「雅様、ふざけている場合じゃないですよ」

真面目に答えるドウを静止し、ノリが雅をたしなめた。


「そうですよ姉上!美影が捕まっているんですよ!どうするんですかこれから!?」

六兵衛もまた、非難の目を姉に向けた。


「もう甲賀と伊賀、それから風魔の本家には大体の事は説明してある。あとはさっき行ったメンバーで頭を下げに行きゃ、なんとかなるさ」

「い、いつの間に・・・」

面倒くさそうに答える雅に、六兵衛は驚きのこもった声でそう呟いていた。


姉の素早い動きに六兵衛が安心しているなか、ノリは未だ不安げな表情を浮かべたまま話し始めた。


「雑賀を含め、トウさ―――允行の言う術を持つのは4大名家と言われる4家。しかし允行は、もう1つ、どこにあるか分からないと言っていた術があります。それについては、どうするのですか?」

ノリのその言葉に、雅を含めたその場の全員が押し黙った。


そんななか、聡太がそっと手を挙げた。


「あの・・・もしかしてですけど、心当たりがあるかも・・・」

聡太がそう言うと、一同の目が聡太へと注がれた。


「パパ、もしかして・・・」

聡太の首にアクセサリーのままぶら下がっていたブルーメが龍の姿へと戻り、聡太を見上げた。


その時、『喫茶 中央公園』の扉が開き、そこから1人男が入ってきた。

長い髪に丸いサングラスをつけたその男は、派手なシャツを揺らしながら店の中を進んだ。


「やはり、お主は聡いな」

男はそう言って、聡太に微笑みかけた。


「あ、あなたは・・・」

「パパぁっ!!」

聡太が男を見つめて呟いていると、ブルーメが男の首に巻き付いて頬ずりを始めていた。


「パパ!?」

『喫茶 中央公園』に、その場の聡太を除く者達の声が響いた。


「お主があの卵から生まれた子か。元気そうでなによりだな」

男はそう言いながら、小さなブルーメの頭を撫でていた。


「あ・・・もしかして、コモドさん?」

「「あっ!!」」

重清が男の顔を覗き込むと、茜と恒久も同時に声を上げた。


「お主達も、久しぶりだな」

男はサングラスを外しながら、重清達に微笑みかけた。


サングラスを外した男の目は、爬虫類のそれのように鋭く、重清達を除く者達はその目に驚いていた。


「この人?が、ブルーメの生みの親、コモドさんです」

聡太はそう言いながら、派手なシャツを纏う男を雅達へ紹介した。


「懐かしい忍力を感じてこの街に来たら、何やら問題が起きているようだな」

コモド氏は、そう言いながら辺りを見渡して、聡太にその視線を注いだ。


「話は聞いていた。どうやら必要になったようだな。我が主が師より頂戴した術、『青龍の術』を」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る