第10話:甲賀平八 対 雑賀雅 決着

そんな沈黙を破ったのは、雅の方でした。


「あたしはね、この術を作るのに、結構苦労したのよ。そして、できたときには思ったわ。この術は、絶対に誰にも作ることはできない、って」

「なるほど。それで、この術の契約に、制限を設けなかったのか。だから私にも契約ができたんだね」


「いいえ、それは違うわ。一応、万が一、他の誰かが使えないように、ちゃんとあたし限定にしておいたわ」

「だったら何故、私は契約できたのかな?」


「さっきあんたが、『異空手裏剣の術』との契約に辿り着いたときに、思ったのよ。あんたがもし、この『異空転移の術』すらも契約に辿り着くことが出来るのなら、あたしは負けを認めよう、って」

「え!?『異空手裏剣の術』に『異空転移の術』!?君は、術の名付けまで天才なのかい!?めちゃくちゃかっこいいじゃないか!!」


「今それ、関係ある?まぁ、あんたの脱線には慣れちゃったけど」

雅が、呆れたように平八に言って、続けました。


「そうでもしないと、このままお互いに本気でやり始めたら多分、確実にどちらかが死んじゃうから」


「だろうね。君はまだ、全然本気ではなかっただろう?」

「まったく。全部お見通しね」

そう言った彼女の表情には、笑みが浮かんでいたそうです。


実際に平八は、しばし雅に見惚れていたようです。


「なによ、そんなにジロジロ見て」

「いや、やっぱり君は、笑顔の方が可愛いね」


「さっきまで自分の命を狙っていた相手に、言う言葉?」

「仕方ないじゃないか。一目惚れしちゃったくらい、可愛いんだから」


「え?」

「え?


・・・・あっ!ちょ、今の無し!忘れて!今の忘れてっ!!」


初めて狼狽えた表情を浮かべる平八に、雅は笑い始めました。


「まったく。こんな告白、ある?」

「いやほんと、面目ない」


平八が、肩を落として言いました。


「今度、あんたを雑賀家に連れていきたいんだけど」

そんな平八に、雅が言いました。


「え!?もうご両親へのご挨拶!?ちょっと気が早すぎるんじゃない!?」

「違うわよ。あんたは雑賀家当主から指名された、あたしの標的なのよ?失敗した報告に、あんたもついてくるのは当たり前でしょ!?」


「いや、普通標的はそんなことしないと思うけどな・・・」

平八が困ったように言うと、


「多分あたしは、雑賀家と縁を切られるわ。そうしたら、あたしをあんたの弟子にしなさい。あたしは、甲賀雅になるわ。そして、あたしが16になったら、その、あたしを鈴木雅にしなさいよ」

雅が、顔を真っ赤にして言いました。


「・・・今のは、聞かなかったことにしていいかい?」

「はぁっ!?あんた!人をその気にさせておいて、このあたしをふるっていうの!?」


「いや、そうじゃなくって。プロポーズは改めて、私の方からさせてくれないかな?」

平八が、頬をかきながら言いました。


「そ、そういうことなら、仕方ないわね。自分から言ったんだから、ちゃんと素敵なプロポーズ、しなさいよね!」


「まぁ、頑張るよ」



こうして、2人の天才の戦いは、良くわからない甘い雰囲気で、幕を閉じたのでした。


私は平八からこの話を聞いたとき、ただこう思いました。


爆ぜろ、と。


平八の頭が見るも無残に爆ぜ始めるのは、それから数年経ってからのことでした。



え?変なオチをつけるな?

仕方ないじゃない!思い出しただけで腹が立ってくるのよこの話!


2人とも、イチャイチャしながら私に話すのよ!?

このくらいしたって、バチなんか当たらないわよ!!


ちょ、雅!?危ないから!『異空手裏剣の術』使うのやめなさい!?

あなたいつから、そのばにいなくてもその術使えるようになったのよ!?


いや、ほんと、謝るから!

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