第11話:ご挨拶
平八と雅は、翌日に早速雑賀本家へと出向きました。
当時、血の契約者の中でも最弱の家系と言われていた雑賀家は、寂れていました。
使用人もほとんど居らず、弟子達も他の家系と比べると、少なかったのです。
それでも、平八が雅と共に現れたときには、大騒ぎになりました。
気付いたときには、雑賀家の人達に囲まれ、そのままついてくるように促されました。
私達が黙ってそれに従っていくと、目の前には威厳の在る1人の老人が座っていました。
老人は、平八を値踏みするように見つめたあと、雅に目を向けて、口を開きました。
「雅ちゃん、これはどういうことなのかなぁ〜?」
親が子どもを諭すような、厳しさの若干含まれた猫なで声に、私は言葉が出ませんでした。
威厳があるのは、見た目だけだったようです。
「パパ、その男を殺してって、言ったよね?連れてこなくてもいいんだけどなぁ・・・」
老人が、困ったように平八をチラリと見ながら言いました。
「父上、申し訳ございません。甲賀平八の暗殺に、失敗いたしました」
雅が、老人に頭を下げて言いました。
「うん、それはね、見たらわかるんだ。でもね、なんでその甲賀平八を、連れてきちゃうのかなぁ?」
「この甲賀平八との、結婚の報告に―――」
「はぁーーー!?」
老人が、声を上げました。
「いやいやいや、ないないないない!こんな可愛い娘を嫁になんて・・・じゃなくて、雅ちゃんは雑賀家の跡継ぎなんだなら!こんなどこの馬の骨ともわからないやつに何か、嫁にやれるわけないでしょ!?」
「しかし父上。あたしは甲賀平八を殺すことは出来ませんでした。これでは、あたしは雑賀家の当主とはなれないのではないでしょうか」
「あ〜、それもそうか・・・でも雅ちゃんがお嫁に行っちゃうなんて・・・だって、雅ちゃんはパパのお嫁さんになるって言ってたじゃないか・・・」
「そ、それは大昔の話でしょ!」
焦るように言う雅の口調が、素に戻っていました。
顔を赤くしていた雅を微笑ましく見ていた老人が、突然平八に目を向けました。
「しかし、我が娘雅を籠絡するとは、貴様一体どのような術を使ったのだ!?」
どうやら、あの猫なで声は雅にだけ向けられるようでした。
いきなり情緒不安定な老人に叫ばれた平八は、苦笑いを浮かべて答えました。
「籠絡とは人聞きが悪いですね。私はただ、彼女と本気で向き合っただけですよ」
「人の娘に手を出しておいて白々しい!儂は、儂より強い男しか認めぬ!甲賀平八!勝負するのだ!!!」
「な、何を突然―――」
「男なら、その拳で娘に見合うことを証明してみせよ!雑賀本家当主、雑賀五兵衛、参る!!」
「こういうの、好きではないんですけどね。仕方ありませんね。甲賀平八、雑賀五兵衛様の胸を借りさせていただきます」
3分後
簀巻きにされた老人――雑賀五兵衛が、床に転がっていました。
「な、なんと。五兵衛様をいとも容易く・・・」
ギャラリーから、そんな声が漏れ聞こえてきました。
「まったく。血の契約者でも最弱って馬鹿にされている雑賀家当主の父上はあたしより弱いんだから、こいつに勝てるわけ、ないじゃないの」
雅が、呆れてため息を付きながら部屋を出ていこうとしました。
「だ、だから甲賀平八を葬り、我が雑賀家の再興をっ!じゃない!
そんなことよりまだ、結婚を許したわけじゃないよっ!!」
簀巻き老人が、必死に雅に縋ろうとしていました。
雑賀本家当主が、雑賀家の再興をそんなことよりなんて、言ってよかったのでしょうか。
少し心配になって周りに目を向けていましたが、周りの弟子たちは皆、五兵衛と雅に、敬意と慈愛に満ちた目を向けました。
弟子が師とその娘に向ける目では無いようにも思えましたが、なんとなく、五兵衛が弟子たちから慕われているのは分かりました。
そんな目を向けられている雅は、五兵衛に言いました。
「別に、許可をもらおうなんて思ってないわよ。そもそも、あたしはもう雑賀家の当主にはなれないんだから、ここにあたしの居場所なんて、あるわけないでしょ?」
「ちょっと雅、そういう言い方は、お義父様に失礼でしょ」
平八が、雅を諭すように言いました。
「おい甲賀平八っ!何を勝手に『お義父様』とか呼んでおるのだっ!!」
簀巻き老人が、平八を忌々しそうに睨みました。
そんな父の視線も気にせず、雅が顔を赤くして平八を見つめました。
「あ!あんた。初めてあたしを、雅、って呼んだわね」
「あ、ごめん、つい」
「いいのよ。あたしも、その、平八、って、呼んでいいかしら?」
「もちろん」
「ちょ、雅ちゃん!?パパの前でいちゃつかないでもらっていいですか!?
おい甲賀平八っ!その甘い雰囲気のまま雅ちゃんに触れてみろっ!?ただじゃおかないからな!!
結婚するまで、そんなこと、絶対に許さないからなぁ〜〜〜!」
「「あ」」
「え?・・・・・あ」
「平八、今父上、『結婚するまで』っておっしゃったわよね?」
「あ、雅にも聞こえた?お義父様、確かにそうおっしゃったよね。これは、認めて頂いたと判断していいよね?」
「「じゃ、そういうことで!」」
「えっ!?ちょ、待って!君達息ぴったり!じゃなくて!いや、ホント、待って!?ねぇ!!」
こうして、2人は雑賀本家を後にしたのでした。
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