第186話:心配する父
「シゲ、心中お察しするよ」
騒がしいホームルームが終わって重清が聡太の席へ近づくと、聡太がそう言って重清を出迎える。
何故重清がわざわざ席を離れたかというと・・・
「うわ~、髪さらっさら~~!トリートメントどこの使ってるの!?」
「美影ちゃん、彼氏いるの!?」
「雑賀さん、弟さんって何組??」
「み、みかげたん、みつきたん・・・・デュフフフ」
現在雑賀美影の周りには、1年3組のほとんどのクラスメイトが男女問わず集まり、彼女を質問攻めにしていた。
雑賀美影も、その質問に一つずつ丁寧に答え、一同の彼女に対する好感度は爆上がり真っ最中なのであった。
ちなみに現在、雑賀美影に彼氏はいないらしい。
そんな様子を遠巻きに見ていた重清は、ふとあることに気づいた。
「なんか、1人変なヤツ混じってない??」
重清の言う『変なヤツ』とはもちろん、先ほど(前話)からちょくちょく発言している、1人の生徒のことである。
「シゲ、今さら長曾我部(ちょうそかべ)君につっこむ?」
「ちょうそかべくん???」
「そ、長曾我部 太郎左衛門(たろうざえもん)君。1学期からずっといたよ?ちょっと変な人だけど、悪い人じゃないよ。
シゲの『忍者ドンズべり事件』の時、声には出してなかったけど、唯一笑ってたし」
「それめちゃくちゃ良いヤツじゃん!ソウ、そんな良いヤツを『変な人』とか言うなよ!」
「いや、最初に『変なヤツ』呼ばわりしてたの、シゲだからね?」
2人がそんな会話をしていると、担任の田中が2人の元へとやってきた。
「風間、鈴木、ちょっといいか?」
そう言って廊下を指す田中の言葉に、2人はそのまま田中について廊下へ出た。
「2人は、夏休みに琴音に会ったりしたか?」
「・・・・・」
田中の言葉に、重清は分かりやすく落ち込み、聡太はそんな重清を苦笑いして見ながら思っていた。
(あ、まだ完全には忘れてなかったんだ)
と。
「会ったんだな?鈴木、お前もしかして、琴音に手を出したんじゃないだろうな!?」
「いや、そんなんじゃないですけど・・・フラられたっていうかなんていうか・・・」
「おぉ、そうか!フラれたのか!!そりゃ、残念だったな!」
言葉とは裏腹に、田中の顔に笑みがこぼれていた。
「笑い事じゃないですよ。こっちは大変だったんですから・・・」
落ち込んでいた重清がさらに肩を落として言っていると、
「ってそんなことはいいんだよ。それより、琴音だよ琴音!」
「シゲ、そんなことって言われちゃったね」
そう言う田中の言葉に、聡太がそっと重清を慰めていた。
「琴音がさ、ある日いきなり落ち込んで帰ってきたんだよ!何があったか聞いても教えてくれないし。
そうかと思ったら、次の日には落ち込んだことすら忘れてるくらいに何事もなく過ごしてたんだよ!」
「あぁ・・・」
田中の言葉を聞いて、聡太は納得して声をもらしていた。
聡太は考えていた。琴音が落ち込んでいた理由はよくわからないが、おそらく田中琴音は、中忍体の日に落ち込んで帰り、翌日には忍者部を辞めてその記憶を無くしたのだろう、と。
「でも、元気だったら良いじゃないですか」
聡太は、田中にそう答えた。
「いや、それで終わりじゃないんだよ。少し前から琴音、また雰囲気が変わったんだよ!なんていうかこう、負のオーラが見えそうな感じに。
あれは絶対、変な男につかまってると思うんだ。だから、鈴木を疑ったんだよ」
「それ絶対担任が言うことじゃないですよね?」
「シゲの言う通りですよ田中先生。そもそも考えてください。シゲの影響なら、琴音さんは負のオーラじゃなく、バカみたいなオーラになると思いませんか?」
「あ、それもそうだな」
「え、ちょっと。2人ともひどくない?ソウ、おれのフォローするかと思ったのに何なの?
っていうか、おれ実力テストとか、そこそこ良い成績だったからね?バカじゃないからね?」
重清の言葉に、聡太と田中が目を見合わせる。
「鈴木、そういうことじゃないんだ。成績なんかじゃない。お前はな、それとは違う何かを持ってるんだ」
「そうそう、田中先生に言う通りだよシゲ。勉強ができるできないじゃない何かを、シゲは持ってるんだよ」
「いや、2人そろっていい感じに言ってるけど、明らかにおれをバカにしてるよね。っていうかそんなことより、琴音ちゃんは大丈夫そうなんですか?」
「大丈夫じゃないから2人に聞いてるんだよ。何か、心当たりはないか?」
「「んーー・・・」」
重清と聡太は、声をそろえて首を傾げた。
琴音が一度明るくなった理由は分かった2人も、そのあとの琴音の様子については全く分からないのであった。
「その様子じゃ、やっぱわからないか。もし何かわかったら、すぐに教えてくれよ!じゃ、職員室に戻るわ」
そう言って、田中は足早に去っていった。
「琴音ちゃん、大丈夫かな・・・」
自分を騙していたはずの琴音を心配する重清の言葉に、聡太はただ、頷き返すのであった。
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