第78話:よくわからない雰囲気

重清は走る。

今までにないほどに早く。

それは、以前雅から突然呼び出されたときよりも早いスピードであった。


その後ろを、プレッソは敢えて少し遅いスピードで追っていた。

何故敢えて遅くしているのか。

それは、重清を追っている存在に気付いたからであった。

プレッソは思う。


(こんなおもしれーこと、オイラだけで楽しむのは申し訳ないからな。)

と。


そんなプレッソの想いを知らない聡太達は、重清達を必死に追っていた。


恒「あいつ、なんでこんなに早ぇーんだよっ!クソリア充がっ!」

茜「これが、愛の力なのねっ!?」

聡「まぁ現時点ではまだリア充じゃないし、一方的な愛、だけどねっ!」


それぞれが言いたい事を言いながら。


すると、重清のスピードが次第に遅くなっていく。

それを見た3人も、スピードを緩める。


そこは、『喫茶 中央公園』の近くであり、その名の由来となった中央公園であった。


重清が、備えたれたベンチに座る人物に近づくのを見た3人は、ベンチ近くの柵の茂みから、その様子に目を向ける。


ちなみにこの3人の姿、周りからは思いっきり見られており、全く忍べてはいなかった。

これまで、何を修行してきたのだろうか。


(ずっと戦わされてたんだけどな!)

恒久がどこへともなくつっこむ。


そんな忍べていない忍者3人に気付かない重清は、目の前に座る人物の背に声をかける。


「琴音ちゃん、遅くなってごめんね。」

その声に、田中琴音が振り向いて笑う。

「鈴木君。気にしないで。私が早く来ただけだから。」

(かわええなぁ。)

そんな、琴音を見て、重清はただそう思う。


「ふふふ。その子も連れて来たんだね。」

そう言ってプレッソに目を向ける琴音に、

「ん?あぁ、こいつね。プレッソって言うんだ。いつも一緒だから、付いてきちゃった。いいかな?」


「うん。プレッソちゃん、よろしくね?」

琴音の言葉に、「なぁ」とだけ鳴いたプレッソは、琴音の隣に寝そべる。

それを見た重清も、プレッソの隣へと腰を下ろす。


(あーっ!プレッソが琴音ちゃんの隣に寝たから、ビミョーに距離があるっ!琴音ちゃんの隣に座りたかったのに!!)

そんな想いでプレッソに目を向けると、


(ひひひ、ざまぁみろ。)

プレッソが重清の心の中に話しかける。


重清はそれを無視して、琴音を見る。


「えーっと、な、何か用があったのかな??」


重清のその言葉に、琴音が笑って答える。

「大した用じゃなかったんだけどね。そう言えば、お父さんが迷惑かけちゃったみたいだね。」


「あ、あぁ。まさか、琴音ちゃんのお父さんが田中先生だとは思わなかったよ~。」

「ふふふ。『あいつは、いつも騒ぎを起こす~』なんて、嬉しそうに家で話してるよ。」

「琴音ちゃん、お父さんと仲いいんだね。」

「うん。鈴木君は、違うの?」

「いや~、うちは、普通かなぁ~。」


「「・・・・・・・・・・・・・」」


(いや、会話が続かない!!え、どうするの?このあとどうすればいいの!?)


重清が混乱していると、琴音はプレッソを撫でながら口を開く。


「鈴木君。あの時は、ごめんね。」

「あ、あのとき??」

「そう、卒業式の時。私、告白されるのとか初めてで、どうすればいいかわかんなくって。」

琴音のその言葉に、重清は何も返せず、ただ俯いていた。


「あの。私まだ、付き合うとかはよくわかんないんだけど。よかったら、友達から、始めない?」


「え!?」


重清がばっと顔を上げると、プレッソを抱きしめた女神が、重清の目の前にいた。

「友達からでいいから、お願いします!!」


重清が頭を下げる。


「もう、頭を下げるようなことじゃないんだから、やめてよ~。」

そう言って笑う琴音に、重清も笑い返す。


そのまま何とか空気が変わり、しばらくお互いの学校での出来事などを話して時間が過ぎていく。


それからしばらくして、

「今日は、そろそろ帰るね。」

そう言って琴音が立ち上がる。


「うん。じゃぁ、またね!」

重清は、今までの幸せな時間を名残惜しく思いながらも、必死の思いで言葉を絞り出す。


「またね!」

そう言って、琴音は重清に笑顔を向けて、去っていった。



「よっしゃぁーーーーーーーーー!」

琴音が去ってしばらくして、重清が叫ぶ。

「プレッソ!聞いたか?友達から、だぞ!まだ恋人じゃないけど、スタート地点に立っちゃった感じだぞ!」


(はいはい、よかったな~。)

ハイテンションな重清に、雑に返すプレッソであった。



「おいおい、なんか、意外といい感じになっちゃってねーか!?」

「え、でも、友達だよ?別にいい感じではなくない??」

「ソウ、お前はなーんにもわかっちゃいない!今のはなぁ、いい感じって言えるんだよ!ですよね!?茜先生!?」

そう言ってどこからか現れたマイクを茜に向ける恒久であったが、茜はただ、黙っていた。


「・・・・・・」

「あ、茜さん??」


「なんか面白いことになってきたわねぇ。」

そう言って笑い、2人を残し去っていく、茜。


「「えっと・・・」」

その場に残された2人は、ただ茫然と、柵の向こうでテンションの高い重清の姿を、見ているのであった。

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