第337話:優希の武具

「なぁシゲ。今のって、この前来た白ローブも出してなかったか?」

ノリと反音が居なくなったあと、シンが重清達へと声をかけた。


「はい。おれ達、他にも何人か同じような力を使った奴らと会ったことがあるんです」

重清がシンにそう返していると、恒久がチーノへと目を向けた。


「チーノ。ありゃ一体なんなんだよ?お前、あいつがあの力を出したとき、ノリさんに声をかけただろ?」


「・・・・・・・」


しかしチーノは、恒久に答えることなく沈黙していた。


「おい!黙ってないで―――」

「ツネ、チーノを責めないでくれない?

おれさ、チーノが何か知ってるの、知ってたんだ。

だから、責めるならおれにしてよ」

重清は恒久の言葉を遮って恒久の前へと進み出た。


「なに?シゲ、そりゃどういうことだよ!

お前、あれが何なのか、チーノが知ってるかもしれないのに、それを聞きもしてねーのかよ!?」

恒久は目の前の重清の胸ぐらを掴んで叫んだ。


「だってさぁ。おれ達、忍者だよ?気になるんなら自分で調べなきゃ。

まぁ、結局何にもわかってはないんだけどね」

重清は力のない笑みを浮かべ、恒久へと返した。


「ま、まぁ、ノリさんもこのまま俺達に何の説明も無し、ってわけにはいかねーだろ。

とりあえず、ノリさんとソリの帰りを待とうぜ」

シンは恒久の手を重清から離しながら、2人に笑いかけた。


「おっ。シンさん部長っぽい」

「うるせぇよ」

重清の軽口に、シンが照れ笑いを返し、


「ちっ。わかりましたよ。これじゃ、俺だけ悪者みたいじゃないですか。

シゲ、チーノ。悪かったな」

恒久は不貞腐れ気味にシンへとそう言って、重清とチーノに頭を下げていた。


「あ、あの・・・」

その様子を見ていた優希が、不安気な表情を浮かべて一同を見つめていた。


「そ、それにしても優希ちゃん、その剣どうなってるの!?」

茜は優希の不安を払拭させるように、努めて明るい声で優希へと笑いかけた。


「いや茜。いくら後輩だからって、男に『ちゃん』はねーだろ」

恒久が呆れ声を茜に向けると、


「いいのよ!ね?優希ちゃん?」

「・・・はい!茜先輩、ありがとうございます!」

優希は茜にそう言って笑いかけていた。


「「「「「「????」」」」」」


男子一同が首を傾げるなか、茜は再び優希の手にある剣へと目を向けた。


「それって、初めはカードだったわよね?ソードの1、って言っていたかしら?それに、決断がどうとか・・・」

茜の言葉に、優希は頷き返した。


「はい。私、趣味で占いやってるんです。ソードは、タロットカードの絵柄の1つなんですよ。

ソードの1には、『正しい決断』や『幸先の良いスタート』の意味があるんです。私が忍者になるって決断を祝福されたみたいで、なんか嬉しくって」

はにかみながら言う優希に、重清が声をかけた。


「タロットカードってあれでしょ?『死神』とかがあるやつ」

「はい。タロットカードで有名なのは、22枚の大アルカナと言われるカードの方ですね。『死神』も、大アルカナのカードの1つです。

このソードと、それからワンド、カップ、コインは、小アルカナと呼ばれるカードです。

細かく占うときには、この小アルカナまで使ったほうが、便利なんですよ」


「もしかして、他のカードも具現化できるのかな?」

聡太が優希へと尋ねると、


「あのカードを出したこと、『具現化』って言うんですか?だとしたら、よく分かりません。ソードの1を出そうとしていたわけでもないので・・・」

優希は、聡太へと申し訳無さそうに答えていた。


「ま、その辺は今後の検討課題、ってことだな。それにしても、占いが趣味って、なんかすげーな」

恒久が優希へと笑いかけた。

おそらく、先程ビビらせてしまったことの償いの意味もあるのであろうその笑顔に、優希も笑顔を返した。


「凄いかは分かりませんが、皆さんもお暇なときに、いつでも占いますので、声をかけてください。当たるかどうかは、わからないけど・・・」


優希の言葉に、茜のテンションがバク上がりした。


「わたし、今度占ってもらおうかしら」

「はい、是非」

そう言った優希は、茜へと近付き小声で言った。


(占うのは、お兄ちゃんとの相性、ですよね?)

(ちょ、ちょっと、なんで分かるのよ!?)


(私、お兄ちゃんの卒業式の日に、お兄ちゃんが誰かから告白されることを占っていたんです。それで、茜先輩とのことを、帰ってきたお兄ちゃんに聞いちゃって)

(・・・優希ちゃんには、何も隠せないみたいね)


「あいつ、もうあんなにショウさんの弟と仲良くなってるな」

恒久が呆れながらその様子に目を向けていると、部室の掛け軸が輝き始めた。


優希を含めた全員がそちらに目を向けると、ノリがそこから姿を現した。


「あれ?ノリさんだけ?ソリは?」

1人戻ってきたノリに、重清がそう声をかけると。


「ソリには、松本反音には、忍者部を辞めてもらうことになった」

ノリはそう、無表情で答えたのであった。

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