第336話:優希の力と反男の力

「「契約??」」

2人の1年生は、不思議そうにノリの言葉を繰り返した。


「そう、契約。忍者になるためには、俺と契約してもらう必要があるんだよ」

ノリはそう言いながら、2枚の紙を出現させてそれぞれに渡した。


ノリから契約書を受け取った優希は、その内容に目を走らせた。


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忍名 甲賀 ユウ

 契約にあたり、以下の項目を順守すること。

1 忍の力を、人前でさらすことを禁ずる。ただし、自身及び大切なものの命が危うい場合はその限りでない。

2 忍びの力を使い、他者を傷つけることを禁ずる。ただし、師が許可を出した場合はその限りでない。

3 上記事項が破られた場合、契約は破棄され、忍者としての記憶はすべて抹消される。


4 その他、必要に応じて、師である甲賀ノリは順守事項を追加することができる。

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「あの、この『甲賀 ソリ』っていうのは?」

反音が、ノリへと目を向けた。


「そこにある『忍名しのびな』というのが、君たちの忍者としての名だ。今は俺の弟子だから、甲賀となっているが、師を変えれば別の姓を名乗ることもできる。

ちなみに、ここにいる奴らは重清と恒久以外は皆、甲賀だ」


「シゲ先輩とツネ先輩は、なんで違うんです?」

ノリの言葉を聞いた反音は、重清と恒久に目を向けた。


「だから言ったろ、おれは、忍者の子孫だって。おれとツネは、忍者の血を引いてるから、契約してないんだ。ちなみにおれは、雑賀シゲ。雑賀家の血を引い出るんだ」


「俺は伊賀だ。あと、正確には俺たちも、去年1度契約はしてんだけどな。その後、雑賀家のお遊びに付き合わされて、夜中にここに忍び込んで、1度結んだ契約を破棄したんだ。

俺達みたいに忍者の血を引いた奴らのことは、血の契約者って言うらしいぜ」


重清と恒久が、交互に後輩たちに説明を加えた。


「なるほど・・・なんか、カッコいいですね」


「「だろ?」」


反音の言葉に、重清と恒久は得意げな笑みを返していた。


「えっと。契約書の内容は理解しました。それで、どうすれば契約を成立させることができるんですか?」

一通り契約書に目を通した優希が、ノリへと目を向けた。


「こいつらがいたお陰で、話が早くて助かるな」

苦笑いを浮かべたノリは、話を続けた。


「契約書に同意し、契約を結びたいものは、その紙を胸に当てて、『契約に同意する』と念じれば良い。そうすれば、晴れて君たちは忍者の仲間入り、ってわけだ」


その話を聞いた優希と反音は、互いに視線を交わして頷きあい、契約書を胸へと当てた。


そのまま契約書が彼らに吸い込まれていくのを確認したノリは、2人に声をかけた。


「これで君たちは、晴れて忍者の仲間入りだ。早速だがこのまま、次のステップに入る。今君たちから出ている力は、忍力という。忍術の基礎的な力だ。その力を、手に集中するように念じるんだ」


その言葉を聞いた2人は、そのまま手を前へとかざした。


その場の殆どの視線は、優希、もといユウへと注がれた。


皆、ショウの弟であるユウが、何を具現化するのか気になったのである。


そんなユウの手には、1枚のカードが握られていた。


「これは・・・タロットカード。ソードの1、ですね。忍者部に入るっていう僕、じゃなくて私の決断は、間違ってはいなかったみたいです」

ユウはそのカードを見ながら、ニコリと笑った。


その瞬間、タロットカードは1本の剣へと姿を変えた。


「お〜」


その場の一同が声を上げていると。


『重清!私を具現化して!』

重清の頭の中に、チーノの声が響いてきた。


「びっくりした!チーノ、なんだよ急に―――」

『いいから急いでっ!』


「わかったよ!」


重清は言われるままに、チーノと、ついでにプレッソ、ロイを具現化させた。


「うぉっ!なんだとシゲ!いきなりプレッソ達具現化させんな―――」

「ノリっ!」


恒久が、突然現れたプレッソ達に驚いて声をかけようとすると、チーノはそれを遮ってノリへと声を上げた。


「ちっ。わかってるよ」

チーノの言葉に、ノリは舌打ちを返して、ある一点を見つめていた。


その先にいたのは、反音であった。


「あれって・・・」

反音の姿を見た聡太が、声を漏らした。


反音の手には、何の武具も具現化されておらず、具現獣も、見当たらなかった。


反音から、ただ黒い力が、溢れているだけであった。


「え、これって・・・先生、これ、何なんですか!?」


反音は自身から溢れる黒い力に戸惑いながら、ノリに縋るような目を向けていた。


「お前ら、少しここで待っていろ。俺は、反音君と、少し話してくる」


ノリはそう言うと、反音を連れて掛け軸の先の、社会科研究部の部室へと戻っていった。


重清、聡太、茜、そして恒久の4人は、その後ろ姿を心配そうに見つめているのであった。

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