第292話:重清、今泉君に頼み込む

「はぁ!?なんで俺が、お前らのクラスの劇の台本なんか作らなきゃいけないんだよ!!」

今泉の部屋に、怒鳴り声が響いた。


「『お前らの』っていうか、今泉君のクラスでもあるんだけどね」

重清は呑気に今泉へと返した。


「そこはいいんだよ!それより、何でそんなことになってんだよ!?」

「何でって・・・皆に約束しちゃったから?」


「『から?』じゃねーよ!とにかく!俺は絶対に嫌だからな!」

「えぇー、そこをなんとか!」

重清は、今泉へと拝み倒した。


「絶対に嫌だね!何で俺がそんなことを」

「だって、こんなにおもしろい小説家書くんだから、今泉君が台本書いたら、絶対に面白くなると思うんだよなぁ」

重清はそう言いながら、高々とスマホの画面を今泉へと向けた。


「なっ・・・・」

スマホの画面を見つめたまま、今泉は硬直していた。


何故ならばそこには、今泉しか知らないはずの、自身の作品が載ったサイトが見えたから。

さらにそこにははっきりと、自身の作品のタイトルがあった。


(コイツ、作品のフォローまでしていやがる。ありがとうございます!じゃねぇ!)


「お、お前、それをどこで・・・」

「どこって、この前パソコン除いたとき、思いっきりタイトル見えちゃったからさ。とりあえず検索してみたら、見つかっちった」

重清はそう言って、今泉に笑顔を向けた。


「お、お前、このこと誰かに話したか?」

「え?いや、誰にも話してないよ?話してよかった?」


「いや、ほんとそれ勘弁してください」

今泉は重清に頭を下げた。


「えー、これ本当に面白いのにー。この、主人公が伝説の剣をへし折るとこなんか・・・」

「やめて!?ものっすごい恥ずいからやめて!!」

今泉は耳を塞いで叫んだ。


「わかった!わかったから!書く!台本でもなんでも書いてやるから、もうその話はやめてくれっ!」

「いや、そんなに恥ずかしがることなんて・・・ってマジで!?台本書いてくれるの!?」

重清が驚きながらそう言うと、


「あ・・・・」

今泉は気まずそうに声を漏らしていた。


「言ったよね!?今、台本書いてくれるって言ったよね!?男に二言は無いよね!?」

重清は今泉へと詰め寄った。


「あー、クソっ!分かったよ!書けばいいんだろ、書けば!」

「よっしゃぁーーーっ!!」


「で、どのくらいの長さのものをいつまでに書けばいいんだよ?」

「え?あぁ、劇自体は15分しか持ち時間ないんだ。いつまでにかは・・・それは考えてなかったな。まぁ、なる早でお願いします」


「じゃぁ、明日また取りに来い。それまでに、大体のストーリー考えてやるよ」

「あざぁっっすっ!!」


「うるせぇよ。お前はいつも、人ん家で叫びすぎなんだよ」

「いや、今日は今泉の方が叫んでたからね?」


「誰のせいだと思ってんだよっ!!」


「あらあら、今日はいつにも増して賑やかね」


今泉が重清へと叫び返していると、今泉の母親が、笑いながらコーヒーとお菓子を運んでやって来た。


「あっ、おばさん!いつもすみません!」

「騒がしくてすみません、だろ?」

「ふふふ。鈴木君が来てから、健ちゃんが楽しそうだから私も嬉しいわ」


「ちょっ、友達の前で健ちゃんとか言うなよ!それ置いて、さっさと出ていけよっ!」

「はいはい。じゃ、鈴木君、ごゆっくりね」


「ありがとうございます!あっ、おばさん!今度おれらのクラス、文化祭で劇やるんです!それで、今泉君が台本書いてくれることになって!」

「ばっ、お前、余計なこと言うなよ!」

「あら、それは凄いわね!おばさんも、見に行っちゃおうかしら」


「是非来てください!その時は、今泉君を無理矢理にでも連れてきて!」

「あら、それは責任重大ね」

「誰が行くかよっ!!早くあっちに行けよ!」


今泉の言葉に、母親は笑顔を返して部屋を出ていった。


「それにしても今泉君」

重清は、ニヤッと笑って今泉を見つめた。


「な、なんだよ」

今泉はその笑顔に、顔を引きつらせた。


「おれのこと、友達だと思ってくれてたんだね」

「そっちかよ!絶対、『健ちゃん』をいじってくると思ったよ!」


「まぁまぁ、そう怒らないでくれたまへ、我が友、健ちゃんよ」

「うるせぇよ!わざわざいじらなくていいよっ!」


今泉は、重清に怒鳴り声をあげた。


しかしその表情は、どこか楽しげなのであった。

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