第394話:当主押し付け、もとい当主争奪戦 その7
「ドカンっ!」
重清の声と同時に、重清の指先からサッカーボール大の忍力の塊が、麻耶に向かって発射された。
(あれは、美影ちゃんと戦ったときにできた、『大忍弾の術』ね。確かあのノリさんが傷を負うほどの威力・・・でも)
「そんなスピードで、私に当てられるわけないでしょ!!」
麻耶は重清へと叫びながら、大忍弾の術を避けて重清へと向かって走り出した。
「やっぱ当たんねぇ!」
「まぁ、威力はあってもスピードが遅いからな」
そう言って頭を抱えている重清の耳に、
(やべぇ、大忍弾の術使って、忍力が―――)
足元をふらつかせる重清に、麻耶の蹴りが届くかに思えた次の瞬間。
「っ!?」
麻耶の全身に、公弘の鞭が巻き付いた。
浩に結界の方へと吹き飛ばされた公弘は、『武具伸縮の術』で自身の鞭を麻耶へと伸ばしたのである。
そのまま元の長さへと縮む鞭により、麻耶の体は公弘同様に結界の方へと引っ張られていった。
「重清!マキネッタを使うときは、技の力を意識して、それから、しっかり『当たれぇ〜っ!』って念じるんだぞっ!」
その言葉を残して、公弘は結界に吸い込まれるように、その場から姿を消した。
「麻耶っ!」
公弘が消える直前、浩は麻耶を引っ張る公弘の鞭に向かって剣を振り、斬撃を飛ばして鞭を切り裂いた。
「浩兄さん、ありが―――」
「くらえぇーーっ!!」
空中で鞭を振りほどくべく藻掻きながら浩へと向く麻耶の耳に、プレッソの声が響いた。
「あ・・・」
プレッソの声のする方に目を向けると、そこには麻耶に向かう大きな鉄の玉があった。
「久しぶりの『
「くっ!」
体中に巻き付いた公弘の鞭に藻掻く麻耶に
「浩兄さん、あとはよろ―――」
中途半端な声を残し、麻耶の姿もその場から消えていった。
「公弘め、初めからこれを狙っていたか」
麻耶が消えたのを確認した浩は、いつの間にか結界の外で缶ビールに手を伸ばす公弘を、苦々しく見つめていた。
「だが、これで残りは重清だけになったな」
そう呟いて重清に目を向ける浩の元へ、太がやって来た。
「やったね、兄さん。公弘がいなければ、俺の術で重清なんて簡単に―――」
「いや、悪いが太。お前の術はもう必要ない」
太の言葉を、浩は遮った。
「中学生相手に、大人2人がかりは卑怯じゃないか?」
そう言って笑う浩に、太は肩をすくめた。
「兄さんがそう言うんなら仕方ないね。じゃぁ俺は、一足先にリタイアするよ」
太はそう言って、結界の方へと歩き始めた。
「いや、別にリタイアしなくてもいいじゃないか。
俺が負けたらどうするんだよ」
呆れながらそう言って笑う浩に向き直った太は、
「兄さんが負けるわけないからね。それに・・・もしも兄さんが重清に負けたとしたら、俺が勝てるわけないし」
親指を立てて情けないことを堂々と口にした。
「じゃぁ兄さん、あとはよろしく」
そのまま太は、手をヒラヒラさせながら結界へと触れ、その場から消えていった。
「あれ?太兄ちゃん、なんでいなくなったの?」
重清が、トコトコと浩の元へとやって来た。
「重清に勝てる気がしないんだとさ」
呑気にそう言って近づいてきた重清に、浩は微かに笑って答えた。
「浩兄ちゃん、やっとおれと普通に話してくれたね。この前から、なんか怖かったよ」
「あぁ、悪かったな。ちょっと、色々あってな」
「ふぅ〜ん」
公弘から、浩が
「でもこれであとは、俺達と浩兄ちゃん、あ、チュウもいるんだっけ?」
重清はキョロキョロとチュウを探し始めた。
「いや、チュウなら麻耶がリタイアした時に、一緒に居なくなった。どうやら具現獣は、契約者と共にリタイアする仕組みみたいだな」
「おぉ、さすがばあちゃん。芸が細かい」
重清は言いながら、残念そうに手元のマキネッタへと目を向けた。
「あ〜ぁ。おれがリタイアしたらそれで終わりか〜。『あとはプレッソにお任せ』作戦、使えないじゃん」
「お前ら兄弟は、みんな人に頼るのかよっ!」
「まったく。重清は相変わらず緊張感が無いな。・・・じいちゃんの言ったとおりだよ」
「ん?なに?浩兄ちゃん、何か言った?」
「いや、何でもない。ほら、そろそろ決着つけるぞ。重清はまだ中学生だし、術は使わないでやるから」
「うぇ〜い。お手柔らかにお頼み申しま〜す」
浩の言葉に、重清はそう返しながらトコトコと浩から離れていった。
そんな重清の背を見つめていた浩は、
「じいちゃんの言ったこと、最後まで確かめさせてもらうよ」
そう呟いて、剣を具現化するのであった。
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